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テレビドラマの主題歌を考察する [ドラマレビュー]

1990年代のテレビドラマは、主題歌の選曲に大変なこだわりを持っていた作品が多く、
ドラマのためにオーダーメイドした主題歌というものも少なくありませんでした。
そして、いつしかCDを売るためにはテレビドラマとのタイアップが必須条件という時代に突入していくわけですが、
その先駆け的なテレビドラマが1991年の『東京ラブストーリー』(フジテレビ)ということになります。

このドラマのチーフディレクターだった永山耕三氏は、
(『ひとつ屋根の下2』(1997年)でル・クプルの「ひだまりの詩」をかけたのがこの人です。)
劇中音楽にこだわるあまり、オーケストレーションのオリジナル楽曲を作曲家に依頼し、
当時はまだ珍しかったテレビドラマのオリジナルサウンドトラックを作ってしまいました。
これが結構売れることがわかって、このドラマ以降、現在までテレビドラマのサウンドトラックは当たり前になっています。

そして、主題歌にこだわったのが、このドラマのプロデューサーだった大多亮氏です。
大多氏はこのドラマのターゲットだったF1層(20~34歳の女性)に受けるアーティストとして小田和正氏に主題歌を依頼、
最初にできた曲を気に入らないとして、作り直しをお願いしたというのは有名な話で、
そうやってできた曲があのイントロで始まる「ラブ・ストーリーは突然に」でした。
大多氏の主題歌の選曲基準には、劇中、それもドラマの終盤でかけるという大前提が存在しており、
主題歌をドラマ制作上最も重要なツールのひとつとして位置づけていました。
これ以降、ドラマの主題歌は、終盤にドラマを盛り上げて、次週への期待感を煽るという機能を効果的に果たすようになり、
それと同時に、ドラマそのものが楽曲のプロモーションビデオ的な役割を果たし、
テレビドラマとタイアップした曲は売れるという時代に突入していくわけです。

このタイアップ効果に着目したレコード会社が、テレビ局にアーティストと楽曲を売り込むようになると、
いつしかテレビ局側の意識の中では、上で述べたドラマの主題歌が本来果たすべき役割は二の次となり、
単に人気があるアーティストの楽曲を順番で主題歌としてピックアップするようになっていきます。
CDが売れない時代と言われて久しい現在では、主題歌の選曲は必ずしもそう単純ではないと思いますが、
最初から劇中でかけることを前提にした主題歌というものがどれだけ存在しているでしょうか。

今クールのドラマで言えば、日本テレビの『美丘~君がいた日々』の主題歌「蛍」は、
プロデューサーの加藤正俊氏が福山雅治さんに依頼したものだそうです。
福山さんは大多亮氏も主題歌作りでは全幅の信頼を置いていた方なので、
今作もドラマの情感にピッタリとはまったとてもいい曲に仕上がっています。
このドラマでは演出的にも主題歌をラストシーンでかけるという伝統的な手法をしっかりと取り入れているし、
2話まで見た感覚でいえば、ストーリー的にもとても印象的なラストシーンを作っていて、大変好感が持てるドラマです。

その一方で、主題歌が持つ演出的効果にいち早く着目したフジテレビのドラマはというと、
月9の『夏の恋は虹色に輝く』を例にとれば、嵐ファンには申し訳ありませんが、
主題歌の「Løve Rainbow」という曲はそのタイトルはともかくとして、
どう考えても劇中で使えるような情感を湛えた曲ではなく、タイアップそのものが目的の選曲だったと言わざるを得ません。
そのような主題歌の欠点を補うべく、
YUIちゃんの「Please Stay With Me」を挿入歌として設定しているんだと思いますが、
これはこれで、使えるシーンが限定されそうな曲で、常にラストシーンでかけるわけにもいかなそうです。
第1話のラストシーンでは、通常の劇伴が使用されており、
やはり主題歌を劇中で効果的に使う演出的意図が存在していないのはちょっと残念でした。

以下に月9史上、主題歌がドラマの演出に大きく貢献していた代表的な作品を挙げてみました。 

 TITLETHEME SONGARTIST 
 『東京ラブストーリー』(1991年)
『101回目のプロポーズ』(1991年)
『ひとつ屋根の下』(1993年)
『あすなろ白書』(1993年)
『この世の果て』(1994年)
『妹よ』(1994年)
『いつかまた逢える』(1995年)
『ピュア』(1996年)
『ロングバケーション』(1996年)
『バージンロード』(1997年)
『ラブジェネレーション』(1997年)
『リップスティック』(1999年)
『天気予報の恋人』(2000年)
「ラブ・ストーリーは突然に」
「SAY YES」
「サボテンの花」
「TRUE LOVE」
「OH MY LITTLE GIRL」
「めぐり逢い」
「あなただけを~Summer Heartbreak」
「名もなき詩」
「LA・LA・LA LOVE SONG」
「CAN YOU CELEBRATE?」
「幸せな結末」
「フレンズ」
「SEASONS」
小田和正
CHAGE&ASKA
財津和夫
藤井フミヤ
尾崎豊
CHAGE&ASKA
サザンオールスターズ
Mr.Children
久保田利伸withナオミ・キャンベル
安室奈美恵
大滝詠一
レベッカ
浜崎あゆみ
 

これらのドラマをご覧になられたことがある方ならば、主題歌を聞くとにドラマの映像が浮かぶ、
あるいは逆にドラマを思い出すと主題歌が浮かぶ、といった作品ばかりということに同意していただけると思います。
それもそのはず、これらのドラマではほとんど毎回のようにラストシーンで主題歌がかかっていたんですから。
これ以降は残念ながら、主題歌が持つ演出上の価値は低下していきますが、
それはこれらのドラマを手がけた大多亮氏や亀山千広氏といった敏腕ドラマプロデューサーが
ドラマ制作の第一線を退いたことと無関係ではないと思います。
近年のフジテレビのドラマを見ていると、どうもプロデューサーの世代交代がうまくいかなかったような印象を覚えていて、
主題歌の選曲もそのような印象についての一因となっています。

 

ここからは余談ですが、
『バージンロード』の主題歌の「CAN YOU CELEBRATE?」というタイトルには未だに違和感を覚えてしまいます。
私はこの当時、受験勉強真っ只中だったので、
他動詞である "CELEBRATE" が目的語を伴っていないことにずっと違和感を感じていました。
文章として正しいのは、"Can you celebrate me(our marriage)?” だと思うんですが、歌ならいいんですかね?
私の違和感はあくまでも受験英語の範疇なので慣用句としてはあり得るのかもしれませんが・・・
小室さんは早稲田出身ですから、文法的な誤りは百も承知で、語感を優先した結果だと思いたいところです。
本当にどうでもいい話でした、、、(^^;


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コメント 4

Sho

懐かしいですねえ。ちょうど、いわゆる「トレンディドラマ」の時期とモロに
重なりますね。
ご指摘のとおりあの時代は、ドラマの主題歌とドラマそのものが合わさって
一つの作品となっていたような気持ちさえします。
ドラマのラストシーンで否が応にも視聴者の感情を持ち上げる(あるいは"煽る")、その役割のため、出だしがインパクトのある曲が多いように感じます。
この頃は、私自身がまだ民放のドラマを見ていた頃で本当にその時々の情景が浮かんできます。
ただ、おっしゃるとおりこのシステムももう崩れてきている気がしますね。
私たちの世代ですと、まだ学生時代はレンタルビデオ屋さんも無く、大好きなドラマが中心で一週間が動いていたような気がします。

by Sho (2010-07-25 17:08) 

ジャニスカ

shoさん、nice!&コメントありがとうございます!

大好きなドラマが中心で1週間が動いていた時代があったというのは同感です。それが今となっては来週が待ち遠しいなんて感覚をおぼえることが全然ないのは、単にドラマの質が下がっているからというだけではなさそうです。HDDに撮っておいていつでも見られるとか、インターネットの動画でいつでも見られるとか(これは違法なものもありますけど)、レンタルされてから見ればいいとか、ライフスタイルの変化が、かつては確実に存在した「ときめき」のようなものを奪っている部分も少なからずあるような気がしています。世の中が便利になると、それと反比例するように失っていくものも少なくありませんね。
by ジャニスカ (2010-07-26 09:18) 

テンコ

こんばんは!
なるほど、大変興味深いお話です。
>大多氏の主題歌の選曲基準には、劇中、それもドラマの終盤でかけるという大前提が存在しており、
主題歌をドラマ製作上最も重要なツールのひとつとして位置づけていました。

そういう手法が流行ったという感じだったのでしょうか。私はあまり当時のドラマを観ていないのですが、楽曲は全部知っていて、良い曲ばかりですね。懐かしいです。
「Say Yes」など聞くだけで画面が思い出されます。いいところでかかるので盛り上がりました。昔のドラマは曲が良いのが多いですが、最近はイマイチな気がしますね…。お金がないのでしょうか。あ、でもクラシックピアノの別れの曲でしたっけ、あれは本当に良かったのでお金だけの問題ではないですね。

韓国ドラマはたぶん日本のこの方法を真似、踏襲したのだと思いますが、盛り上がる時にはシーンにぴったりのいい曲がかかります。OSTとしてCDが発売されるのですが、その曲数が半端なく、ものすごく多くて、前半と終盤でまた新しい曲をいれてくるので、何十曲にもなっています。

最近の日本のドラマ作りは本末転倒ですね!
ドラマを盛り上げるために歌手が選ばれ、曲が作られるのではなく、まず、歌手、嵐を売るために、ドラマを作り、嵐の曲を使うんですね。全部は知りませんが、大野君が出た「怪物くん」も嵐の主題歌、「花より男子」も嵐、嵐の出ているドラマはほとんど嵐の曲を使っていたような気がします。前のKATUNのドラマもそうでしたよ。
韓国ドラマはまだそこまでいっていないようですが、多少その傾向があります。「花より男子」韓国版に出た花沢類役の彼は男性グループSS501の一員なので、彼らの曲がたくさんOSTとして流れましたから。日本の嵐みたいなものですね。
でもあんがいSMAPは使ってませんね。

CAN YOU CELEBRATE?って英語は確かにおかしいですね~!^^
by テンコ (2010-07-27 22:35) 

ジャニスカ

テンコさん、こんばんは。nice!&コメントありがとうございます!

今となってはあれは「流行だった」ということになっていると思います。
しかし、映画やドラマを作る映像作家と呼ばれる人たちが、その映像を引き立てる「音」にこだわるのは当然のことであり、その当たり前の「こだわり」を日本のテレビドラマ界に最初に導入したのが永山さんや大多さんということになります。

韓国ドラマが日本のテレビドラマの演出手法の影響を受けている可能性はありますが、どこの国の映像作家であろうと彼らが音にこだわるのはそもそも当たり前のことであり、音の演出に関しては韓国ドラマとかアメリカドラマとか、という区別は無意味かもしれません。

そんな中、現在の日本のドラマは、そういう当たり前の演出手法を軽視し、さらには放棄しつつあるわけです。特に主題歌の選曲は悲惨な状況にあると思います。それにしてもお話を聞くと、韓国ドラマの音へのこだわりは目を見張るものがありそうですね。日本のドラマにはそのような姿勢を逆輸入してもらわなければなりません。

「CAN YOU CELEBRATE?」については本当に瑣末な話なんで、誰かと意見を共有したことがありませんでした。やっぱりおかしいですよね~!
by ジャニスカ (2010-07-28 18:50) 

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