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龍馬伝 最終回 [ドラマレビュー]

『龍馬伝』
最終回

( 2010年 NHK 公式サイト )
演出:大友啓史 脚本:福田靖 主演:福山雅治

以前にも一度だけ取り上げたことがありますが、私は今年の大河ドラマについては一歩引いたところから拝見していました。正直申し上げて、私はこの『龍馬伝』を評価していないし、それどころか、近年の大河ドラマそのものに対して、失望、落胆の念を禁じえないといったところです。大河ドラマそのものについての私の感慨は長くなるので、別の機会に譲るとして、とにもかくにも、昨日の『龍馬伝』最終回、龍馬暗殺のシーンを振り返らなければなりません。

坂本龍馬最後の瞬間は、さまざまな映画やドラマ、ドキュメンタリーで描かれてきましたが、はっきり申し上げて、昨日のものは最低の出来と言わざるをえません。大河ドラマの演出の最大の特徴は、主要なシーンのほとんどがスタジオ撮影であるところで、『龍馬伝』ではこれをさらに複数のカメラを用いて長回しで撮影し、編集段階でどの絵を使用するかを決めていくという、いわゆるカット割やカメラ割がない、極めて斬新な撮影手法で作られています。この手法の最大のメリットは、役者さんのお芝居を切らないことであり、画面の向こう側にある雰囲気や情感をダイレクトに映像に刻み付けることに成功していると思います。

一方で、カット割やカメラ割がないということは、ある面では最初から監督の思惑が介在していないも同然であり、監督が表現したいことのほとんどは役者さんのお芝居に委ねられているということになると思います。撮影準備段階でいかなる映像をもって最良のものとするかという周到な計算がない以上、ポスプロ段階に至って、監督にできることは、撮れた映像の中から最良のものを選び取ることだけであり、そこに妥協はなかったとはとても考えられないと思ってしまうのは素人考えでしょうか。龍馬暗殺のシーンに関しては、どのような手法で撮られていたのかをはっきりと判断することはできませんでしたが、少なくとも周到な計算の元に「絵作り」がなされたシーンではなかったのは確かだと思います。

そのような言ってみれば出たとこ勝負の撮影で何が撮れていたのかというと、果たしてあれは何が映っていたんでしょうか。申し訳ありませんが、あれは失笑ものの映像と言わなければなりません。私はあの映像を見て、頬が引きつり、次の瞬間、「水曜スペシャル・川口浩探検隊」のワンシーンを思い出し、失笑してしまいました。あのシーンは、探検隊が大蛇を発見して、カメラマンが混乱をきたし、何を撮っているのかわからなくなってしまった映像にそっくりでしょう。ようやくカメラが静止して、はっきりと映し出されたのは、すでに血まみれになった龍馬の姿であり、あれは探検隊のカメラマンが落ち付きを取り戻してピントが合ったら、きれいにとぐろを巻いた常識の範囲内の大きさの蛇がそこにいたみたいなパターンの映像に近いものがあると思いますが、いかがでしょうか。ちょっとたとえが古すぎて、誰にも共感してもらえない可能性がありますが・・・(^^;。

本編ではその後も、とにかく顔よりの絵をつないでおり、「状況」については何も見せておらず、結局、「あの瞬間」の何を描けたのかといえば、(カメラマンの?)混乱のみということになると思います。あえて言ってしまえば、このドラマの作り手は龍馬暗殺のその瞬間をもって何かを表現するということから逃げたんだと思います。細部については視聴者の想像にお任せしますといえば聞こえはいいですけど、あんな「ごまかし」以外の何ものでもない子供だましの映像を使われてしまっては、「何か」を期待してテレビに向かった視聴者を愚弄していると取られても仕方がないと思います。私はBS-hiで拝見しましたが、地上波ではあのタイミングでニュース速報(しかも選挙)が出たそうで、NHKは輪をかけて視聴者を馬鹿にしています。ただでさえどこを見ていいのかわからない映像だったのに・・・。

また、今井信郎および京都見廻組は、最終回にして突如として現れ、なんだかよくわからない動機を述べて、事に及んでおり、前回までにあれだけあらゆる勢力と人物が龍馬の命を狙っているかのような描写をしておいて、結局、京都見廻組単独犯のような描き方にしているのも到底納得いきません。私は前回、徳川慶喜にまで不敵な笑みを浮かばせているのを見逃していません。最終回を楽しみにしていたほとんどの人が、このドラマは龍馬暗殺の黒幕に言及すると思い込んでいたはずですが、このドラマの作り手は、ここでも結局、何も描かずに視聴者の想像力に委ねてしまったわけです。たとえば以前も取り上げたこのドラマにおける近藤勇という人物像についての脚色といい、徳川慶喜の将軍としての威厳や気品がまったく感じられない俗物ぶりといい、このドラマの作り手は史実や人物像の定説をやりたい放題捻じ曲げてきたのに、こと最終回に至って、このドラマ最大のクライマックスともなる史実を描くにあたっては脚本的にも演出的にも完全に及び腰になってしまったようです。

これで芸術祭参加とは笑止千万ですね。あんな白飛びしまくった映像が芸術とでも言うんでしょうか・・・。ビビる大木さんのお芝居自体は悪くはなかったとは思いますが、結果的にこのドラマの敷居を思いっきり下げてしまっているのも間違いないでしょう。

関連記事 : 龍馬伝 第32回(2010-08-09)


タグ:大河ドラマ
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コメント 5

NO NAME

映像・撮影手法にお詳しいようですね。
ただ、別にニュース番組や(スポーツなどの)解説番組ではないので、細部を事細かに見せる必要は無かったと思います。加えて、重要な歴史的な出来事なので、細部は曖昧にする手法で正解だったと思います。
つまるところ、映像手法を番組のジャンルという観点と付き合わせる視点も必要だと読んでいて感じました。あしからず。
by NO NAME (2010-11-30 00:13) 

ジャニスカ

このドラマがお好きな方には刺激が強すぎる文章でしたね、、、失礼しました、、、
by ジャニスカ (2010-11-30 00:23) 

Sho

もうね、あの"テロップ"。
これに尽きます。
昔はよほどのことが無い限り、ニュース速報は流れなかったですよね。
あの瞬間から、全てが台無しになりました。
今思い返しても腹がたってきます。
あんなことしておいて、偉そうにしてんじゃないよ、NHK!!!
まだ怒ってます。
by Sho (2010-12-03 05:21) 

ジャニスカ

Shoさん、お怒りですねー。

本文に書いたとおり、私個人的には何度みてもニュース速報が出ていた部分はそれほどの価値がある映像だったとは思えないんですけど、「興冷め」っていうことですよね。一瞬ですけど龍馬の顔にテロップがもろかぶりのカットもあって、これは1年間かけて龍馬さんを作り上げてきた福山雅治さんに対して失礼すぎる仕打ちで、私はその点に怒りを覚えています。「龍馬はニュース速報に暗殺された!」という皮肉を言っている方もいました。

NHKに抗議や問い合わせのメールや電話をすると、判を押したように「土曜日の再放送をご覧ください」という回答があるらしいです。そういう問題じゃないのは明らかなのに、そんなことを平気で言えてしまうのは、やっぱりNHKは視聴者のための番組作りという感覚が欠如しているんだと思います。税金みたいな受信料で成立しているNHKはやっぱり役人みたいな発想で仕事しているんですね。

ちなみに、こんなに話題になっているのに今ひとつ知られていませんが、当該のニュース速報の内容は「愛媛県知事選の当確情報」でした。これって誰のための「ニュース速報」だったんでしょうか。
by ジャニスカ (2010-12-03 06:54) 

tarou

龍馬も中岡もおの若さで燃焼しましたね。
by tarou (2010-12-04 23:55) 

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