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2012年第1四半期のドラマ [ドラマレビュー]

TermTitleKey StationCastScriptC.D.RatingMy Rating
1ラッキーセブンフジテレビ松本潤、瑛太早船歌江子佐藤信介15.59%☆☆☆☆
ストロベリーナイトフジテレビ竹内結子、西島秀俊龍居由佳里佐藤祐市15.39%★★★★★
ハングリー!関西テレビ向井理、瀧本美織大森美香本橋圭太12.68%★★★☆☆
タイトロープの女NHK池脇千鶴、高岡早紀金子ありさ梛川善郎05.18%★★★★
大地のファンファーレNHK高良健吾山本むつみ陸田元一-★★☆☆☆
本日は大安なりNHK優香西荻弓絵渋谷未来04.13%★★★☆☆
聖なる怪物たちテレビ朝日岡田将生、中谷美紀荒井修子藤田明二07.77%★★★☆☆
最後から二番目の恋フジテレビ小泉今日子、中井貴一岡田惠和宮本理江子12.36%★★★★★
とんびNHK堤真一羽原大介梶原登城08.10%★★★★★
キルトの家NHK山﨑努、松坂慶子山田太一本木一博06.95%★★★★★
運命の人TBS本木雅弘、松たか子橋本裕志土井裕泰12.04%★★★★
妄想捜査テレビ朝日佐藤隆太、桜庭ななみ森ハヤシ小泉徳宏05.45%★★★★
分身WOWOW長澤まさみ田辺満永田琴 -★★★★
 ※ 脚本担当者が複数いる作品については、トップクレジットを表記している。※ 視聴率は全話の加重平均(ビデオリサーチ社、関東地区)。

【 総評 】 今クールは真剣に観なければならないドラマが多くて大変だったというのが第一の感想です。作品のクオリティをトータルで評価すれば、近年では最もレベルが高いクールだったのではないでしょうか。もちろん今クールに限らず観ていないドラマの方が多いので、私の感覚的なものでしかありませんが。以下は当然私が観た作品の中での評価ということになります。

ジャニスカ的最優秀作品賞
  最後から二番目の恋
(フジテレビ)
 
 <優秀作品賞>
『ストロベリーナイト』
(フジテレビ=共同テレビ)
 

【 作品 】 この2作品が飛び抜けていたのが今クール。実は『最後から二番目の恋』の最終回を観るまでは『ストロベリーナイト』を上位に採るつもりでした。『最後から二番目の恋』(フジテレビ)については当該レビューにも書いたとおり、個人的にはテーマ設定、キャラクター造形、表現手法、タイトルの意味などあらゆる面で衝撃的なドラマでした。一見して軽いテイストの中に深いテーマを盛り込むという、テーマと表現の方向性が一致しない珍しいドラマでした。このドラマのテーマについては、私なりの結論を当該レビューのコメント欄に書きましたのでそちらをご覧ください。『ストロベリーナイト』(フジテレビ)は、これまでにない刑事ドラマを作り上げたという意味で高く評価しなければならなりません。「これまでにない」という意味は、物語の主軸を「事件」ではなくて「主人公の人間ドラマ」に仕立てている点で、本作における事件とは一貫して主人公の引き立て役でした。さらに脇役の人間ドラマをもしっかりと構築して間接的に主人公を魅力的に見せるという、「事件が主役」だった近年の刑事ドラマに対するアンチテーゼとでも言うべきドラマでした。その他のドラマでは意外にも『妄想捜査~桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』(テレビ朝日)を真剣にバカバカしさに徹したコメディとして高く評価しているのと、『聖なる怪物たち』(テレビ朝日)と『分身』(WOWOW)は純粋にストーリーを楽しめる良質なドラマでした。

ジャニスカ的最優秀監督賞
 宮本理江子
(『最後から二番目の恋』)
 
 <優秀監督賞>
佐藤祐市
(『ストロベリーナイト』)
土井裕泰
(『運命の人』)
 

【 演出 】 『最後から二番目の恋』の宮本理江子監督(フジテレビ)の演出手法についてはすでに『流れ星』のレビューで詳しく述べておりますので、あわせてご覧いただきたいのですが、やはり今作においても役者さんのお芝居を正攻法で撮るという宮本演出の特徴は健在でした。主人公二人の掛け合いのシーンはスタジオ、ロケを問わず、ほぼ1カットで撮っているものが多かったように思います。最終回で言えば、主人公二人がバーのカウンター席で並んで会話をするシーンなどがその典型で、複数のカメラを使用することによって、役者さんのお芝居を切らずに撮影することが可能となります。以前にも述べたとおり、これは監督自身が小細工をして何かを生み出してやろうという発想ではなく、役者さんが流れの中で生み出したもの(偶発的なものを含む)を掬い取ろうとする姿勢で、ドラマ監督にとってはこの手法を採用すること自体が案外難しいことなのです。特に若いディレクターは撮影で勝負せずにポスプロで映像をいじろうとする傾向にあり、こういう肝の据わった演出はベテラン監督ならではのものでしょう。その意味では、『運命の人』の土井裕泰監督(TBS)の演出もそういうベテランらしさを存分に感じることができましたが、こちらは時として細かいテクニックを用いて、ストーリー展開によってうまくメリハリをつけていたところはさすがでした。『ストロベリーナイト』の佐藤祐市監督(共同テレビ)はこのお二人の演出とは対照的で、台詞で表現しない部分を「絵」で見せていく手法を特徴としており、この方はどちらかと言えば映画監督に近い映像作家というイメージです。

ジャニスカ的最優秀脚本賞
 岡田惠和
(『最後から二番目の恋』)
 
 <優秀脚本賞>
龍居由佳里・黒岩勉・林誠人・旺季志ずか
(『ストロベリーナイト』)
金子ありさ
(『タイトロープの女』)
 

【 脚本 】 今クールはしっかりとした実績のある脚本家が書いたドラマはしっかりと面白かったという印象です。ここまできたらもう言うまでもないと思いますが、『最後から二番目の恋』はテーマ表現から台詞回し、各話の構成に至るまで大変レベルの高い脚本でした。この脚本の最大のみどころは何と言っても主人公二人の見事な掛け合いですよね。私はトマトマンさんのコメントを読んで初めてはっきりと認識したのですが、二人の会話の中には巧みに「世代」を象徴するキーワードが散りばめられていたようです。私は表面的な楽しさばかりに気をとられていたので、会話の内容にもしっかりとした意味があったということを知ってさらにこの脚本のすごさを思い知りました。『ストロベリーナイト』は、原作モノとは言え、概ね2話から3話の中に原作小説のポイントをコンパクトに詰め込んでいく作業は決して簡単なものではありません。さらに主人公の性格や過去、あるいはバックボーンとなるものを事件描写の中にバランスよく組み込んでいた点も高く評価したいと思います。複数の脚本家が分担していた作品ですが、クオリティのばらつきをまったく感じることなく観ることができました。その点はプロデューサーの手腕も感じます。『タイトロープの女』は地味ですが、主人公二人の言葉にしない心の葛藤が巧みに表現されたドラマで、今作のような台詞に頼らない表現ができる脚本家は近年ではとても貴重だと思います。こういう本を評価しなくなったらテレビドラマの未来は明るくありません。

ジャニスカ的最優秀主演男優賞 ジャニスカ的最優秀助演男優賞
中井貴一
(『最後から二番目の恋』)
長谷川博己
(『聖なる怪物たち』『運命の人』)
<優秀主演男優賞>
佐藤隆太
(『妄想捜査~桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』)
<優秀助演男優賞>
笹野高史
(『タイトロープの女』)

【 男優 】 最優秀主演男優は誰も異論ないと思います。中井貴一さん(『最後から二番目の恋』)のこういうお芝居は断片的には見たことがあったのですが、1クールがっつり観てしまうともう中毒ですね。思わず芝居を見ちゃう俳優さんというのはそんなに多くはいないし、「芝居を魅せる」というのが一流俳優の証なのかもしれません。中井さんは台詞回しも巧みですけど、常にちゃんとした意味のある細かい動きをつけているところも芝居を見ちゃう理由のひとつかなと思っています。佐藤隆太くん(『妄想捜査~桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』)はもしかしたら将来的に中井貴一さんのようなタイプの俳優さんになれるかも知れないと思わせるお芝居でした。真剣さとコミカルさを同居させるという難しい役柄を見事に演じきっていたと思います。長谷川博己さん(『聖なる怪物たち』『運命の人』)はもうテレビドラマには欠かせない顔ですね。2作品の正反対と言ってもいい役柄を同じクールで見られたのはとても興味深かったし、やっぱり素晴らしい俳優だと再認識しました。笹野高史(『タイトロープの女』)さんは、どちらかと言えば徳平に代表される人のいい役の印象が強いですが、狡猾な役柄をやらせてもやっぱり上手。笑顔の中に腹黒さを滲ませる見事なお芝居でした。

ジャニスカ的最優秀主演女優賞 ジャニスカ的最優秀助演女優賞
竹内結子
(『ストロベリーナイト』)
 真木よう子
(『運命の人』)
<優秀主演女優賞>
小泉今日子
(『最後から二番目の恋』)
長澤まさみ
(『分身』)
 <優秀助演女優賞>
飯島直子
(『最後から二番目の恋』)

【 女優 】 主演女優の竹内結子ちゃん(『ストロベリーナイト』)と小泉今日子さん(『最後から二番目の恋』)はほとんど同評価と言ってもいいのですが、役柄の難しさは姫川玲子の方が上かなというところで決めました。また竹内結子ちゃんは将来的に小泉今日子さんが演じた千明のような役にも対応できる女優さんになるだろうと思う一方で、現在の竹内結子ちゃんと同じ年齢の時の小泉今日子さんに姫川のような役が似合ったかということも考えました。姫川玲子は細部にわたる初期設定がいくつもあって、しかも繊細さと豪快さを併せ持った役柄であり、それらをひとつひとつ丁寧に落とし込んでいく作業は、ある種ストイックなものだったのではないかと想像しています。それとこの骨太な女性刑事という役の中に随所で「女」を意識させたのもすごい。それも彼女の計算がしっかりと感じられる形で。小泉今日子さんは彼女のキャリアの中でも屈指のはまり役だったのは間違いないところでしょう。今日子さんの地の部分も大いに役柄に反映されていたのかもしれませんが、やっぱりこれも簡単な役ではないですよね。真木よう子さん(『運命の人』)は、個人的にはこれまで高く評価したことはなかった(特に『龍馬伝』)のですが、女性的な繊細さもしっかりと表現できる方なんだということを初めて知りました。この役柄は一見して支離滅裂の言行不一致という掴みどころのない性質を帯びていましたが、最終的にしっかりと辻褄が合っていたのは彼女のお芝居によるところが大きいような気がしています。飯島直子さん(『最後から二番目の恋』)は、あの「バブルの残り香」を匂わせるハイテンションな芝居を難なくできてしまう女優さんは稀有だと思います。主演のお二人に準じてこのドラマのコメディ要素を盛り上げてくれました。

今クールは忙しかったので、しばらくは充電させていただくとして、4月のできるだけ早い時期に次クールの期待度ランキングをアップしたいと考えています。直感的にはやはり今クールほどの粒ぞろいとはいかないようですが・・・思い出しましたら覗いてみてください。。。


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(11)最後から二番目の恋 [ドラマレビュー]

2012011501.jpg

『 最後から二番目の恋 』
最終回
( 2012年 フジテレビ 公式サイト

演出:宮本理江子 脚本:岡田惠和 出演:小泉今日子、中井貴一、坂口憲二、内田有紀、飯島直子

最終回を観終わった今、私が抱いている率直な感想・・・私などにはレベルの高すぎるドラマでした。
これまでのレビューにおいて、もっともらしいことを偉そうに書いてきましたが、全部的外れ。
中でもタイトルの意味を読み間違えていたのは致命的。自分の想像力の浅さを恥じるしかありません。

私が曲がりなりにもこうやって映画やテレビドラマのレビューと称するものを書くことができるのは、
過去に観た膨大な映像作品の記憶とその蓄積があればこそで、私が書いているものとは、言ってしまえば、
それらの作品群をベースとして私の中に構築されている「型」に当てはめたり、それらと比較したものに過ぎません。
したがって、文章にするにあたっては「型破りのドラマ」というものにはなかなか対応できないようです。

たとえば、昨年テレビ東京で放送された『鈴木先生』もまたある部分では「型破りのドラマ」だったのかもしれません。
しかし、振り返ってみると、『鈴木先生』が型破りだったのは、あくまでも表現手法であって、
実は表現しているものの本質は極めて普遍的なものなのです。これは『家政婦のミタ』にも同じことが言えます。
そういう観点で言えば、本作は表現手法が型破りの上に、テーマ設定も型破りという、
もともと私の手に負えるような代物ではなかったわけです。

そもそもテレビが想定する受け手とは不特定多数ですから、
テレビドラマが用いる表現手法もテーマ設定も平均値であるのが一番無難なのです。
だからこそテレビドラマの創成期以来、刑事ドラマや医療ドラマといったジャンルは今もなお作られ続けているし、
また、恋愛や友情、家族といった抽象的かつ普遍的なテーマを描いてきたのがテレビドラマの歴史です。

それでは本作のテーマとは何だったのでしょうか?あまり一言では定義したくないのですが、
40歳代、50歳代を迎えた人たちが向き合う人生の延長戦」とでも言うべきものだったと思います。
これについてはさまざまな意見があると思いますので、これと決め付けるつもりは毛頭ありませんが、
いづれにしろ、テーマ設定は具体的かつピンポイントですよね。
同時に(民放の)テレビドラマがいまだかつて描いたことがなかった斬新なテーマ設定だと思います。
つまり、本作のテーマ設定は「映画的」だったと言えばわかりやすいかもしれません。

私は以前、本作について「作り手の実感がこもっている」と評しました。これについては間違っていないと思っています。
この「作り手」を具体的に指名すると、脚本を担当している岡田惠和さんとチーフディレクターの宮本理江子さんのことで、
中井貴一さん演じる和平には岡田惠和さん自身、小泉今日子さん演じる千明には宮本理江子監督、
それぞれの考え方や実感が役柄に大いに投影されているのはほぼ間違いないと私は考えています。
状況証拠を挙げれば、和平を役所勤めにしているのは、脚本家が自分のイメージを落とし込みやすい器だからで、
逆に千明をテレビ局のプロデューサーという特殊な職業にしているのは、適任の取材対象が身近にいるからです。

以上のようなことを踏まえれば、本作がコメディという手法を採用した理由のひとつは、
描いているものがあまりにも生々しすぎて笑い飛ばさなければ恥ずかしくて観て(作って)いられないからではないかと
勝手に分析しています。これは受け手にも同じことが言えて、結論は別として、そこに至る過程をシリアスに描いてしまうと、
テーマがピンポイントなだけに、あまりにも生々しすぎて主人公に近い年代の人たちは目を背けていたかもしれません。

千明の言動について「同年代の女性を馬鹿にしている」という意見があったそうですが、
我々は、本作のテーマを客観的かつ冷静に描かれてしまったときのことを想像しなければなりません。
繰り返しになりますが、本作が描いたものとは、結論は別としてそこに至る過程はそもそもネガティブなのです。
ネガティブなものを描くときはリアリティなんて無用の長物です。特にテレビドラマにおいては。
テレビドラマの表現手法としては、多少誇張してでも正反対の方向に持っていくのが正解なんだと思います。
つまり、自虐的に描く。だからこそ作り手も受け手も救われるのです。

さて、私はこのブログで映画やドラマのレビューを書くに当たっては、
「作品が描いているテーマを深く掘り下げる」ということを主眼にしているつもりなのですが、
本作のテーマについては一言で定義はしてみたものの、どう手をつけていいのかわからないというのが正直なところです。
そもそも主人公とは生まれた年代が違いますから、私は「二人に共感した」という感覚はまったく持ち合わせていません。
自分の将来を二人に重ねて想像する、できるのはそれぐらいのことでしょうか。
これについては、主人公と同世代の方の評価を待ちたいと思います。

いづれにせよ、和平と千明の掛け合いが来週からはもう観られないと思うと本当にさびしいですよね。
二人が互いに対する好意をいつもの流れの中で言ってしまうというラストも見事でしたから。

最後に、本作成功の最大の功労者、中井貴一さんと小泉今日子さんのお芝居を改めて賞賛するとともに、
お二人に対する感謝の気持ちを添えさせていただきます。お二人は次の作品ではまったく別の顔を見せてくれることでしょう。

(了)

(追記)
本作については今月中に寄稿いたします第1四半期のドラマを総括するレビューでも言及するつもりでおります。

関連記事 :(9)最後から二番目の恋 (2012-03-15)
(8)最後から二番目の恋 (2012-03-08)
(6)最後から二番目の恋 (2012-02-23)
(5)最後から二番目の恋 (2012-02-16)
(4)最後から二番目の恋 (2012-02-09)
(3)最後から二番目の恋 (2012-02-02)
(2)最後から二番目の恋 (2012-01-26)
(1)最後から二番目の恋 (2012-01-15)


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ストロベリーナイト [ドラマレビュー]

2012032201.jpg

『 ストロベリーナイト 』
( 2012年 フジテレビ=共同テレビ 公式サイト

演出:佐藤祐市、石川淳一 脚本:龍居由佳里、林誠人、旺季志ずか、黒岩勉 主演:竹内結子

ゴールデンタイムに放送するドラマが用いる表現手法は当然このレベルにあるべきだ。昨日の今日なので引き合いに出させていただくが、台詞一発でストーリー上重要な方向性や結論を表現してしまうようなドラマは、とてもじゃないが多くの人の目に触れるゴールデンタイムに放送する資格はなく、せいぜい学生が作った自主制作映画以上、深夜ドラマ未満と言ったレベルだろう。

本作は、事件をめぐる「重要な結論」を複数のアプローチで見せることによって、作られたストーリーが持つ嘘っぽさを排除し、説得力を持たせることに成功している。これは、かの作品にはすっぽり抜け落ちていた(=作り手が目を背けていた)根本要素である。前回のラストで姫川(竹内結子)の「勘」によって示唆された遺体の胴体部分が高岡(石黒賢)のものではないという可能性は、この事件の真相を見せるにあたって最重要の要素であり、最終回の序盤は大半がこれを立証する描写に割かれていた。

言い出しっぺの姫川が超法規的手段を用いてでもこれを立証しようとするのは当然のことだが、姫川とはまったく異なる捜査手法を信条とする日下(遠藤憲一)が、姫川の勘を立証しようと動いたのは一見して意外かもしれない。しかし、この点は前回、日下の過去が明らかになることで、日下がある部分では姫川に一目置いているということがすでに説明されている。その上で日下はやはり姫川とは別のアプローチで、遺体の胴体部分が高岡のものではないという証拠を持ち込むのである。表現上はどちらか一方のアプローチを見せるだけでも十分だし、実際普通の刑事ドラマならどちらか一方しか見せないだろう。

本作が重要な結論を導くにあたって複数のアプローチを用いる理由は、作り手が刑事ドラマにおいて当然重要な「証拠」という要素を見せる作業を軽視していないからである。また、本作が刑事ドラマである前に人間ドラマという側面を持ち合わせている点も重要で、捜査手法も性格も姫川とは正反対として描かれてきた日下が、土壇場に来て姫川の勘を信じたというところに、人間の繊細な心の動きが織り込まれていると考えられる。レベルの高い表現とは、こういうことを言うのである。重要な結論を前後の脈絡もない台詞一発で表現するなどということは、私はプロの仕事としては絶対に認めない。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

本作が刑事ドラマである以前に人間ドラマであるというのは私の解釈なので、本作を単に「刑事ドラマ」と定義することを否定するものではないが、いづれにしろ一貫して姫川の過去がストーリーに影を落としていたのは間違いのないところである。これはSP以来描かれてきた主人公が最終的に克服すべき課題であり、元来、本作の最終回とは事件を解決するだけのものではない。

このエピソードにおいて、姫川が中川美智子(蓮佛美沙子)が抱える心の闇を見抜いたのは、彼女の佇まいに自分と同じ匂いを感じ取ったからだろう。姫川は目の前にいる中川美智子に過去の自分を重ね、かつての姫川に心の支えとなってくれる人がいたように、自分も中川美智子を救いたいと願う。だからこそ姫川は自分が抱え続けてきた闇を語り、彼女を強く抱きしめるのである。そして、中川美智子が心を開いてくれたとき、姫川は自分の過去に対しても、ひとつの決着をつける。それを証明するかのように、事件が一段落した姫川は母親が入院している病院を訪れ、自分の母親を強く抱きしめる。娘を一生守り続けると誓った母親を娘が強く抱きしめるという描写は、姫川が自分の母親を守れるだけの強さを獲得したことを表現している。

  「あったかかった・・・あの子、あったかかったの・・・」

この母親の台詞が、姫川が獲得した強さが本物であることを物語っているのは言うまでもない。

さて、前段において私は、本作が複数のアプローチによって重要な結論を表現しているということを述べた。これは最終的に描かれた姫川が抱えてきた心の闇との決別についても例外ではなかった。つまり、母親を強く抱きしめるという描写以外にもうひとつのアプローチが用意されていたのである。本作を丁寧にご覧になられてきた方ならばお分かりだと思うが、姫川の表情を捉えるラストカットこそが、彼女が過去と決別できたことを端的に表現していると考えられる。姫川が中川美智子に語ったように、彼女はあの事件によって心を失ったのである。ここでいう「心」には恋愛感情が含まれるということは容易に想像がつくところだと思う。

ラスト、「謹慎祝い」を申し出た菊田(西島秀俊)に頭を撫でられた姫川は、照れを隠すように努めていつものアクションで対応する。いや、この時点ではそれが「照れ」であることも自覚していないのかもしれない。姫川はこの「照れ」が今までに体感したことがない特別な感情であることを次のシーンで唐突に思い知るのである。姫川は見慣れているはずの菊田の背中にいつもと違う感情を覚えると、それが何なのかを知りたくて自然にうつむいてしまう。これがラストカットである。私は、あのカットだけでは姫川は自分の中に菊田に対する恋愛感情が芽生えたことをはっきりと自覚するには至っていないと解釈している。なぜなら姫川にとってこれは「初恋」に近い感情だからだ。しかし、菊田に対する感情がその種のものであることを自覚するにはそう多くの時間は要しないだろう。姫川玲子はすでに「ソウルケイジ」から解き放たれている。

(了)

急いで執筆しました。乱文失礼致しました。

▼▼▼ 『ストロベリーナイト』 Twitterまとめ ▼▼▼
  • e97h0017e97h0017『夜苺~ストロベリーナイトの戦慄』。昨年の夏に撮了しているということで各話のダイジェスト的内容。一言で言えば非常に面白い。番宣番組にこんなに引き込まれるとは思わなかった。民放では珍しく芝居ができる俳優しか出演していない本格派ドラマ。丸山隆平くんが「できる」部類だとは思わなかった。01/08 03:31
  • e97h0017e97h0017フジテレビ『ストロベリーナイト』第1話。昨年変な刑事ドラマを作っていた共同テレビとは思えない出来である。原作の有無によるところも大きいかもしれないが、男社会で自立する骨太な女性刑事像を現実的かつ魅力的に描き出している。刑事ドラマのプロデューサーはやはり男性の方が適していると思う。01/11 01:26
  • e97h0017e97h0017殉職した大塚の件を卵焼きを使って表現していたのは巧かった。卵焼きを注文する新入りの二人を複雑な心境で見守る3人。姫川が意を決したように手を伸ばした最後の一切れをおもむろに3等分にし、菊田と石倉にも食べるよう促す。意識的に過去に決着をつけようとする主人公の強さを感じさせるシーン。01/11 03:10
  • e97h0017e97h0017『ストロベリーナイト』第2話。やはり常識にかからない刑事ドラマである。主人公の勘が過っているパターンを早速放り込んできた。それをガンテツの線で匂わせ、島が情報を入手する。脇役の使い方が巧い。一方で力が入っていた第1話と比べて演出的クオリティが格段に下がるのは何とかならないものか。01/18 23:56
  • e97h0017e97h0017『ストロベリーナイト』第3話。「ラッキーセブン」の後に観るとまるで次元の違うレベルの高い脚本である。ここ数年表面的な事象を見せるだけのぬるい刑事ドラマが多かったが本作は刑事ドラマである前に人間ドラマであるという根本を見失っていない。そのことは取調室での姫川の言動に集約されている。01/24 23:43
  • e97h0017e97h0017最後の取調べは被疑者が薬の出所を自供した時点で刑事ドラマとしての側面は完了しているのである。その後は完全に姫川というキャラクターを見せる人間ドラマ。ガンテツに何を言われようとも姫川が犯罪者を前に熱くなる理由こそがこのドラマの根幹であって、事件はそれを見せるためのツールに過ぎない。01/24 23:44
  • e97h0017e97h0017『ストロベリーナイト』第4話。3ヶ月前から在庁時の姫川班が追っていた事件というパターン。この時系列のシャッフル感はそれだけで作品の奥行きを意識させる。このエピソードでは葉山が姫川班に馴染んでいく過程を見せながら彼の過去に踏み込むことで、次のエピソードに繋げていく意図が感じられる。02/04 12:07
  • e97h0017e97h0017『ストロベリーナイト』第6話。SP以来一貫して秀逸なのが主人公のキャラクター表現。姫川が決して機能的とは言えないヒールのある靴を履き続ける理由を我々は想像しなければならないのである。本作が台詞に頼り勝ちな近年のドラマと一線を画する理由はここにある。姫川のペディキュアも見逃せない。02/18 23:12
  • e97h0017e97h0017『ストロベリーナイト』第7・8話。主人公を魅力的に見せる大変優れた脚本である。庁内に「敵」を抱える一方で、姫川が複数の同僚から好意を寄せられているのは、彼女が無骨な警察機構の中にあってあくまでも女性として自立しているからだろう。ふと女を垣間見せる竹内結子ちゃんの芝居が素晴らしい。03/05 23:49
  • e97h0017e97h0017『ストロベリーナイト』第6話の姫川のある台詞がずっと謎だった。姫川に憧れる高野刑事がアドバイスを求めた時、最初は取り合わなかった姫川が、思い出したように「シャンプー変えたら?」と言う。高野の地味な服装をまじまじと見つめる姫川の動作と併せて考えてみると、この台詞の意味が見えてくる。03/07 19:34
  • e97h0017e97h0017『ストロベリーナイト』第9・10話。集中して観ていなければすぐに置いてきぼりを食うような複雑な構造のエピソードは個人的には大好物。難解な事件の中にも日下のプライベートや過去を挟み込んで姫川との関係性を間接的に描いており、刑事ドラマの前に人間ドラマであるという主眼を見失っていない。03/15 21:50


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ラッキーセブン [ドラマレビュー]

▼▼▼ 『ラッキーセブン』 Twitterまとめ ▼▼▼
  • e97h0017e97h0017フジテレビ『ラッキーセブン』第1話。注目のアクションが「暴力」だとは思わなかった。どんなに顔を殴られても凛々しい主人公の顔。痛みを伴わない暴力のことをこのドラマではアクションと呼ぶらしい。初回はその「アクション」を見せるためだけのエピソードなんだから性質が悪い。先が思いやられる。01/18 21:23
  • e97h0017e97h0017『ラッキーセブン』第2話。なんとなく「東京DOGS」を思い出してしまった。笑えないジョークほど観ていて痛々しいものはない。早くもアクションシーンのクオリティが堕ちたと思ったら成田岳監督だった。得意じゃないらしい。ただ「やりたいだけ」のアクションなら見切る用意をしなければならない。01/24 21:03
  • e97h0017e97h0017ストーリー的には探偵が会社に潜入なんてもう目新しさを欠くし泣かせも弱い。この脚本のクオリティを象徴する台詞がこれ。「理由は何でもいい」「理由なしに解雇はできません」会話が噛み合っていないのは明らか。テレコなら成立する。この台詞の瑕疵に気が付かない人たちが作っているのがこのドラマ。01/24 21:04
  • e97h0017e97h0017『ラッキーセブン』第3話。売り文句だったアクションシーンが早くも消えた。そして普通のドラマになった。佐藤信介監督が演出した第1話だけが特別で、フジテレビのディレクターが演出した回は普通では映画監督を招聘した意味がない。全体的な演出方針について監督同士の意思疎通ができていない印象。 02/01 18:47
  • e97h0017e97h0017『ラッキーセブン』第4話。毎分視聴率を意識したことがない人が書いた本。映画監督の起用が裏目に出たか。序盤の世間話は本当に必要だろうか。冒頭から事務所にガサ入れぐらいのパンチを効かせないとチャンネルを変えられてしまうのが今のテレビ。ダラダラやって次週に持越しでは視聴者の反感を買う。02/07 01:27
  • e97h0017e97h0017探偵たちが仲間内で親密そうに世間話をするシーンが多数、それもわざとらしく盛り込まれていると思ったら、事務所が解散して探偵たちが離散するという事実を悲しみで仕立てたかったのかも。そういうことならこのエピソードはもっと終盤に持っていけばいいのに。「シリーズ構成」的に意味があるのかな。02/07 01:27
  • e97h0017e97h0017『ラッキーセブン』第5話。宇野常寛(@wakusei2nd)さんが言っていたのと真逆の展開か。瑛太くんと松本潤くんの絡みがなくなったらこのドラマのみどころは一体何なんだろう。いつのまにかアクションシーンもなくなったし。何度も言っているが、事件を見せるだけのドラマに魅力は感じない。02/13 23:50
  • e97h0017e97h0017『ラッキーセブン』第6話。瑛太くんのギャランティも含めて急に低予算ドラマになった。そしてほぼ湾岸スタジオで撮影を済ませるというお手軽感。金も手間も工夫も惜しんでストーリーで勝負するのかと思えば、学校の昼休みのようなぬるい序盤に終盤はみんないい人に仕立てて落着という薄っぺらな内容。02/21 21:09
  • e97h0017e97h0017『ラッキーセブン』第7話。どこかで見たようなエピソードとお世辞にも品がいいとは言えないコメディセンス。相変わらず学校の昼休みに悪ふざけをしている中学生のようなノリは健在である。ノリだけで芝居をしているメインキャストの中にあって中越典子ちゃんの落ち着いた大人の芝居は魅力的に映った。02/28 01:37
  • e97h0017e97h0017『ラッキーセブン』第8話。作り手の計算が感じられない大味なストーリー。多分に大人の事情を感じさせるドラマだが回を追うごとにつまらなくなっていくのは何とかならないものか。今回もヌルい内容に閉口していたらエンドクレジット終了後に唐突にモードが変わるんだから大した「シリーズ構成」だよ。03/05 23:03
  • e97h0017e97h0017『ラッキーセブン』第9話。非常にコメントしづらいドラマである。主人公のデートモードは序盤なら存分にやって頂いて構わないが、ラス前なんだからそろそろはっきりとモードを切り替えて欲しい。企図した裏切りにもさっぱり無感動なのは演出のせいか。最終回に向けて多少の緊張感は不可欠だと思うが。03/15 22:36
  • e97h0017e97h0017『ラッキーセブン』最終話。「手帳を渡したところで奴らが社長を無事に帰してくれるという保証はない」「(フラッシュバックして)私たちで追うしかないんだ」この二つの台詞の因果が全然理解できない。「保証がある」のなら自分たちでやるべきだが「保証がない」のなら警察の協力を仰ぐ方が得策では?03/20 03:43
  • e97h0017e97h0017理屈っぽい話だが、我々が社長の生命を第一に考えたとして冷静に考えていただきたい。手帳を譲渡しても社長の生命は保証されないと考えるのなら、警察に協力を仰いだ状況で発生する社長の生命に対するリスクは「私たちで追」った場合のリスクを超えるのか超えないのか。そういう議論をするべきである。03/20 03:44
  • e97h0017e97h0017揚げ足取りのように聞こえるかもしれないが、ドラマのクオリティとはこういうところに現れる。視聴者が気が付く間もないほどの短い台詞でストーリー上重要な結論を表現してしまうのはあまり褒められたものではない。作り手の都合のいいようにストーリーを進めるための誤魔化しと取られても仕方がない。03/20 03:44
  • e97h0017e97h0017確認しておくが私はストーリー展開を批判しているのではない。個々の台詞の欠陥を指摘している。台詞が粗いのは今に始まったことではなくそれを放置したPがいるのは疑いようのない事実。細部への配慮やこだわりを持たざる者が作った作品が良作だった試しはない。それを証明する作品がまた一つ増えた。03/20 03:44

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  • e97h0017e97h0017『運命の人』最終話。人生の一期一会のすべてが「運命の人」なのかもしれない。誰かとの出会いに運命を感じたのなら自分自身も誰かの運命の人でありたい。そう思わせてくれるドラマだった。これは社会派ドラマではない。人生の意義や真理を表現するためには必要不可欠な「手法」だったと考えるべきだ。03/19 20:52
  • e97h0017e97h0017『3年B組金八先生』第2シリーズの再放送が始まったとは。昔は金八先生が一つ屋根の下に暮らす田沢先生を好きにならずにアマゾネスと結婚したことを不思議に思っていたが、歳をとったせいだろうか天路先生がやけにかわいらしく見えてしまった。倍賞美津子さんは当時34歳・・・なるほど歳のせいだ。03/19 22:19