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ストロベリーナイト [ドラマレビュー]

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『 ストロベリーナイト 』
( 2012年 フジテレビ=共同テレビ 公式サイト

演出:佐藤祐市、石川淳一 脚本:龍居由佳里、林誠人、旺季志ずか、黒岩勉 主演:竹内結子

ゴールデンタイムに放送するドラマが用いる表現手法は当然このレベルにあるべきだ。昨日の今日なので引き合いに出させていただくが、台詞一発でストーリー上重要な方向性や結論を表現してしまうようなドラマは、とてもじゃないが多くの人の目に触れるゴールデンタイムに放送する資格はなく、せいぜい学生が作った自主制作映画以上、深夜ドラマ未満と言ったレベルだろう。

本作は、事件をめぐる「重要な結論」を複数のアプローチで見せることによって、作られたストーリーが持つ嘘っぽさを排除し、説得力を持たせることに成功している。これは、かの作品にはすっぽり抜け落ちていた(=作り手が目を背けていた)根本要素である。前回のラストで姫川(竹内結子)の「勘」によって示唆された遺体の胴体部分が高岡(石黒賢)のものではないという可能性は、この事件の真相を見せるにあたって最重要の要素であり、最終回の序盤は大半がこれを立証する描写に割かれていた。

言い出しっぺの姫川が超法規的手段を用いてでもこれを立証しようとするのは当然のことだが、姫川とはまったく異なる捜査手法を信条とする日下(遠藤憲一)が、姫川の勘を立証しようと動いたのは一見して意外かもしれない。しかし、この点は前回、日下の過去が明らかになることで、日下がある部分では姫川に一目置いているということがすでに説明されている。その上で日下はやはり姫川とは別のアプローチで、遺体の胴体部分が高岡のものではないという証拠を持ち込むのである。表現上はどちらか一方のアプローチを見せるだけでも十分だし、実際普通の刑事ドラマならどちらか一方しか見せないだろう。

本作が重要な結論を導くにあたって複数のアプローチを用いる理由は、作り手が刑事ドラマにおいて当然重要な「証拠」という要素を見せる作業を軽視していないからである。また、本作が刑事ドラマである前に人間ドラマという側面を持ち合わせている点も重要で、捜査手法も性格も姫川とは正反対として描かれてきた日下が、土壇場に来て姫川の勘を信じたというところに、人間の繊細な心の動きが織り込まれていると考えられる。レベルの高い表現とは、こういうことを言うのである。重要な結論を前後の脈絡もない台詞一発で表現するなどということは、私はプロの仕事としては絶対に認めない。

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本作が刑事ドラマである以前に人間ドラマであるというのは私の解釈なので、本作を単に「刑事ドラマ」と定義することを否定するものではないが、いづれにしろ一貫して姫川の過去がストーリーに影を落としていたのは間違いのないところである。これはSP以来描かれてきた主人公が最終的に克服すべき課題であり、元来、本作の最終回とは事件を解決するだけのものではない。

このエピソードにおいて、姫川が中川美智子(蓮佛美沙子)が抱える心の闇を見抜いたのは、彼女の佇まいに自分と同じ匂いを感じ取ったからだろう。姫川は目の前にいる中川美智子に過去の自分を重ね、かつての姫川に心の支えとなってくれる人がいたように、自分も中川美智子を救いたいと願う。だからこそ姫川は自分が抱え続けてきた闇を語り、彼女を強く抱きしめるのである。そして、中川美智子が心を開いてくれたとき、姫川は自分の過去に対しても、ひとつの決着をつける。それを証明するかのように、事件が一段落した姫川は母親が入院している病院を訪れ、自分の母親を強く抱きしめる。娘を一生守り続けると誓った母親を娘が強く抱きしめるという描写は、姫川が自分の母親を守れるだけの強さを獲得したことを表現している。

  「あったかかった・・・あの子、あったかかったの・・・」

この母親の台詞が、姫川が獲得した強さが本物であることを物語っているのは言うまでもない。

さて、前段において私は、本作が複数のアプローチによって重要な結論を表現しているということを述べた。これは最終的に描かれた姫川が抱えてきた心の闇との決別についても例外ではなかった。つまり、母親を強く抱きしめるという描写以外にもうひとつのアプローチが用意されていたのである。本作を丁寧にご覧になられてきた方ならばお分かりだと思うが、姫川の表情を捉えるラストカットこそが、彼女が過去と決別できたことを端的に表現していると考えられる。姫川が中川美智子に語ったように、彼女はあの事件によって心を失ったのである。ここでいう「心」には恋愛感情が含まれるということは容易に想像がつくところだと思う。

ラスト、「謹慎祝い」を申し出た菊田(西島秀俊)に頭を撫でられた姫川は、照れを隠すように努めていつものアクションで対応する。いや、この時点ではそれが「照れ」であることも自覚していないのかもしれない。姫川はこの「照れ」が今までに体感したことがない特別な感情であることを次のシーンで唐突に思い知るのである。姫川は見慣れているはずの菊田の背中にいつもと違う感情を覚えると、それが何なのかを知りたくて自然にうつむいてしまう。これがラストカットである。私は、あのカットだけでは姫川は自分の中に菊田に対する恋愛感情が芽生えたことをはっきりと自覚するには至っていないと解釈している。なぜなら姫川にとってこれは「初恋」に近い感情だからだ。しかし、菊田に対する感情がその種のものであることを自覚するにはそう多くの時間は要しないだろう。姫川玲子はすでに「ソウルケイジ」から解き放たれている。

(了)

急いで執筆しました。乱文失礼致しました。

▼▼▼ 『ストロベリーナイト』 Twitterまとめ ▼▼▼
  • e97h0017e97h0017『夜苺~ストロベリーナイトの戦慄』。昨年の夏に撮了しているということで各話のダイジェスト的内容。一言で言えば非常に面白い。番宣番組にこんなに引き込まれるとは思わなかった。民放では珍しく芝居ができる俳優しか出演していない本格派ドラマ。丸山隆平くんが「できる」部類だとは思わなかった。01/08 03:31
  • e97h0017e97h0017フジテレビ『ストロベリーナイト』第1話。昨年変な刑事ドラマを作っていた共同テレビとは思えない出来である。原作の有無によるところも大きいかもしれないが、男社会で自立する骨太な女性刑事像を現実的かつ魅力的に描き出している。刑事ドラマのプロデューサーはやはり男性の方が適していると思う。01/11 01:26
  • e97h0017e97h0017殉職した大塚の件を卵焼きを使って表現していたのは巧かった。卵焼きを注文する新入りの二人を複雑な心境で見守る3人。姫川が意を決したように手を伸ばした最後の一切れをおもむろに3等分にし、菊田と石倉にも食べるよう促す。意識的に過去に決着をつけようとする主人公の強さを感じさせるシーン。01/11 03:10
  • e97h0017e97h0017『ストロベリーナイト』第2話。やはり常識にかからない刑事ドラマである。主人公の勘が過っているパターンを早速放り込んできた。それをガンテツの線で匂わせ、島が情報を入手する。脇役の使い方が巧い。一方で力が入っていた第1話と比べて演出的クオリティが格段に下がるのは何とかならないものか。01/18 23:56
  • e97h0017e97h0017『ストロベリーナイト』第3話。「ラッキーセブン」の後に観るとまるで次元の違うレベルの高い脚本である。ここ数年表面的な事象を見せるだけのぬるい刑事ドラマが多かったが本作は刑事ドラマである前に人間ドラマであるという根本を見失っていない。そのことは取調室での姫川の言動に集約されている。01/24 23:43
  • e97h0017e97h0017最後の取調べは被疑者が薬の出所を自供した時点で刑事ドラマとしての側面は完了しているのである。その後は完全に姫川というキャラクターを見せる人間ドラマ。ガンテツに何を言われようとも姫川が犯罪者を前に熱くなる理由こそがこのドラマの根幹であって、事件はそれを見せるためのツールに過ぎない。01/24 23:44
  • e97h0017e97h0017『ストロベリーナイト』第4話。3ヶ月前から在庁時の姫川班が追っていた事件というパターン。この時系列のシャッフル感はそれだけで作品の奥行きを意識させる。このエピソードでは葉山が姫川班に馴染んでいく過程を見せながら彼の過去に踏み込むことで、次のエピソードに繋げていく意図が感じられる。02/04 12:07
  • e97h0017e97h0017『ストロベリーナイト』第6話。SP以来一貫して秀逸なのが主人公のキャラクター表現。姫川が決して機能的とは言えないヒールのある靴を履き続ける理由を我々は想像しなければならないのである。本作が台詞に頼り勝ちな近年のドラマと一線を画する理由はここにある。姫川のペディキュアも見逃せない。02/18 23:12
  • e97h0017e97h0017『ストロベリーナイト』第7・8話。主人公を魅力的に見せる大変優れた脚本である。庁内に「敵」を抱える一方で、姫川が複数の同僚から好意を寄せられているのは、彼女が無骨な警察機構の中にあってあくまでも女性として自立しているからだろう。ふと女を垣間見せる竹内結子ちゃんの芝居が素晴らしい。03/05 23:49
  • e97h0017e97h0017『ストロベリーナイト』第6話の姫川のある台詞がずっと謎だった。姫川に憧れる高野刑事がアドバイスを求めた時、最初は取り合わなかった姫川が、思い出したように「シャンプー変えたら?」と言う。高野の地味な服装をまじまじと見つめる姫川の動作と併せて考えてみると、この台詞の意味が見えてくる。03/07 19:34
  • e97h0017e97h0017『ストロベリーナイト』第9・10話。集中して観ていなければすぐに置いてきぼりを食うような複雑な構造のエピソードは個人的には大好物。難解な事件の中にも日下のプライベートや過去を挟み込んで姫川との関係性を間接的に描いており、刑事ドラマの前に人間ドラマであるという主眼を見失っていない。03/15 21:50


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