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(P)小川の辺 [映画プレビュー]

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(C)2011「小川の辺」製作委員会

『 小川の辺 』
( 7月2日公開 東映 103分 公式サイト )
監督:篠原哲雄 脚本:長谷川康夫、飯田健三郎 出演:東山紀之、菊池凛子、勝地涼、片岡愛之助

※ この記事は、作品を鑑賞する前に執筆したプレビューです。

私としては藤沢周平の小説が映画化されれば、
観ないという選択肢はありえず、本作についても早い段階から注目していて、その期待は大きいです。
本作は『山桜』(2007年 東京テアトル)とほとんど同じ制作スタッフであり、
特に脚本のお二人は藤沢作品の映像化では絶対的な信頼を置いていいと思っています。
また、演出的側面から見ると、私は過去の藤沢作品の映画化では黒土三男監督の『蝉しぐれ』(2005年 東宝)が
もっとも的確に藤沢作品の世界観を表現していたと思っていて、
これは私の印象ですが、篠原哲雄監督は、著名な山田洋次監督の三部作というよりも、
黒土監督がライフワークとし、一連の藤沢作品で
完成させた表現手法を踏襲しているような気がしています。

そして、私が本作にあってもっとも期待を寄せているのが主演の東山紀之さんです。
私は決して出番が多くはなかった『山桜』における東山さんのお芝居を拝見したとき、
こんなにも武士らしいたたずまいをしっかりと表現できる俳優さんは今日の日本映画界では稀有だと率直に感じました。
台詞が極端に少なかったこともあって、その武士らしい凛とした表情とたたずまいが強烈に印象に残っており、
本作の主演が東山さんだと知ったときは大いに納得したし、当然の成り行きだったと思っています。

私は山田洋次監督が『武士の一分』(2006年 松竹)の主演に木村拓哉さんを抜擢した理由を永遠の謎だと思っていて、
あの作品が失敗したところをひとつ挙げるとすれば、真っ先に主演俳優の名前を言いたくなるぐらいです。
木村拓哉さんが決定的に表現し得なかったのは「武士らしさ」で、
これは言うまでもなく作品の根本を揺るがす重大な要素です。ちょっと失礼な言い方になるかもしれませんが、
私生活で自分を律したことがない人が武士を演じるとこうなってしまうという悪例だったと思っています。
彼の劇中での歩き方ひとつとっても、「正中」に対する意識がまったく感じられず、
それだけで武士に非ざる浮ついた印象であり、私は冒頭数分で早くも「この人、武士じゃない」と思ったのを覚えています。

私は木村拓哉さんの初時代劇作品となった『忠臣蔵1/47』(2001年 フジテレビ)を観たときに、
この人はもう2度と時代劇に出演するべきではないと思いました。
初挑戦となった殺陣について、彼は「様式美に捕らわれない泥臭い斬り合いを表現した」というようなことを言っていましたが、
これは要するに「自分には殺陣はムリでした」ということを白状したも同然であり、
結局この方が俳優としては何も極めていない理由がなんとなくわかったのがこの時でした。
『武士の一分』のクライマックスにおける木村さんのへっぴり腰を見て、やっぱり極められなかったということを確認したのですが、
もっとも役柄が盲目だということを考えれば、これはある意味リアルな殺陣なのかもしれません。
なるほど山田洋次監督の狙いはそこにあったのか!・・・というのは皮肉です。
少なくとも木村さんが正攻法の殺陣をやらずに済んだのは確かですが。

それに対して、私は『山桜』で初めて東山紀之さんの殺陣を拝見したのですが、
たった1シーン、ほんの2分足らずの鮮やかな殺陣に完全に魅了されてしまいました。
「もっと見たい!」そう思わせる殺陣であり、私としてはその思いが数年越しに叶うことをとても喜んでいます。
また、『山桜』のメイキングや本作の宣伝のために東山さんが出演しているトーク番組などを拝見していると、
俳優という仕事にかけるプロフェッショナルな姿勢を垣間見ることができます。
ご自分では茶化し気味にお話されていますが、腹筋を1日1000回することを課すなど、
普段から自分を律するような生き方をされており、そういう目に見えない心構えは武士の生き様からもそう遠くはないはずです。
真に美しい武士のたたずまいというものは、「演じる」ことで表現するものではなく、「心構え」で表現するものだと思います。

Logo_YouTube.png 『山桜』メイキング
http://youtu.be/gYpvY7QxIbk
http://youtu.be/PyhwB3z-abc

「土台がしっかりしていれば、自ずとそういう男になっていくような気がしますし、楽しくというよりも、厳しく演じていきたい」

武士を演じるということは、我々の想像を絶する厳しさがあるに違いありません。
自分を律することができる俳優にしか武士を演じる資格はないのです。
東山紀之さんはそれを兼ね備えた近年では貴重な俳優さんであり、本作は待望の主演作品です。

関連記事 : 必死剣 鳥刺し (2010-07-31)
花のあと (2010-04-03)
山桜 (2009-09-27)


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