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(9)鈴木先生 [ドラマレビュー]

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『 鈴木先生 』
第9回
( 2011年 テレビ東京=アスミック・エース 公式サイト
監督:橋本光二郎 脚本:古沢良太 出演:長谷川博己、臼田あさ美、土屋太鳳、田畑智子、富田靖子、でんでん

最終回も引き続き「鈴木裁判」が描かれることになりますが、今回の終盤に描かれた生徒たちの自主的な議論を見ていれば、鈴木先生(長谷川博己)はもはや「無罪」を勝ち取っているに等しい状況と言ってもいいでしょう。この「鈴木裁判」の始まりは、今回のことでもっとも傷ついた生徒・丹沢栞(馬渕有咲)が一方的な感情に任せて主導しようとした「吊るし上げ」の色彩が濃く、彼女の感情を理解し、彼女の行動に追随することは、他の生徒にとってはそもそもが困難な作業でした。そのあたりの丹沢と他の生徒たちの気持ちの齟齬を描いていたのが今回の生徒たちの議論だったわけですが、確認しておかなければならないのは、この間、鈴木先生は一言も発していないということです。そして、その結果として「鈴木裁判」は、鈴木先生が一方的に裁かれる場ではなく、鈴木先生と生徒が互いを新しい価値観へと導きあう健全な議論の場へと変化していくのです。

この一連の議論を黙って見ていた鈴木先生は、やはり中学生には高等な議論は不可能かもしれないと思い始めます。この流れを最初に変えたのは誰だったでしょうか。それは本作中もっとも多くのことを体験し、もっとも高い学習率を実現した竹地公彦(藤原薫)でした。自分が議長を引き継ぐ・・・あの「竹地事件」で醜態をさらし、クラスメートに対して大きなわだかまりを残している竹地にとって、この宣言はどれほどの勇気が必要だったことでしょうか。あの一件で感情を暴走させてしまった竹地が、感情をぶつけ合うクラスメートをさえぎって、冷静な議論の場に導こうとしている。これこそが鈴木先生が言うところの「実験の結果」の一端に他なりません。さらに、竹地の資質を疑う意見を親友の紺野徹平(齋藤隆成)が打ち消し、小川ファン五人衆の面々が追随して竹地をフォローしていきます。竹地の勇気が連鎖反応を起こし、まるでクラス全体が意思を持っているかのように、議論の方向性を自己修正していきます。

そして、こちらもすでに「覚醒」を果たしている小川蘇美(土屋太鳳)と中村加奈(未来穂香)の二人は、今回の一件に対して努めて冷静に対処しようとします。この二人が鈴木先生に対して中立を宣言した理由は、おそらく鈴木先生のできちゃった結婚の是非を自分たちで判断できなかったからですが、その一方で丹沢たちが「裁判」という形式を採ろうとしていることに対しては疑問を持っていたと思われます。それでも二人はあえて机の移動に加担し、中村と小川は裁判を続行するべきだと意見します。クラス全員で鈴木先生に噛み付いてしまった以上、もう引き下がれない・・・私はこのとき二人が用いた論法にしびれる思いでした。

小川と中村は、裁判という形式にこだわって感情的になる丹沢と、彼女とは対照的に冷めた態度をとる男子生徒の議論、というよりも罵り合いをあえて静観していた可能性があります。感情を暴走させた丹沢は泣き出し、それを見た男子生徒は裁判を放棄しようとします。どうでしょう、これは鈴木先生がこれまで用いてきた「学びの場」を創造するための手法と何ら変わらないではありませんか。つまり、二人はクラスメート同士の感情がぶつかり合う状況をあえて作り出し、それを「止めない」(=体験)ことによって、クラス全員を議論の当事者に仕立て、確信犯的に鈴木裁判を「学びの場」に変えてしまったのです。

というわけで、これまでのエピソードで中心的に描かれてきた生徒たちに限って言えばすでに「心の変革」は成し遂げられており、それが巧みに織り込まれていたのが今回描かれた「鈴木裁判」の端緒だったと考えられます。最終回では、これまで中心的な役割を果たしてきた生徒以外の生徒―それは「クラス全体」と言い換えることもできる―がすでにはっきりと「学びの場」と変わっているこの「鈴木裁判」において、どのように「心の変革」を成し遂げていくかに焦点が移っていくと思われます。彼らがそれを成し遂げるのはもはや間違いないので、私の興味はその「過程」と「成果」をこのドラマがどう魅せてくれるのかにあります。今回の終盤をもってしても、もうすでにスゴイものを見せられてしまった感があるので、この点についての期待は否が応にも大きくなってしまいます。

一方で、結末が読めない要素も存在しています。あろうことか別室で鈴木裁判を観戦している足子先生(富田靖子)と神田マリ(工藤綾乃)の「心の変革」を無視してこのドラマが決着することはありえないでしょう。鈴木先生がクラス全体を見事に心の変革に導き、足子先生がそれを目の当たりにしてしまったら、彼女の精神はいよいよ崩壊し、山崎先生(山口智充)の二の舞となってしまう可能性があります。まったく同じことの繰り返しでは不毛だし、ドラマとして何も描けていないということになってしまいますから、この方面の問題解決では、もうほぼレールの上に乗っている「クラス全体の心の変革」とは裏腹に、鈴木先生自身の人間的成長が問われていると言えるかもしれません。神田マリについては入江沙季(松本花奈)を通じて何らかの影響力が及ぶと想像できますが、こちらもどのような結末を辿るのかちょっと読みきれません。

さて、ここからはちょっと技術的な話になりますが、今回終盤の鈴木裁判において生徒たちが発するひとつひとつの台詞が生き生きしていることといったら、それだけで感動ものでした。こんなにも生徒ひとりひとりのキャラクターがしっかりと立っている学園ドラマはいまだかつて見たことがありません。既成の学園ドラマでは、生徒たちの議論を描く場合、ひとつひとつの台詞がキャラクターを表現するためというよりも、そのシーンを展開させるために作られてしまっているのが当たり前でした。言ってしまえば、誰がその台詞を言おうと表現的に大差はなく、視聴者がそれらの説明的な台詞に引き込まれることはありません。

本作においては、大前提としてひとつひとつの台詞にそれぞれのキャラクターがしっかりと織り込まれており、この台詞をこの生徒が言う、というところにも重要な意味づけがなされています。これによって、そのシーンをしっかりと展開させながらも、議論が生み出す起伏やうねりのようなものまでも表現することに成功しており、こうして生み出された生徒たちの議論の生々しさやリアリティといったものは我々の気持ちを引き込むには十分すぎるものでしょう。もちろん生徒を演じているひとりひとり俳優さんの目に見えない繊細な役作りとこのシーンに臨む集中力も賞賛しておかなければなりません。そういう生徒たちの生きた台詞とお芝居が最終回でも引き続きがっつり観られそうなのは本当に楽しみです。

関連記事 : (10)鈴木先生 (2011-06-30)
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(2)鈴木先生 (2011-05-06)
(1)鈴木先生 (2011-04-29)

< 付記 >
堀の内七海役の松岡茉優ちゃんによる橋本光二郎監督のインタビューです。
http://odoroku.tv/vod/0000041CE/512.html (前編 24:08)
http://odoroku.tv/vod/0000041D6/512.html (後編 20:43)
視聴するにはWindowsMediaPlayerが必要です。

<参考 : 緋桜山中2年A組 人物関係図>
http://www.tv-tokyo.co.jp/suzukisensei/special/book/book_img03.html 

<参考 : ネット局>
 ・ テレビ東京(関東広域圏)
 ・ テレビ北海道(北海道)
 ・ テレビ愛知(愛知県)
 ・ テレビ大阪(大阪府)
 ・ テレビせとうち(岡山県、香川県)
 ・ TVQ九州放送(福岡県)
 ・ 岐阜放送(岐阜県)
以上が同時ネット。以下は放送日時が異なる。
 ・ テレビ和歌山(和歌山県)※13日遅れ
 ・ テレビ熊本(熊本県)※15日遅れ
 ・ 新潟テレビ21(新潟県)※40日遅れ
 ・ BSジャパン(全国)※7月2日(土)22:00より放送開始。
http://www.tv-tokyo.co.jp/suzukisensei/onair/index.html


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