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(6)流れ星 [ドラマレビュー]

『 流れ星 』
第6回
( 2010年 フジテレビ
 公式サイト
演出:石井祐介 脚本:臼田素子、秋山竜平
 出演:竹野内豊、上戸彩、北乃きい、松田翔太、稲垣吾郎

今週回をご覧になられた方なら、口をそろえてこうおっしゃるでしょう。

 「涼太に泣かされた」

私は桐山照史(きりやまあきと)くんをこのドラマを観るまで、まったく存じ上げなかったんですけど、正直ここまでできる子だとは思っていませんでした。今回は死が間際に迫った病人を完璧に演じきっていたと思います。私はそう感じさせる最大のポイントが表情の強張り方だと感じていて、顔の筋肉すらもうまく使えないのが死が迫った病人のリアルな姿でしょう。それでもマリアの前で必死に笑顔を作ろうとしている涼太に我々は心打たれてしまうわけです。

以下は私の想像ですが、彼は今回の涼太を演じるにあたって、1週間ぐらい粗食で過ごしたんじゃないでしょうか。あのリアルな唇の乾き様は、このシーンの数時間前から水も口にしていなかったのではないかと想像しています。そういう役作りの効果というものは、痩せたとか顔色が悪いとか目に見える表面的な部分だけに現れるものではなく、役者さんが病人という役柄に入り込むためにもそのような役作りの過程が存在していることがとても重要なんだと思います。想像の域を脱しませんが、見るものにそんなことを想像させてしまうような迫真のお芝居だったということだけは間違いありません。

このドラマの演出志向が、徹底して監督の自己主張を排除することで、俳優さんのお芝居を引き立て、物語を巧みに盛り上げているということにはこれまでも再三言及してきました。今回はそういうスタンスの演出が涼太の死をどうやって切り取ったのかということについて少し触れておきたいと思います。

涼太の死の描写は、肖像画を描いていたマリア(北乃きい)が涼太の病室を出たところから始まります。石井祐介監督はここから、一切の音をオフにしてやわらかい印象の劇伴を導入させ、スローモーションを基調とした映像で涼太の最期の瞬間を切り取っていきます。心臓マッサージを施される無表情の涼太、その場に立ち尽くして見守るしかない家族、救えなかった医師・神谷(松田翔太)の無力感が漂う背中、そして、ただただ涼太の無事を祈るマリアの姿・・・誰も感情を露わにしないし、ましてやこのシーンの登場人物の目には涙のかけらもないわけです。このシーンは言ってみれば逆説的表現で視聴者の涙を誘うことに成功しており、このあたりがこのドラマの演出が押し付けがましくない、自己主張しないと感じられる所以だと思います。

そして、続くシーンでマリアに亡き涼太からのビデオメッセージが届きます。私はこの時点では「あー、余命一ヶ月の花嫁パターンかぁ・・・」と若干の失望感を覚えてしまいました。しかし、携帯電話の画面に映し出されたのは、生前約束していた落語を必死に披露する涼太の姿であり、第1話以来のわかりやすすぎる伏線がここに結実しました。これは「手術を受けろ」などという直接的な言葉よりもよっぽどマリアの心に響くメッセージだったに違いなく、あふれるマリアの涙をもって本編中初めて涼太の死に対する直接的な感情が表現されます。また、ここに至って満を持して主題歌が導入されているところも見逃せません。これは脚本上も演出上も、とてもうまく「ため」が効いた悲しみの感情表現だったと思います。

前述のとおり、涼太が最期を迎えるシーンはあえて感情を抑制するような演出で成立しており、オフになった音の代わりに導入する音楽の存在はこのシーンの印象を決定付けるのに大きく貢献しています。このシーンでかかる女声が入った曲は、これまでも物語の要所で使用され、我々を画面に惹きつける役割を果たしてくれており、主題歌に次いでこのドラマを象徴する楽曲になっていると思います。

このドラマの音楽を担当する井筒昭雄さんのお名前は、ドラマでも最近よく目にするなとは思っていましたが、『ブラッディ・マンデイ』(TBS)や『ジョーカー 許されざる捜査官』(CX)など、ここ数年で多数のオリジナルサウンドトラックを発表しています。プロフィールを拝見すると、まだとてもお若いことに驚く一方で、ちょっと納得してしまったのは、音大出身ではないギタリスト上がりの作曲家であるというところです(井筒昭雄さんのプロフィールはこちらをご覧ください)。

これは個人的な好みの問題ですが、私はオーケストラを前面に出した劇伴があまり好きではなくて、映画やドラマの展開が盛り上がってきたところで、観る(聴く)ものの気持ちを煽るようなオケが主張してくると、ちょっとげんなりしてしまうことがあります。それゆえにクラシックからバッチリ作曲を勉強しているような音大出身の作曲家よりも、多種多様な音楽を聴いていてあまり型にはめて曲を作ることがないギタリスト出身の作曲家が作る劇伴の方に魅力を感じることが多いです。

余談ですが、このレビューを書くに当たって、井筒さんが作曲した『ブラッディ・マンデイ』(TBS)のテーマ曲を初めて聴いてみたんですけど、この方、『さまよう刃』のレビューでも少し触れた川井憲次氏の影響を多少なりとも受けているのではないかと感じています。打ち込まれている音の種類と数がとても豊富だし、「流れ星」とはまったく対極にあるような曲調で、やはり型にはめて楽曲を作っていないという印象を覚えました。ちなみに川井憲次氏も音大ではなく理系大学の出身です。

さて、今後のストーリー展開を占う上では、今回の終盤に登場した、修一(稲垣吾郎)が健吾(竹野内豊)と梨沙(上戸彩)の2ショット写真を二つに破り、健吾が写っている方を細切れにして海に捨てるという描写が大変重要な意味を持ってくると思います。修一の妹に対する変質的とも言っていい愛情と執着心はちょっとただ事ではなくて、今後も彼の常軌を逸した行動が目立つようだと、最終的に梨沙は、ズバリ修一の死をもって兄との決別を果たすということになると思います。前回も触れたとおり、修一がなんらかの改心をするという選択肢がほぼ絶たれている以上、この方面の収拾をつける方法は修一の死をもってするしかないと感じています。

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テンコ

涼太には泣かされました。
桐山君は私も初めて知りましたが、ジャニーズなんですね。こんなにすごいお芝居をするなんて将来が楽しみです。
渡された携帯に…私も手術を受けろというメッセージなのだろうか、だとしたら、ありきたりな使い古された感じだなと内心思っていましたが、そうこなかったことにこのドラマの素晴らしさを感じました。やっぱりがっかりさせません。
音をオフにして淡々と描いた臨終の場面、私も素晴らしいなと思いました。
ここを大げさな音や声、音楽でやられたら、嫌でした。辛く悲しい場面をこうして抑制させることで、とても神聖な雰囲気になりました。

>このドラマの演出志向が、徹底して監督の自己主張を排除することで、俳優さんのお芝居を引き立て

なるほど、そうだったんですね。最近は監督の自己主張が強い作品がもてはやされてます。このドラマの心地よさ、癒されるような安心感はここから来てるのでしょうか。俳優の良さが最大限引き出されている感じがします。
たとえば、上戸彩ちゃんは、金八先生のデビュー作は性同一障害の女子という暗い複雑な役でしたが、彼女はこういう影のある役の方が魅力が増すのだな、と感心しています。竹野内豊さんも色々な役柄ができると思いますが、今回のように、心優しく寡黙な男の複雑な心境を繊細に表現できる方だとは、知らず驚いています。キムタクなら無理でしょう。(?!)
稲垣吾郎氏の悪気のなさそうなひょうひょうとした雰囲気がかえって恐ろしく極悪に見え
るのも演出のなせる技でしょうか。

音楽の良さもドラマの重要な要素ですね。音楽がイマイチだと、せっかくの場面が台無しになることもありそうです。流れ星の音楽はいいところで良い感じで流れて心地よいです。

私が今回すごく感心したのは、車から降りてくる彼ら、海に入ってしまってぬれているはずなので、タオルを巻いていたりしたこと。
こういうのは韓国ドラマではずさん、いつ乾いたの?というくらいキレイな格好で戻ってきたりして、さすがと思いました。
by テンコ (2010-11-25 22:03) 

ジャニスカ

テンコさん、おはこんばんちはー。

このドラマの演出志向については、以前に「原点回帰」という表現を使ったことがありますが、1990年代のドラマはみんなこんな感じでした。悪く言えば没個性ということにもなるんですけど、近年のドラマは監督の功名心や自己満足みたいなものが見え隠れするどこか不純とも言える絵作りとか演出に辟易していたところがあって、古くささよりもむしろ新鮮さを感じています。このドラマ、けっこう業界視聴率は高そうなので、近年のドラマ演出の方向性に一石を投じることになるといいなとひそかに思っています。

おっしゃるとおり、このドラマは、主演のお二人をはじめ、それなりにキャリアのある役者さんの新しい面を見せてくれていると思います。私も第1回を観て真っ先に驚いたのが竹野内豊さんの繊細なお芝居でした。私の中ではこの世代の俳優さんでは一躍、最注目の役者さんのひとりになっています。仮に木村拓哉さんがこの役をやるとしたら、毎回一度は舌打ちする芝居を入れ込んでくるでしょうね(^^;。どういう芝居をするか想像できちゃうところが、芝居がワンパターンと言われてしまう所以でしょう(毒^^;。

稲垣吾郎さんのお芝居については、演出というよりも、自力であの雰囲気をかもし出しているような気がします。巷では(役柄が)相当嫌われているようですけど、彼がいなかったら、このドラマの面白さは確実に半減しますから、本当に吾郎ちゃんでよかったと思います。いわゆるハマリ役ですよね。

>私が今回すごく感心したのは、車から降りてくる彼ら、海に入ってしまってぬれているはずなので、タオルを巻いていたりしたこと。

テンコさん、鋭い!私も同じこと感じました。しかも、今週は冒頭に「前回までのあらすじ」的なパートがなくて、おっしゃるような描写が冒頭からいきなり始まったんですよね。でも、マリアがタオルに包(くる)まれているのを観て、前回を見た人ならば瞬時に「オレンジ色の海」のシーンを思い出すと思うんです。私は、あれは前回とのつながりをしっかりと意識した、いろんな意味で計算高い演出だったと思っています。

本当に細かいところを見ちゃうドラマですよね。来週以降もお気づきのマニアックなポイントがありましたら、どんどん教えてください!(^^)
by ジャニスカ (2010-11-26 22:24) 

のん

ブログの記事拝見させて貰いました。
全部は少し無理だったので流れ星の記事だけですが…
すごく的確と言うかすごい細かい所まで見られてて見ててあーと納得させられたりしました。
そして、私桐山照史くんの事が好きなんですが桐山くんの事も書いてあって凄く嬉しかったです。
毎週火曜日10時からNHK総合で「真夜中のパン屋さん」と言うドラマにも出演されているので良ければ見て頂けると嬉しいです。
by のん (2013-12-12 19:46) 

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