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ビーチボーイズ 傑作選 [ドラマレビュー]

1997年にフジテレビで放送された『ビーチボーイズ』より、第9話「この想い、君に届けたい」をご覧ください。
脚本はこのドラマの大ヒットによってトップ脚本家の地位を不動のものとした岡田惠和さんで、
私は『天気予報の恋人』のヒロイン・原田早知の原型は、このドラマに登場する前田春子にあるような気がしていました。
フジテレビ第一制作部の制作で、チーフディレクターは石坂理江子監督、第9話の演出は澤田鎌作監督です。


(7/15まで。本編動画の掲載は終了しました。)

『 ビーチボーイズ 』
Vol.9
( 1997年 フジテレビ 全12回 )

 

桜井広海(24) - 反町隆史
:お調子者で楽観主義者。一見するとかなりいい加減な性格だが、実際はかなり繊細で気を遣うところもある。民宿「ダイヤモンドヘッド」に来る以前はヒモをやっており、料理の腕はかなりのもの。元水泳選手。
鈴木海都(27) - 竹野内豊
:クールで冷静沈着、何事も論理的な視点から捉えようとするゆえ、少々頭が固く、負けず嫌い。元・エリート商社マンで、広海や様々な人に影響を受けるうちに会社を辞めることを決意し、「ダイヤモンドヘッド」に戻ってくる。
和泉真琴(17) - 広末涼子
:民宿「ダイヤモンドヘッド」の(自称)看板娘で、地元の高校に通う。母親は数年前に離婚しており祖父の勝と二人暮らし。母親とは捨てられたような形で別れたために複雑な感情を持っている。
和泉勝(63) - マイク眞木
:民宿「ダイヤモンドヘッド」の経営者。かつてはサーファーで、自称「日本で初めてサーフィンをやった男」。口は悪く性格は子供っぽいが、周りの人間に愛されている。広海や海都には「社長」と呼ばれている。
前田春子(26) - 稲森いずみ
:スナック「渚」のマドンナ。勝とは古くからの知り合いで、家族ぐるみで付き合っている。毎日来るはずのない「彼」からの手紙を待っている。

脚本
音楽
主題歌
演出
プロデュース
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岡田惠和
武部聡志
反町隆史 with Richie Sambora 「Forever」
石坂理江子、澤田鎌作、木村達昭
亀山千広、高井一郎

出典:Wikipedia

 

夏のドラマはヒットしないというジンクスを打ち破った名作。平均視聴率23.7%。ここにも「亀の手」ありですね。

主演のお二人がこのドラマのヒットを機に大きく飛躍していったのは周知のことです。
反町隆史さんは『バージンロード』の後、『GTO』の前、
竹野内豊さんは初主演となった『理想の結婚』の後、『WITH LOVE』の前ですから、
このドラマの成功
が彼らの人気を決定付けたと言っていいでしょう。翌年には続編となるスペシャルドラマが放送されました。

広末涼子ちゃんはこの当時、NTTドコモのCMで瞬く間に人気者になって、女優としての露出も増えだしたころです。
『沙粧妙子-最後の事件-』や『ロングバケーション』で鮮烈な印象を残していたものの、
連続ドラマにがっつり出演したのは本作が初めてで、当時の彼女のイメージを投影させた等身大の女の子の役でした。
それと真琴の同級生役だった佐藤仁美ちゃんは、『家政婦のミタ』でのお隣の主婦役が記憶に新しいですね。
彼女は何気にホリプロスカウトキャラバン出身という。川岡大次郎くんも地道に俳優業を続けておられるようです。

稲森いずみさんは、何と言っても本作の前年、『ロングバケーション』の桃ちゃんが強烈なインパクトを残しました。
Wikipediaを見ると『上を向いて歩こう!』がデビュー作となっているのですが、全然覚えてません。
その後の『29歳のクリスマス』はよく覚えています。そう考えるとこの方もつぶさに拝見してきた女優さんの一人です。
近作では『アイシテル~海容~』の母親役が話題になりましたが、『忠臣蔵 瑤泉院の陰謀』がとても印象に残っています。
すごい美人さんなのにご結婚されてないですよね。ちょっと不思議な方です。現在40歳とはとても思えません。

ドラマの話に戻ります。
本作最大の魅力は、性格が正反対の主人公二人が織り成す絶妙なコンビネーションであり、
ストーリー的な焦点は、まったく異なる生き方をしてきた二人が人生における共通の課題に向き合うところにあります。
この二人に友情が芽生えるまでの過程は、どこか『天気予報の恋人』の早知と祥子の関係も彷彿とさせます。
もっと飛躍すれば、『最後から二番目の恋』の和平と千明の関係の方がこれに近いかもしれません。

今回のエピソードは、春子の隠された過去にスポットライトを当てたほぼ1話完結型なのですが、
実はこの次回に登場する真琴の母親(=勝の娘)との関係にブリッジするエピソードでもあり、大変巧みな構成になっています。
また、ここに至るまでの伏線として、春子は生き別れの子供からの手紙を心待ちにしている姿が何度も描かれており、
今回はいよいよその手紙が春子の元に届けられ、登場人物たちも我々も春子と息子の関係を知ることになります。
このエピソードで軸となっているのは、春子が抱く母親としての相反する二つの感情とそこから生起する葛藤です。

春子が抱える事情を前に広海は、春子は母親であることを名乗り出るべきだと主張します。
一方で、事はそう単純ではないと考える海都は、春子自身が決めるべきことだとして、二人の思いがぶつかり合います。
そこに現れた春子は、「母親として」子供のことを一番に考えれば結論ははっきりしていると、
自分のことのように熱くなる二人をよそに、もうすでに「名乗り出ない」という決断をしているのです。
春子の母親としてのささやかな願望は、春樹にここで過ごしたことをいつまでも覚えていて欲しいというものでした。
彼女の願いを叶えるためにビーチボーイズたちが一肌脱ぐと、かけがえのない夏の思い出が完成しました。
しかし、春子は春樹との別れ際、唐突に一度は折り合いをつけたはずのもうひとつの感情に襲われるのです。

 「あなたの幸せを願っている母親がここにいます」2012070801.jpg

春子は、そのたった一言が言えないもどかしさ、つらさ、せつなさを思い知ります。
人間にとって「本当の気持ち」を隠しておくことはとても苦しいことだし、不健全なんだと思います。
春子はもう伝えられないその思いを海に向かって叫ぶことによって、自分の気持ちに決着をつけたのです。
その後の春子の笑顔の清清しさと言ったらありません。
また、いずみちゃんが見せた「母親の顔」も迫真でした。
春樹に「このおばちゃん誰?」と言われてしまったシーン、春樹との別れのシーン、展望台から叫ぶシーン、
どれも「名乗れない母親のせつなさ」を宿した素晴らしい表情のお芝居です。
このときのお芝居が『天気予報の恋人』の原田早知へとつながっていきます。

さて、このドラマが名作たる理由のひとつにはやはり音楽の存在は欠かせないでしょう。
本作のオリジナルサウンドトラックは「テレビドラマ史に残るサントラの名盤」と言っていいと思います。
音楽を担当した武部聡志さんは、もともとユーミンのサポートメンバーで、
この当時は松たか子さんなど、何人かのアーティストのプロデュースも手がけておられたようですが、
テレビドラマのサントラを手がけたのはこれが初めてだったと記憶しています。
この後、武部さんがプロデュースした一青窈さんの「ハナミズキ」が大ヒットします。
記憶に新しいところでは、映画「コクリコ坂から」のサントラが武部聡志さんでした

本作のサントラの特徴はもちろん「夏らしさ」あるいは「夏の終わり感」ではありますが、
とくにボーカル付きのこの2曲が、本作の印象を決定付けていると
思います。
「Sing a Love Song For Me」のボーカルは山口由子さんです。もう一曲は主題歌のアレンジなのですが、見事な仕事です。

  

以下は余談ですが、岡田惠和さんが本作の企画段階の裏話としてこんなことを著書に書いておられました。

 

海が舞台であることには変わりないんですが、広末涼子ちゃんと反町君が兄弟で、たしか血がつながってなかったりして、まぁ仲のよい兄弟で、彼女の通う、海辺の女子高の、新任の化学(生物だったかな?)の先生が竹野内君で、で、彼女は先生を好きになって、で、今まで女として意識してなかった、兄も何だか、穏やかじゃなくなって・・・みたいな感じだったと思うんですけど。そんな感じになりつつあった時期が、三日間ほどありました。

岡田惠和著 『ドラマを書く』(1999年 ダイヤモンド社)P.64より

「月9」というブランドに引っ張られたありふれた企画ですねぇ・・・なんか『妹よ』みたい。
こんなところから作品が形作られていくんですからすごいもんです。『ビーチボーイズ』が生まれて本当に良かったですね。

それとこちらは有名な話ですが本作の主人公の役名は、岡田さんの二人の息子さんの名前を拝借したとか。
岡田さんは後にこんなことを述べておられます。

 

海に関するドラマを作ることになったとき、それっぽい名前でしかも二人の名前が似ているようで違う名前にしようと思ったわけですが、正直言うとなかなか思いつかなくて、悩んでいるときに、気がついてしまったのです。なんだ、ここにぴったりのがいるじゃないか・・・。で、企画書になにげに書いてみたのですが、それがそのまま通ってしまって・・・。でも言えなかったんです、誰にも。(中略)やっと告白したのが、打ち上げの日でしたから・・・。(中略)ウチの広海君と海都君がどうしても、本物(どっちが?)に会いたいというので打ち上げパーティに連れて行くハメになってしまったわけです。で、ご対面・・・。反町君と竹野内君が「名前は?」って優しく聞いてくれて、ウチの子が「広海です」「海都です」と答えた時の二人のきょとんとした顔は忘れられません。

岡田惠和著 『ドラマを書く』(1999年 ダイヤモンド社)P.87-P.88より


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