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(3)鈴木先生 [ドラマレビュー]

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『 鈴木先生 』
第3回
( 2011年 テレビ東京=アスミック・エース 公式サイト
演出:橋本光二郎 脚本:岩下悠子 出演:長谷川博己、臼田あさ美、山口智充、田畑智子、富田靖子、でんでん

本作に対しては観る前からそれなりの期待はありましたが、昨年新設されたこの枠のここまでの2作品は期待通りの出来とは到底言えませんでしたので、再び大失敗という可能性も覚悟はしていました。本作は、私が大好きな映画作品をたくさん送り出しているアスミック・エース製作ですが、そもそも映画製作が本業のアスミック・エースに連続ドラマのノウハウがあるとは思えず、漠然とその点は諸刃の剣になるだろうという印象を持っておりました。レビューにも書いたとおり、私は第1話を観た時点で早くもこのドラマを高く評価したものの、第2回以降大きく失速する連続ドラマもこれまでたくさん観てきましたから、このドラマトータルの評価は最終回を観るまでは不可能ではあります。しかし、今週回を観て、本作が最終的に「良質な連続ドラマ」になることはほぼ間違いないと思うようになっています。

今週は、ここまで鈴木先生(長谷川博己)とのからみが多かった山崎先生(山口智充)が壊れて退職することになり、自らを山崎先生の姿に重ねた鈴木先生が、生徒の小川蘇美(土屋太鳳)に対する特殊な感情に歯止めをかけようとするという大変重要なエピソードだったと思います。山崎先生が第3話で「どうにかなってしまう」ことは知っていましたが、山口智充さんがとてもいい味を出していたので、ここで姿を消してしまうのはとても残念に思っていました。しかし、山崎先生という存在がこんなに重要な役割を果たすことになろうとは思いもよらないことで、しかも第1話以来、山崎先生が見せたひとつひとつの行動や台詞というものは、ほぼそのすべてが今回の伏線となっており、この脚本が大変緻密に練られたものであることをはっきりと認識しました。

今回露呈した山崎先生の鈴木先生に対する嫉妬心の下地となる描写は、第1話の冒頭からすでに始まっていたということになります。クラス編成会議で鈴木先生が作為的に小川蘇美を自分のクラスに入れたことを山崎先生は敏感に感じ取っており、振り返ってみると第3話で起こった事件の直接的な発端はここにあったわけです。そして、山崎先生が設定した合コンで鈴木先生が彼女を作ってしまったことも山崎先生の鈴木先生に対する対抗心に火をつけたひとつの要素でしょう。第2話では、鈴木先生は出水正(北村匠海)の問題行動について山崎先生に相談していますが、これをまったく参考にしなかったほか、給食問題でも山崎先生の一枚も二枚も上を行く思考で、これをひとまず決着させています。つまり、山崎先生が鈴木先生に嫉妬する状況は、実はこれまで山崎先生が登場したシーンのほぼすべてをもって醸成されてきたと言えるでしょう。

今回の序盤で、飲みに誘った鈴木先生に対して山崎先生はこれらの事実に触れた上で誘いを断っており、二人の関係は山崎先生の中にはっきりと生まれた嫉妬心によって、修復し難いものへと変化したことが描かれていました。これに追い討ちをかけるように山崎先生のクラスの生徒が鈴木先生に相談を持ちかけるという状況に接し、二人の関係はさらにこじれていきます。生徒からの人気、教師としての能力、そして人格のすべてにおいて鈴木先生に劣る山崎先生という図式は、第2回までの些細なシーンや何気ない台詞の積み重ねによって成立しており、今回、生徒による人気投票の結果を知った山崎先生の唐突とも言える精神的崩壊に対する裏付けはしっかりとなされてきていたわけです。このあたりは脚本上の緻密な計算がつぶさに感じられる部分だと思います。今回、山崎先生が姿を消したことで、個人的に今後も注視していきたい、あるいは改めて振り返ってみたいと思っている登場人物は、鈴木先生の恋人・秦麻美(臼田あさ美)です。小川蘇美を交えた「擬似三角関係」に発展するのはどうやら避けられないようです。

さて、今回描かれた内容・テーマは、もちろんフィクションではありますが、果たしてドラマ向けに誇張されたエピソードだったと言い切れるでしょうか。今回山崎先生が依願退職した理由はあくまでも倫理上の問題であって、法に触れたわけではありません。しかし、現実世界では刑事事件として顕在化する教師の淫行・不祥事というものは後を絶たないわけで、このドラマが描いたものは、誇張どころか学校の先生が日常的に抱えた精神的課題だったのではないでしょうか。このドラマがこれまでの学園ドラマと一線を画するのは、生徒の精神的課題というよりも、先生の精神的課題に堂々とスポットライトを当てている点だと思います。このドラマに「現実味」というものを大いに感じると第1話のレビューで書いたのは、先生の思考回路や精神構造がしっかりと描かれているからです。

今回の山崎先生の言動はとても滑稽で醜いものではありましたが、私はこれを「ドラマだから」という一言では片付けられない重要な問題提起だと捉えています。第1話における山崎先生の台詞「教師の性欲対策・・・」は、決して荒唐無稽な発言ではなく、現実的な問題として考えなければならないのかもしれません。このドラマが一貫して描いているものは「先生だって人間である」ということなのです。今回山崎先生が露呈させてしまった精神的課題は、鈴木先生が日常的に抱えていたものとなんら変わらない、同質のものであり、鈴木先生の「向こう側には行かない」という台詞は、自分の精神を冷静にコントロールしようとする決意表明です。おそらく彼にはそれが可能で、小川蘇美に対する特殊な感情は妄想までで完結させることができるはずです。先に触れたとおり、今週は鈴木先生が「一線を越えない」ことがはっきりした重要な回だったと思います。

最後に改めて触れておきますが、このドラマにおける鈴木先生のモノローグシーンはどれをとっても、演出、脚本ともに本当に秀逸です。彼の思考はほとんどが自問自答で成立しており、その中で初めて自覚する自分の身の程(ほど)もあって、彼の「人間らしさ」がとてもうまく表現さているのがこのモノローグシーンだと思います。「雑念消去の術」などは、絶対に他人には言えないきわめてパーソナルな思考であり、程度や質の差はあれ、多くの人が自らの感情をコントロールするために用いている思考方法なのではないでしょうか。鈴木先生が我々と同じ市井の人間であるところが、このドラマが魅力的である理由のとても大きな部分を占めているような気がしています。

関連記事 : (10)鈴木先生 (2011-06-30)
(9)鈴木先生 (2011-06-24)
(8)鈴木先生 (2011-06-19)
(7)鈴木先生 (2011-06-10)
(6)鈴木先生 (2011-06-05)
(5)鈴木先生 (2011-05-26)
(4)鈴木先生 (2011-05-19)
(2)鈴木先生 (2011-05-06)
(1)鈴木先生 (2011-04-29)

<付記>
第3話が無料配信中です。
http://gyao.yahoo.co.jp/special/suzukisensei/
無料配信終了後は有料コンテンツに移行します。

<参考 : ネット局>
 ・ テレビ東京(関東広域圏)
 ・ テレビ北海道(北海道)
 ・ テレビ愛知(愛知県)
 ・ テレビ大阪(大阪府)
 ・ テレビせとうち(岡山県、香川県)
 ・ TVQ九州放送(福岡県)
 ・ 岐阜放送(岐阜県)
以上が同時ネット。以下は放送日時が異なる。
 ・ テレビ和歌山(和歌山県)※13日遅れ
 ・ テレビ熊本(熊本県)※15日遅れ
 ・ 新潟テレビ21(新潟県)※40日遅れ
http://www.tv-tokyo.co.jp/suzukisensei/onair/index.html


タグ:鈴木先生
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コメント 4

めい

ジャニスカさん、こんにちは。
私はすっかりこのドラマにはまってしまいました。
自分なりにいろいろ感じたり、考えたりしつつ、ジャニスカさんはどう観られたのか、知りたくて、レビュー楽しみに読ませていただいています。

「心は自由」なはずなのに、社会で生きていくには、他者の目や自分の中の善悪基準でで、自分の行動だけでなく、心も縛らざる得ない状況があると思います。
先生だって、大人だって、子供のように泣いたり、わめいたり、しっとしたり、道に迷ったりすることがあったって、何が悪いのかと思います。大人だって、その中で自分をみつめるしか、成長できないってあらためて思いました。紙一重の毎日を自分も生きています。山崎先生も鈴木先生もあさみさんもいとおしい。

生徒の浜田マリさんが、川辺さんから「なんで私が男の人にやさしくされるとじゃまをするの」と言われ、絶叫するシーン、傷つき壊れたのは、山崎先生だけじゃなかったと思いました。この中から、なにかを感じ、生徒たちも成長していくのだと思います。ほんとうにすごいドラマです。

ジャニスカさんのおっしゃる通りです。「現実味」があるドラマと思います。



by めい (2011-05-14 10:32) 

雛

ジャニスカさん、こんにちは。
JRAのCMのブログの時から愛読させて頂いております。
今期のドラマ選びの参考にもさせて頂いておりました。

鈴木先生はタイトルのイメージで生徒主体の学園ものかと
思い込み重要な第1話を観損ねたのが大変悔やまれまが、
2話からでも充分に引き込まれて観ています。
重ねて後日アップのジャニスカさんのレビューが楽しみです!

長谷川博己自体がセカンドバージン以来ファンなんですが、
それはともかくとしても「聖職とされている教師」も1人の人間
心の中は自由な普通の人間であるという今までTVや映画では
「暗黙のタブー視」されていたテーマが描かれていて目が離せません。

うまく言葉で表現できずお恥ずかしいですが、
これからもレビュー期待しております^^


by (2011-05-14 11:50) 

ジャニスカ

めいさん、こんにちは~。
深く考えさせられるドラマってこれまでもあったのかもしれませんが、
このドラマは、考えることを決して強要していないような気がしています。
いつのまにか自分を顧みていると言えばいいでしょうか。
それぐらい我々の日常にも普通に存在している物事を描いているんだと思います。

私もこのドラマの登場人物はみんないとおしいと思うようになっています。
特に今回は山崎先生がとんでもないことになってしまいましたが、
潔癖な方の中には、今回の彼の行動に嫌悪感を抱く人も多かったかもしれません。
でも「先生だって人間である」は、とても現実的な概念なんだと思います。
山崎先生のような状況に陥るかそうでないかは紙一重で、誰もが陥る可能性を秘めた課題なんですよね。
山崎先生に自分を重ねることができるかどうか、いとおしいと思えるかどうかは、
このドラマのテーマを受け入れられるかの「踏み絵」だと思います。
テレビドラマにファンタジーだけを求めている人には、このドラマは受け入れてもらえないかもしれません。
その意味でもやっぱり「大人のための学園ドラマ」なんですよね。

めいさんには、ぜひこちらを読んでいただきたいです。
http://ameblo.jp/tao-tsuchiya/entry-10890319396.html
小川蘇美を演じている土屋太鳳ちゃんが第3話の感想を書いてくれています。
彼女も山崎先生を嫌いになれないとおっしゃっています。
想像力を働かせて山崎先生という人間をすごく多角的に見ようとしてくれていて、嬉しくなってしまいました。
彼女はまだ高校生ですけど、このドラマのテーマをわかろうとしてくれています。
我々も、もっともっと深く考えなければなりませんね。

by ジャニスカ (2011-05-14 20:27) 

ジャニスカ

雛さん、こんにちは~。
いつもご来訪ありがとうございます。参考にしてもらえてうれしいです(^^)。
「鈴木先生」は、ほとんどアスミック・エース制作というだけで期待度上位にしたところがあって、
私も内容については漠然としたイメージしかなかったんですけど、
まさかこんな学園ドラマだとは想像もできなかったので、うれしい誤算です。。。

私も長谷川博己くんのことを「セカンドバージン」で初めて知ったんですけど、
それ以外で彼の作品をまったく観たことがなかったので、どんなお芝居をしてくれるのか興味津々でした。
鈴木先生という硬軟あわせ持った役柄をとても上手に演じていて、やっぱりいい俳優さんだと実感しています。

第4話の次回予告はご覧になられましたでしょうか。
私は、こんなに「来週も観たい!」と思わせる次回予告に出会ったのは久しぶりです。
「いかしずぎだぜ!」に早くも爆笑しております(^^)。
なんでしょう、この今まで感じたことがなかったワクワク感は・・・

by ジャニスカ (2011-05-14 20:29) 

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