(P)コクリコ坂から [映画プレビュー]
(C)2011 高橋千鶴・佐山哲郎・GNDHDDT |
『 コクリコ坂から 』
( 7月16日公開 東宝 91分 公式サイト▼ )
監督:宮崎吾朗 脚本:宮崎駿、丹羽圭子 主演:長澤まさみ、岡田准一
※ この記事は、作品を鑑賞する前に執筆したプレビューです。
スタジオジブリの作品を映画館で観たいと思ったのは、『猫の恩返し』(2002年 森田宏幸監督)以来でしょうか。
私はスタジオジブリの第1回作品『天空の城ラピュタ』(1986年)を小学生の時にリアルタイムで観た人間なので、
ジブリのアニメを観て育った最初の世代と言ってしまってもいいと思うのですが、
大人になったからということもあるのか、近年は急速にジブリアニメに対する関心を失ってしまっています。
自分なりにそのターニングポイントを分析してみると、『もののけ姫』(1997年)は非常に大きな意味を持っていて、
私は宮崎駿監督が作り上げた世界観にまったく対応できなかったし、嫌悪感すら抱いてしまったというのが正直なところです。
ああいう世界観を持った物語を夏休みの親子連れに観せて何を感じろというのでしょうか。私にはいまだに理解できません。
というわけで私は宮崎駿監督の映画表現上の「進化」に完全に置いてきぼりを食らってしまい、
これ以降の宮崎駿監督の作品は映画館ではもちろん、テレビでもちゃんと観たことがありません。
ちなみに私は宮崎駿監督が「映画って感情だけで作っちゃだめなんですね」と酷評した
宮崎吾朗監督の『ゲド戦記』(2006年)には好感を持っていて、そのストレートなメッセージ性は、
お父上の難解な世界観よりもよっぽど夏休み映画にふさわしいものだったと思っています。
私は好きなジブリ作品をひとつ挙げろと言われれば、迷わず『耳をすませば』(1995年 近藤喜文監督)と答えます。
この作品については以前、主に演出面についてレビューを書いたことがあるのですが、
作品のテーマから背景にまで言及して文章を書こうと思ったら、論文のようになってしまうぐらい思い入れが強くて、
映画やドラマのレビューを書いていく上でのひとつのスタンダードとなっている作品でもあります。
それだけに近藤喜文監督の訃報を聞いたときは本当にショックだったし、もし近藤監督が健在だったら、
私がジブリアニメに対する関心をここまで失うこともなかったかもしれないという感慨も抱いています。
そういうこともあって私は数年来『耳をすませば』と近藤喜文監督の路線を継承する作品を待望していたところがあるのですが、
本作のチラシの裏に掲載されている宮崎駿監督の「企画覚書」を読んだときに直感的に「これだ!」と思いました。
以下、企画のための覚え書き「港の見える丘」(企画 宮崎駿)より引用。(⇒全文)
「コクリコ坂から」は、人を恋(こ)うる心を初々しく描くものである。 少女も少年達も純潔にまっすぐでなければならぬ。異性への憧れと尊敬を失ってはならない。 出生の秘密にもたじろがず自分達の力で切りぬけねばならない。それをてらわずに描きたい。 |
2行目までは、タイトルを「耳をすませば」に置き換えてもそのまま通用することは明白でしょう。
私は本作が夏休みに親子で観るのにふさわしい純然たる青春物語になっていることを期待すると同時に、
ジブリアニメに対していつのまにか疎遠になってしまった私のような大人が
古き良き時代へのノスタルジーに駆られるような「大人のためのジブリ作品」になっていることを期待しています。
『ゲド戦記』を観る限り、宮崎吾朗監督はそれを実現することができる方のような気がするし、
願わくば近藤喜文監督の継承者となりうることを本作を通じて証明していただきたいとも思っています。
(付記)
本日放送の長澤まさみちゃんのラジオになんと宮崎吾朗監督がゲスト出演されます。
7月10日(日)22:00~ ニッポン放送 『長澤まさみ Sweet Hertz』 ※地域によって放送日時が異なる。
このお二人、どんなトーンで会話されるんでしょうね。
まさみちゃんは『岳-ガク-』の片山修監督に対してはかなりリラックスしてお話してましたけど、
宮崎吾朗監督に対してはそういう感じじゃないような気もしています。
監督のお話をちゃんと聞くのも初めてだし、すごく興味深い放送になりそうです。
関連記事 : 耳をすませば (2009-12-16)
海がきこえる (2009-12-03)
(P)小川の辺 [映画プレビュー]
(C)2011「小川の辺」製作委員会 |
『 小川の辺 』
( 7月2日公開 東映 103分 公式サイト▼ )
監督:篠原哲雄 脚本:長谷川康夫、飯田健三郎 出演:東山紀之、菊池凛子、勝地涼、片岡愛之助
※ この記事は、作品を鑑賞する前に執筆したプレビューです。
私としては藤沢周平の小説が映画化されれば、
観ないという選択肢はありえず、本作についても早い段階から注目していて、その期待は大きいです。
本作は『山桜』(2007年 東京テアトル)とほとんど同じ制作スタッフであり、
特に脚本のお二人は藤沢作品の映像化では絶対的な信頼を置いていいと思っています。
また、演出的側面から見ると、私は過去の藤沢作品の映画化では黒土三男監督の『蝉しぐれ』(2005年 東宝)が
もっとも的確に藤沢作品の世界観を表現していたと思っていて、
これは私の印象ですが、篠原哲雄監督は、著名な山田洋次監督の三部作というよりも、
黒土監督がライフワークとし、一連の藤沢作品で完成させた表現手法を踏襲しているような気がしています。
そして、私が本作にあってもっとも期待を寄せているのが主演の東山紀之さんです。
私は決して出番が多くはなかった『山桜』における東山さんのお芝居を拝見したとき、
こんなにも武士らしいたたずまいをしっかりと表現できる俳優さんは今日の日本映画界では稀有だと率直に感じました。
台詞が極端に少なかったこともあって、その武士らしい凛とした表情とたたずまいが強烈に印象に残っており、
本作の主演が東山さんだと知ったときは大いに納得したし、当然の成り行きだったと思っています。
私は山田洋次監督が『武士の一分』(2006年 松竹)の主演に木村拓哉さんを抜擢した理由を永遠の謎だと思っていて、
あの作品が失敗したところをひとつ挙げるとすれば、真っ先に主演俳優の名前を言いたくなるぐらいです。
木村拓哉さんが決定的に表現し得なかったのは「武士らしさ」で、
これは言うまでもなく作品の根本を揺るがす重大な要素です。ちょっと失礼な言い方になるかもしれませんが、
私生活で自分を律したことがない人が武士を演じるとこうなってしまうという悪例だったと思っています。
彼の劇中での歩き方ひとつとっても、「正中」に対する意識がまったく感じられず、
それだけで武士に非ざる浮ついた印象であり、私は冒頭数分で早くも「この人、武士じゃない」と思ったのを覚えています。
私は木村拓哉さんの初時代劇作品となった『忠臣蔵1/47』(2001年 フジテレビ)を観たときに、
この人はもう2度と時代劇に出演するべきではないと思いました。
初挑戦となった殺陣について、彼は「様式美に捕らわれない泥臭い斬り合いを表現した」というようなことを言っていましたが、
これは要するに「自分には殺陣はムリでした」ということを白状したも同然であり、
結局この方が俳優としては何も極めていない理由がなんとなくわかったのがこの時でした。
『武士の一分』のクライマックスにおける木村さんのへっぴり腰を見て、やっぱり極められなかったということを確認したのですが、
もっとも役柄が盲目だということを考えれば、これはある意味リアルな殺陣なのかもしれません。
なるほど山田洋次監督の狙いはそこにあったのか!・・・というのは皮肉です。
少なくとも木村さんが正攻法の殺陣をやらずに済んだのは確かですが。
それに対して、私は『山桜』で初めて東山紀之さんの殺陣を拝見したのですが、
たった1シーン、ほんの2分足らずの鮮やかな殺陣に完全に魅了されてしまいました。
「もっと見たい!」そう思わせる殺陣であり、私としてはその思いが数年越しに叶うことをとても喜んでいます。
また、『山桜』のメイキングや本作の宣伝のために東山さんが出演しているトーク番組などを拝見していると、
俳優という仕事にかけるプロフェッショナルな姿勢を垣間見ることができます。
ご自分では茶化し気味にお話されていますが、腹筋を1日1000回することを課すなど、
普段から自分を律するような生き方をされており、そういう目に見えない心構えは武士の生き様からもそう遠くはないはずです。
真に美しい武士のたたずまいというものは、「演じる」ことで表現するものではなく、「心構え」で表現するものだと思います。
『山桜』メイキング http://youtu.be/gYpvY7QxIbk http://youtu.be/PyhwB3z-abc |
「土台がしっかりしていれば、自ずとそういう男になっていくような気がしますし、楽しくというよりも、厳しく演じていきたい」
武士を演じるということは、我々の想像を絶する厳しさがあるに違いありません。
自分を律することができる俳優にしか武士を演じる資格はないのです。
東山紀之さんはそれを兼ね備えた近年では貴重な俳優さんであり、本作は待望の主演作品です。
関連記事 : 必死剣 鳥刺し (2010-07-31)
花のあと (2010-04-03)
山桜 (2009-09-27)
(P)岳-ガク- [映画プレビュー]
『 岳-ガク- 』
( 5月7日公開 東宝 125分 公式サイト▼ )
監督:片山修 脚本:吉田智子 主演:小栗旬、長澤まさみ
※ この記事は、作品を鑑賞する前に執筆したプレビューです。
ここ数週、長澤まさみちゃんが引くぐらい映画宣伝のためにテレビに露出していますが(^^;、
東宝としてはこれ以上、看板女優で失敗するわけにはいかないということなのでしょう。
これだけテレビで映画タイトルを連呼すれば、さすがに興行的に失敗する可能性は小さいとは思いますが、
純粋に「女優・長澤まさみ」のことを思うと、この映画がヒットしても根本的な問題は解決されないような気がします。
正直言って、この役が彼女に合っているとは私には思えません。
一方で、私は小栗旬くんがこの映画で新境地を開拓してくれているような予感を覚えています。
私はこれまで小栗旬という俳優を世間が言うほど評価したことはありません。
というのも近年の彼を見ていると、実は身の丈に合った役を演じてこなかったのではないかと私は考えています。
以下に私が観たことがある主な小栗旬出演作品を列挙します。
『ロボコン』(2003年 東宝)
『天国のダイスケへ~箱根駅伝が結んだ絆~』(2003年 日本テレビ)
『救命病棟24時 第3シリーズ』(2005年 フジテレビ)
『キサラギ』(2007年 ショウゲート)
『天地人』(2008年 NHK)
『東京DOGS』(2009年 フジテレビ)
『獣医ドリトル』(2010年 TBS)
この他に、『世界ウルルン滞在記』(2001年)と、伝説の(?)『情熱大陸』(2007年)を拝見しています。
そんなにたくさん彼の作品を観ているわけではありませんが、
『天地人』以降、彼が演じる役柄が変わってきているのがなんとなくお分かりいただけると思います。
『天地人』では主人公・直江兼続の盟友だった石田三成という超重要な役を演じてかなり注目されました。
このドラマのストーリーを技術的な観点から振り返ると、
私は石田三成というキャラクター作りはとてもうまくいっていたと思っています。
しかし、果たして小栗旬くんがこの役をしっかりと手の内に入れていたのかというと、疑問符を付けたくなってしまいます。
翌年の『東京DOGS』では、明らかにこのときの石田三成像を意識したキャラクター作りがなされており、
これは、大河ドラマを観たフジテレビプロデューサーの「錯覚」に基づいて作りあげられた役柄だったと思っています。
小栗旬くんのファンならば、このドラマの中の彼を「かっこいい」と思えたかもしれませんが、
私には彼が「とんでもないキャラクター」に最後まで戸惑い、苦しんでいたように見えました。
ちなみに私は『東京DOGS』を月9史上屈指の「隠れ駄作」と評しています。
この延長線上にあるのが、『獣医ドリトル』で、
小栗旬に対する周囲のイメージによって作り上げられた役柄に
ようやく彼自身が追いついてきたというような印象を持って観ていました。
だたし、同時に彼の「居場所」はここではないような気がしていたのも事実です。
私は、この『岳-ガク-』の劇場用予告編(下の予告編とは異なるようだ)を初めて観たときに
なんとなく小栗旬の居場所はここなのではないかと思いました。そう思わせてくれたものは、彼の「笑顔」です。
そう言えば、昔から小栗旬とは、よく笑う、笑顔が素敵な青年だったことを今ごろ思い出した気がしました。
小栗旬初監督作品『シュアリー・サムデイ』などを観ても、実は、彼はいい意味での精神的な幼さを保持した俳優であり、
私は、(映画監督としては話は違うが)俳優としてはこれからもそういう精神をひとつの武器としていくべきだと思っています。
この映画の中で見せる「笑顔」こそが、俳優・小栗旬の最大の武器となる可能性を大いに秘めているような気がしています。
一番上に貼り付けた画像は、公式ホームページでダウンロードできるものなんですけど、この笑顔なんです。
実は、私はこれをPCの壁紙にしていて、それぐらい魅力的な表情だと思っています。
惜しむらくは、長澤まさみちゃんとの2ショットバージョンも作って欲しかった・・・。
お二人の魅力的な表情がスクリーンの中でたくさん観られることを期待しています。
関連記事 : 岳-ガク- (2011-05-31)
(P)太平洋の奇跡 -フォックスと呼ばれた男- [映画プレビュー]
(C)2011 「太平洋の奇跡」製作委員会 |
『 太平洋の奇跡 』
( 2月11日公開 東宝 128分 )
監督:平山秀幸 脚本:西岡琢也/Gregory Marquette・Cellin Gluck 主演:竹野内豊
※ この記事は、作品を鑑賞する前に執筆したプレビューです。
私は、ハリウッド映画の類をほとんど真剣に見たことがないのですが、
オリバー・ストーン監督の『プラトーン』を中学生のころに観て衝撃を受けて以来、
アメリカのメジャーな戦争映画だけはほとんど網羅しています。
そして、『プラトーン』は戦争映画のひとつのスタンダードだと思うようになっています。
ただ、『プラトーン』は、あくまでもアメリカ映画であるということを忘れてはなりません。
アメリカは大戦後、泥沼のベトナム戦争やイラク戦争を経験しているほか、世界各地で代理戦争を主導してきました。
そして、軍需産業を国を挙げて支援し、その軍事費を増大させてきたのがアメリカという国なのです。
そういう背景があればこそ、アメリカの映画監督たちは戦争映画の中に反戦映画というジャンルを確立したのであって、
古今東西、戦争を取材した映画がすべて「反戦」をテーマにしていると考えるのは間違いです。
もちろん受け止める我々は究極的にはそこに行き着くべきだとは思いますが、
「戦争映画=反戦映画」という先入観はあまり持たない方がいいと思います。
特に日本人が戦争映画に「反戦」というテーマをすぐに求めたがるのは、
それらのアメリカ映画の影響以外に、大東亜戦争を全否定する戦後教育の影響は大きいと思います。
ここで言う「全否定」とは、あの戦争そのものを間違いだったとするとともに、
あの戦争の最前線で戦った人たちまで否定してしまう考え方です。
否定というよりも歴史から抹殺しているとまで言ってもいいかもしれません。
私はこの『太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男-』という映画は、
戦後の歴史教育が抹殺してきた「あの戦争を戦った人たち」を描いた作品だと捉えています。
この映画はおそらく『俺は、君のためにこそ死ににいく』(2007年 東映)に近い作品で、
その意味では日教組あたりから「戦争を美化している」などという批判が出るのは目に見えています。
『俺は、君のためにこそ死ににいく』を受け付けない方はこの映画を観ないほうがいいでしょう。
一方でこれを「あの戦争を戦った人たちに敬意を表している」と言い換えられる人にはぜひ観て頂きたいと思います。
そして、特筆すべきは、この物語の原作があの戦場にいたアメリカ海兵隊員によるものであるという事実です。
『最後の忠臣蔵』(2010年 ワーナー・ブラザーズ)がアメリカの映画会社によって映画化されたように、
日本人としてのアイデンティティや誇りといったものを外国人から教わらなければならないことを我々は恥じるべきです。
さらに、教わりながら理解できないとすれば、もう「日本人」は世界に存在していないも同然です。
あの戦争を戦った人たちの存在から目を背けたり、彼らが成し遂げたことを否定したりすることは、
日本人であることを拒否することに他ならないからです。
この映画を鑑賞される前にこちらの動画をご覧になることを強く推奨します。
原作者ドン・ジョーンズ氏の言葉 |
タッポーチョ 太平洋の奇跡
ドン・ジョーンズ(著) 中村 定(翻訳)
( 祥伝社文庫 / ISBN-10:4396315368 )
※ この映画の原作は、1982年に日本向けに出版された「タッポーチョ―「敵ながら天晴」大場隊の勇戦512日」という元米海兵隊員のドン・ジョーンズ氏による長編小説で、主人公の大場栄元陸軍大尉が監修として関わっています。これは絶版となっていましたが、映画公開に先立つ2月4日、新装版が出版されました。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
ちょっと真面目な話になってしまいました、、、(^^;。
とにもかくにも、この映画のスタッフ・キャストを確認しておきましょう。
監督 - 平山秀幸 『必死剣 鳥刺し』『レディ・ジョーカー』『愛を乞う人』
脚本 - 西岡琢也 『沈まぬ太陽』『火垂の墓』『陽はまた昇る』
音楽 - 加古隆隆 『最後の忠臣蔵』『明日への遺言』『博士の愛した数式』
主演 - 竹野内豊 『流れ星』『さまよう刃』『冷静と情熱のあいだ』
渋い・・・。
私としては、この映画への期待は以上のスタッフ・キャストを見るだけでも否応なく高まってしまいます。
一方で、本邦映画史上、戦争映画の傑作というものはほぼ皆無であり、
日本人にはやはり戦争映画は撮れなかったということもありえるかもしれません。
たとえば近年の日本映画では『真夏のオリオン』という戦争映画の悪例があります。
これは戦争映画というよりもエンタテインメント作品だと言われればそれまでですが、
だとしても史実を舞台・題材としている以上、娯楽作品に仕上げる目的で
登場人物を現代風にアレンジしてしまうのは愚行としか言いようがありません。
今や先の大戦を描いた戦争映画は、ある部分では「時代劇」であり、
そのストーリー構築にあたっては現代的価値観を持ち込んではならないと思います。
平和ボケした日本人の心をくすぐるような安易な感動エピソードの積み重ねは避けて欲しいし、
戦争という極限状況の中で生まれる人間の汚い部分もしっかりと盛り込んで欲しいところです。
脚本は『沈まぬ太陽』の西岡琢也さんなので「間違い」はないと思うんですけど、
そのあたりの作り手のバランス感覚は注視したいと思っています。
平山秀幸監督は、『必死剣 鳥刺し』で武士の生き様を鮮烈に切り取った方ですから、
今度も大場栄大尉の生き方や考え方を通じて日本人の誇りをしっかりと描いてくれるでしょう。
また、俳優さんのお芝居を真正面から真摯にとってくれる監督なので、
今の竹野内豊さんのお芝居のいいところを最大限に引き出してくれているはずです。
主人公の大場大尉は、寡黙な中に信念を感じさせるという部分では、
『必死剣 鳥刺し』の主人公ともかぶるところがあって、
平山監督は竹野内さんの無言の表情を捉えるショットを多用しているような気がしています。
表情の隠微で表現する心情というものは、竹野内さんが『流れ星』でも随所で見せてくれていたものだし、
彼のお芝居の最大の武器だと思います。それを今度はスクリーンで見られることが本当に楽しみです。
また、竹野内さんにとって『流れ星』の健吾は等身大の部分も小さくはなかったと思うのですが、
今度の役柄は軍人という特殊なもので、がっつりと役作りが要求されたはずですから、
竹野内さんがどんな大場大尉を作り上げてくるのかも楽しみにしています。
そして、作品の成功を決定付ける最大の要素は、
作品に作り手の想いが宿り、それがしっかりと我々に伝わってくるかどうかであり、
私はこの映画が彼らの想いを汲み取る作業に没頭できる作品であることを願いつつ、映画館に足を運びたいと思います。
関連記事 : 太平洋の奇跡 (上)(2011-02-27)
太平洋の奇跡 (下)(2011-03-01)
太平洋の奇跡 (コメント欄より)(2011-03-06)
太平洋の奇跡 (追記)(2011-08-22)
( 参考 ) | サイパンの戦い | サイパンの戦い・マリアナ沖海戦 | ||||||
大場栄 | 池上彰の戦争を考える 玉砕の島サイパン |
(P)君に届け [映画プレビュー]
『君に届け』
(9月25日公開 東宝 128分 公式サイト▼)
監督:熊澤尚人 脚本:根津理香、熊澤尚人 主演:多部未華子、三浦春馬
※ この記事は、作品を鑑賞する前に執筆したプレビューです。
『ハナミズキ』のような原点回帰ともいうべき王道のラブストーリーが映画化されたことをとても喜んでいるところですが、
続けざまに本作のようにベタ(と思われるよう)な「青春ラブストーリー」を観ることができそうなのはとてもいい傾向です。
原作は大変有名なマンガということですが、私はマンガというものを読まないので、まったく存じ上げませんでした。
ただ、映画館で配られていた50ページほどのサンプルを読ませていただきまして、私なりに予習をしております。
「経験したことのない感情への戸惑い」「気持ちが通じ合った喜び」「すれ違う想い」「届かぬ想い、届いた想い」・・・
誰もが経験し、誰もがその経験を大事にし続けているようなありふれた青春時代の日常をテーマとして、
きわめて普遍的な感情を汲み取って表現することに真っ向から取り組んだ良作だと思いました。
私としては、何と言っても『おと な り』(2009年)以来の新作となる熊澤尚人監督が
ベタな青春ラブストーリーをどのように撮るのかに大きな関心があります。
熊澤監督は、登場人物の心情を映像によって掬い取ることができる優秀な映像作家であり、
ありふれた日常と普遍的な感情どうやって切り取っていくのか、本当に楽しみです。
また、原作を愛する方たちがどのように感じているのかわかりませんが、
主演の多部未華子ちゃんは本作の主人公に見事にはまっているような気がしています。
私は、多部未華子ちゃんは同世代の女優さんの中では、かなりの技巧派だと思っていて、
『GM~踊れドクター』では、初挑戦となるコメディにもとても上手に対応していたと思います。
多部ちゃんが本作の主人公のようなちょっとクセのある役柄にどのように対応するのかにも注目です。
もうひとりの注目は、主人公の友人役で登場する連仏美沙子(れんぶつみさこ)ちゃんです。
ちゃんとお芝居を観たのは『ハナミズキ』がほとんど初めてだったんですけど、
若いのにしっかりとした芯のあるお芝居ができる女優さんという印象を持ちました。
個人的には、純粋にお芝居だけを評価して、女優としてのポテンシャルを測れば、
たとえば本作でも共演している桐谷美玲ちゃんあたりよりもずっと大きな可能性を秘めているような気がしています。
おっさんがいい年して青春ラブストーリー映画を本気で観るつもりですが、何か?(^^;
映画ファンという立場からしても、とても見所の多い映画だと思っています。