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(5)流れ星 [ドラマレビュー]

『 流れ星 』
第5回
( 2010年 フジテレビ
 公式サイト
演出:宮本理江子 脚本:臼田素子、秋山竜平
 出演:竹野内豊、上戸彩、北乃きい、松田翔太、稲垣吾郎

今週は宮本理江子さんの演出でした。私としてはこのドラマのどこに注目しているかということになると、ストーリーもさることながら、宮本演出をじっくり拝見できることを最大のポイントとしています。 

相変わらず、ゆったりとしたカメラワークと広い絵、長回しを基調とした演出がとても心地が良いです。そのような小細工がない、それでいて緻密に計算された演出が役者さんのお芝居のポテンシャルを最大限に引き出し、それが結果的に登場人物の心情を巧みに掬い取っているということにはこれまでも再三触れてきました。今回はそんな宮本演出の効果を最も端的に読み取れるシーンがあったので紹介しておきます。

今週は、健吾(竹野内)の家族が抱える過去の事情がかなり明確になった回となりました。その中でも注目したいのが、健吾と彼の父との関係で、健吾は何らかの理由で父と仲違いをし、どちらかといえば憎しみに近い感情を父に対して持ち続けていたと考えられます。しかし、往々にして一方的な思い込みに基づく認識がそのような負の感情を増幅させることがあり、歳を重ねて人生経験を積むにしたがって、過去の出来事を冷静に見つめ直すことができるようになるものです。健吾の場合、過去を見つめ直すきっかけとなったのが、父の遺品であるコンパスだったということになるでしょう。

健吾はこのコンパスの存在をもって十数年越しで父の想いを知るわけですが、健吾は父の墓前に来たところで、突然そのことについての感慨に襲われます。宮本演出は、その瞬間を75秒という長尺のカットの中で切り取ろうとしています。

  A                           (34:31)
2010111701.jpg

Z.I.
 A'                           (35:46)
2010111702.jpg
 
  B                           (35:50)
2010111703.jpg
   
  C                           (35:57)
2010111704.jpg
  D                           (36:00)
2010111705.jpg
 

Aのカットは、途中手元のカットを2つインサートしてますが、始まりから終わりまで止まることなくゆっくりと健吾の顔にズームインしています。この間、竹野内さんは、

 ・ 初めて訪れたという父の墓を眼前にした複雑な心境から、
 ・ 父のコンパスを取り出して、父と過ごした日々を思い出し、
 ・ コンパスの裏に刻まれた文字を見て、父の自分への想いを知り、
 ・ 後悔の念と父に対する贖罪の念に駆られ、
 ・ あふれる気持ちを抑えられず、父の墓に歩み寄る。

までを75秒という時間の中でしっかりと演じきっており、大変見ごたえのあるカットでした。これを1カットで撮ろうとする演出は簡単にできそうでできないもので、別の角度からも表情を押さえておきたいというような演出家の欲のようなものが働いてしまいがちなところです。こういう肝の据わった演出を見てしまうと、私はついつい『おっぱいバレー』という映画の「演出上の愚行」を引き合いに出してしまうのですが、できる人のお芝居を監督が切り刻んでしまうことほど野暮なことはありません。監督にとって一番重要なことは、役者さんのお芝居を信頼することであり、そのような気持ちがあれば、ここぞと言うときは役者さんのありのままのお芝居を小細工なしで撮ることが最善の策であるという結論にたどりつくはずです。

そして、つづくBのカットで健吾の背中を見せることによって、長かったAのカットの余韻を表現すると同時に、視聴者に健吾の気持ちを汲み取る時間的余裕を付与しています。さらに、このBのカットは背後に近づいてきた梨沙(上戸彩)の視点でもあり、C~Dのカットにつながっていきます。このつなぎによって、我々は健吾の背中を見て何も言わずに立ち去った梨沙の気持ちをしっかりと汲み取ることができるわけです。これらのたった4つのカットで表現された感情の厚みと情報量の多さに、演出家と俳優さんの信頼関係が感じられるとともに、宮本さんの演出と竹野内さんのお芝居が見事に咬み合っているということを改めて認識しました。また、Aのカットが始まると同時に、バックに主題歌のピアノバージョンが始まるというところも心憎い演出です。

今回は終盤にも、もうひとつ見ごたえのあるシーンがありました。「オレンジ色の海」、本栖湖でのシーンは、主要な登場人物、4者4様の「家族」というものに対する想いが入り乱れる複雑なシーンでしたが、それぞれの想いの微妙な齟齬(そご)が巧みに表現されていました。このシーンは、前述のシーンとは違って複雑なカット割がなされているので、上記のように深く堀り下げることはできませんが、母・和子(原田美枝子)がマリア(北乃きい)に血のつながらない彼女を引き取ったときの想いを吐露する部分は、それぞれの表情を捉える2つのカットを切り返して成立しており、ここでもお二人のお芝居を切らない演出が施されています。

さて、ラストシーンでは梨沙の兄・修一(稲垣吾郎)がついに「住居侵入」という不法行為に及ぶ場面が描写され、彼の執念深い狡猾さが印象付けられており、この期に及んで「実はいい奴だった」的な流れは、ほぼ絶たれたものと言っていいでしょう。今後修一についての描写をそういうキレイ事でまとめるような流れになったとしたら、このドラマに対する評価をひとつ下げなければならないところです。やはり梨沙が兄との決別をもって、新しい人生に踏み出し、その隣には健吾がいる、というのが今後の大雑把な流れになりそうです。

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ひとやすみ

ジャニスカさん、またまたレビューありがとうございます。(*^_^*)
お気に入りのシーン、父の墓前の画像も説明も嬉しいです。
感覚的に観てるので、
こういう風に分析してくれると目から鱗、なるほど納得。
頷きながら読みました。

このドラマが、深刻な題材を扱っていながらも心地いいのは
宮本監督の役者を信頼する演出があったからなんですね。
最近は、せっかくの役者さんのいいお芝居を
台無しにするような演出が多いと思ってたので
こういう演出は嬉しいです。

by ひとやすみ (2010-11-18 23:16) 

ジャニスカ

ひとやすみさん、こんばんは。

墓前のシーンは本当に素晴らしかったですね。
竹野内さんは何度拝見しても非の打ち所のないお芝居をしています。
75秒のカットなんてテレビドラマでは本当に珍しいんですよ。

でも、ドラマは感覚的に観てくださって結構ですよ~(^^)。
本文に書いたことは、私の個人的興味から何度も観て各々のカットの意味を勝手に解釈したもので、結局は感覚的に観て感じたことがすべてだと思います。ただ、映画やドラマの監督がどんな仕事をしているのかといことをもっと多くの方に知っていただきたいという想いは常に持っています。

こうやって映像をキャプチャーしてみると、Aカットの始まりの構図がとても美しいことに気がつきました。墓石と健吾の間、ちょうど画面の中央に教会の十字架が入る構図になっているんですよね。こういうところからも作り手の意思を感じ取っていきたいところです。

ご存知かもしれませんが、宮本理江子さんは「ビーチボーイズ」のチーフディレクターだった方なので、竹野内さんとの信頼関係はリアルに感じられるところです。宮本さんはこのシーンのこの部分を1カットで撮ることをさして迷うことなく決定したような気がしています。
by ジャニスカ (2010-11-19 21:42) 

テンコ

こんにちは。

>ゆったりとしたカメラワークと広い絵、長回しを基調とした演出がとても心地が良いです。

なるほどそうなんですね。このドラマ、画面にひきつけられてしまうのは、こういった演出のおかげなのですね。竹野内演じる健吾が誤解して嫌っていた父への思いが、だんだんと変化していく様子が素晴らしかったです。
声をかけるのをためらう梨沙に、普段荒っぽいしぐさの彼女ですが、実はとても繊細で心優しい部分をもってるとわかります。

他のドラマなどで、せっかくの素晴らしくできる人の演技を切り刻んで生かせない演出がある、そういうことなんですね。こうやって考えると本当に演出は大事ですね。

番組HPを観てみたのですが、竹野内さんのコメントでも、「ビーチボーイズ」の時の演出家とのことで信頼関係があるとのこと、彼を信頼して演技してもらっているのですね。

マリア(北野きい)が病人とは思えないほど、元気そうで肌もつやつや、目もキラキラ、ちょっとリアルではないなと思うものの、涼太(桐山)は無理にカラ元気を出している病人に見え、彼はうまいなと思います。彼が笑っているところも、涙が出そうになるのです。

上戸彩さんはラジオのインタビューで以前聴いたのですが、明るい役ばかりでテンション上げるのに疲れていたので暗い役やりたいと言っていました。今はとても楽だとのこと。そんな部分もうまく役にはまっている感じがします。

by テンコ (2010-11-20 11:41) 

ジャニスカ

テンコさん、おはこんばんちは。

演出という仕事の重要性をお伝えすることができて嬉しいです(^^)。
細かく切る演出が必ずしも悪いわけではなくて、そういう演出がはまるドラマもたくさんあると思います。
ただ、俳優さんのお芝居を撮っているという演出の基本を忘れて、監督が技巧に走ってしまっている作品が散見されるのも事実です。

そういう意味では「演出を見る目」を養えるともっとテレビドラマを楽しめると思いますが、
一方で、ひとやすみさんがおっしゃられるような「感覚的に観る」ということの方がずっと大事で、
私自身、そのあたりのジレンマに陥ったことがあります(^^;。
今では折り合いをつけて、一応私なりのバランス感覚でドラマを観られるようになっています。

上戸彩ちゃんがそんなお話をされているのを私も耳にしたことがあります。イメージ先行の役柄が多かったですからね。
なんとなくですが、北乃きいちゃんあたりも同じような悩みを抱えつつあるところなんじゃないでしょうか。
ちょっとお芝居がパターン化しているところがありますよね。周囲からいい助言をもらえればいいんですが。
それと、桐山照史くんはすごく良いですねー。バスから降りて具合が悪くなったシーンとか、本当にリアルだし、
マリアの前では元気に振舞っている様はグっときますよね。

そうこうしているうちにもう明日ですねー。本当に見所が多いドラマです(^^)。
by ジャニスカ (2010-11-21 12:20) 

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