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(2)鈴木先生 [ドラマレビュー]

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『 鈴木先生 』
第2回
( 2011年 テレビ東京=アスミック・エース 公式サイト
監督:河合勇人 脚本:古沢良太 出演:長谷川博己、臼田あさ美、山口智充、田畑智子、富田靖子、でんでん

本作が学園ドラマの既成概念を打ち破ることに成功しているのはもはや間違いなく、その本質を端的に表現すれば、「大人のための学園ドラマ」ということになるでしょう。そもそも初回のエピソードも「性教育」を題材としており、それもかなりヘビーなシーンもあって、ちょっと家族そろって観られる内容ではありませんでした。しかし、本作が「大人のための学園ドラマ」である理由はどうやらそういうことだけではないようです。本作は、大人が保持している当たり前の価値観を打ち砕き、すべての大人に再考を促すような性質を持ったドラマなのではないでしょうか。

このドラマは日常に普遍的に存在するグレーゾーンにスポットライトを当てている作品だと私は考えています。大人の価値観というものは、長く生きている分だけ、子供よりも白黒をはっきりさせてしまっているところがあって、普通に生活していると、今さらそれを疑って見直す作業に取り組むこともないし、そもそも気にも留めずにスルーしてしまっているのが大人というものなのでしょう。しかし、子供は違います。毎日毎日、グレーゾーンに直面し、その都度立ち止まって悩んでいるのです。

すでに白黒がはっきりしている大人にとっては、子供が何に悩んでいるのかを理解するのは困難な作業であり、そのことを象徴するのが、今回、出水正(北村匠海)の問題行動の原因を必死に見抜こうとする鈴木先生(長谷川博己)の姿だったと思います。そして、それがかつて鈴木先生自身も悩んだことがある事象であるところが、このエピソードにさらなる深みをもたらしています。つまり、鈴木先生はその事象に対して自分らしさを封印することで折り合いをつけて生きてきたわけで、とっくの昔に決着が付いた(=白黒付けた)事柄だからこそ出水の問題行動の理由をすぐには理解できなかったのです。でも、当たり前ですが、鈴木先生は大人は大人でも「先生」であるところが重要で、彼は出水正の問題行動の中にグレーゾーンを見出し、そこに積極的に飛び込んでいこうとするのです。

この問題に直面した普通の大人の口をついて出てくるのはせいぜい、「そんなことは止めなさい。どうしてそんなことをするんだ」といったものでしょう。もっともこのドラマの場合、鈴木先生の機先を制して出水自身に「そんなこと聞くなよな」と言わせてしまっています。前回も同様でしたが、大人(先生)が子供(生徒)から難題を突きつけられ、その問題に向きあう中で物事の本質を思い知るのが、このドラマの大雑把な図式ということになると思います。そう考えると、鈴木先生が好意を抱く生徒・小川蘇美(土屋太鳳)の存在は実に興味深いところで、つまり、彼女はあらゆる事象に介在するグレーゾーンの存在(=物事の本質)にすでにはっきりと気がついている少女であり、実際、鈴木先生よりも先に出水の行動が意味するところを理解していました。だからこそ鈴木先生は彼女を「スペシャルファクター」と評し、知らず知らずのうちに惹かれ、無自覚に妄想してしまうのでしょう。

もうひとつのエピソードにも触れておきます。給食メニューのエピソードは、実に深くて重みのあるものだったと思います。あの職員会議の風景はリアルすぎます。生徒からアンケートをとって、数字を見て物事を判断し、解決しようとするのは、大人の価値観に立てば、一見有無を言わせないほどの正しさを持っているような気すらしてしまいます。そして、江本先生(赤堀雅秋)の「みんなが美味しく食べられるようになんらかの指導していく」という言葉は、先生の方便としてはまっとうなものだし、私自身納得しかけてしまいました。私はこの意見に対する鈴木先生の台詞を聞いて、はっとしました。そんな指導はできないのが教師なのです。

 「強制力のない今の我々には、とても欲している人もいるひとつのメニューが、
 こうして消えていく寂しさを、せめて生徒たちに印象付ける・・・それぐらいしか術がない・・・そう思うんです」

鈴木先生が出したこの結論は、グレーゾーンが存在することの大切さを意味していると思います。グレーゾーンのそこかしこに散在する生徒たちの気持ちをできる限り掬い取ろうとする・・・これこそが先生の仕事であり、大人が見失ってしまっている物事の本質だと思います。これは、出水正の問題行動についても同様です。この問題の解決策に思い悩んだ鈴木先生が出水の両親と面談することによって、何らかのヒントを得ようとするところは、もはや彼らしい行動ということになります。

 「教育とは、折に触れ・・・ではないでしょうか」

この出水の父親(小木茂光)の言葉は、奥が深すぎます。問題を先送りにし、曖昧なままにしておくことは決して悪いことではない・・・そんなことを言ってしまう学園ドラマがこれまであったでしょうか。そして、何よりこの言葉自体が曖昧さを含蓄した表現であり、この言葉の意味と重みを瞬時に理解し、それをすぐにでもフィードバックさせようとするところが、鈴木先生の教師としての非凡な能力ということになります。

私は、今週回を観ながら、「深い・・・」というつぶやきを連発していました。子供の疑問や悩んでいる内容とは、大げさに言えば「哲学」だと思いました。なんでもかんでも白黒はっきりさせようとするのは大人の悪い癖だと思います。本作は、我々大人が自らを顧みて、深く思考するドラマなのです。我々は、このドラマを通じて、自分が当たり前のように正しいと信じてきた価値観を疑う機会を与えられているということを自覚しなければならないと思います。

さて、このドラマをご覧になられていない方がここまで読んだら、とても硬派なドラマと思われるかもしれません。ところが、まったくお堅いドラマなんかではないところが本作が良作たる所以だと思います。冒頭における鈴木先生と小川蘇美のからみにはいきなり爆笑したし、最後も鈴木先生の小川蘇美に対する妄想で締めくくっており、結局このドラマは、笑いとシリアスの触れ幅で表現する社会派エンタテインメント作品ということになるんだと思います。今までになかったタイプのテレビドラマであることはどうやら間違いないようです。

関連記事 : (10)鈴木先生 (2011-06-30)
(9)鈴木先生 (2011-06-24)
(8)鈴木先生 (2011-06-19)
(7)鈴木先生 (2011-06-10)
(6)鈴木先生 (2011-06-05)
(5)鈴木先生 (2011-05-26)
(4)鈴木先生 (2011-05-19)
(3)鈴木先生 (2011-05-13)
(1)鈴木先生 (2011-04-29)

<付記>
第2話が無料配信中です。
http://gyao.yahoo.co.jp/special/suzukisensei/
無料配信終了後は有料コンテンツに移行します。

さらに再放送の予定があります。
第1話 5月7日(土)12:58~ (関東ローカル)
第2話 5月8日(日)16:00~ (ネット)
http://www.tv-tokyo.co.jp/suzukisensei/news/index.html

<参考 : ネット局>
 ・ テレビ東京(関東広域圏)
 ・ テレビ北海道(北海道)
 ・ テレビ愛知(愛知県)
 ・ テレビ大阪(大阪府)
 ・ テレビせとうち(岡山県、香川県)
 ・ TVQ九州放送(福岡県)
 ・ 岐阜放送(岐阜県)
以上が同時ネット。以下は放送日時が異なる。
 ・ テレビ和歌山(和歌山県)※13日遅れ
 ・ テレビ熊本(熊本県)※15日遅れ
 ・ 新潟テレビ21(新潟県)※40日遅れ
http://www.tv-tokyo.co.jp/suzukisensei/onair/index.html


タグ:鈴木先生
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コメント 2

よっこ

ジャニスカさんのおっしゃるように深い、面白い、また見たいドラマでした。
ありがとうございました。残念ながら私の住む地域ではテレビで見れません。
(教えていただいた無料配信で見ました。)残念です。
by よっこ (2011-05-11 21:07) 

ジャニスカ

よっこさん、こんばんは~。
このドラマを観ることができない人がたくさんいるのは私も残念です。
テレビ東京のドラマは放送終了後、BSで再放送されています。
もしBSをご覧いただける環境がありましたら、およそ3ヶ月遅れで視聴できます。

by ジャニスカ (2011-05-13 17:27) 

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