(P)ハナミズキ [映画プレビュー]
(C)2010 映画「ハナミズキ」製作委員会 |
『ハナミズキ』
(8月21日公開 東宝 128分 公式サイト▼)
監督:土井裕泰 脚本:吉田紀子 主演:新垣結衣、生田斗真
近年のテレビドラマの視聴率が低迷しているのは周知の事実ですが、
かつてはドル箱だったラブストーリーというジャンルにおいても、その傾向は例外ではありません。
テレビ局は、そんな状況にあっても、コメディ要素やスポ根要素を加味するなどの工夫を施して
ラブストーリーを供給してくれているわけですが、さすがに「純愛」路線のラブストーリーはほとんど見られなくなりました。
今クールのドラマで言えば、日本テレビの『美丘~君といた日々』がこの路線に該当するかもしれませんが、
やっぱり視聴率は1桁台に低迷しており、視聴者の嗜好がここ数年で劇的に変化していることは明らかです。
原作の石田衣良さんは「ラブストーリー冬の時代」と言われる今、
あえてこの作品をドラマ化しようとする制作者の姿勢を賞賛していましたが、私もまったく同じ気持ちです。
この傾向が映画にも当てはまるのかについては、ちょっと判断しかねているところで、
というのも、近年のラブストーリーというジャンルに当てはまる日本映画作品は、
表向きは「純愛」を謳っていてもその裏側に介在している制作者の意図が「不純」であると感じる作品が多いからです。
以下に例としてTBSがここ数年で製作した映画のうち、ラブストーリーとそれに準ずる作品を提示します。
Title | Cast | Director | Screenplay | Proceeds (興行収入) | ||
『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年) 『いま、会いにゆきます』(2004年) 『この胸いっぱいの愛を』(2005年) 『涙そうそう』(2006年) 『そのときは彼によろしく』(2007年) 『Life 天国で君に逢えたら』(2007年) 『恋空』(2007年) 『余命1ヶ月の花嫁』(2009年) | 大沢たかお、柴咲コウ 竹内結子、中村獅童 伊藤英明、ミムラ 妻夫木聡、長澤まさみ 長澤まさみ、山田孝之 大沢たかお、伊東美咲 新垣結衣、三浦春馬 榮倉奈々、瑛太 | 行定勲 土井裕泰 塩田明彦 土井裕泰 平川雄一朗 新城毅彦 今井夏木 廣木隆一 | 坂元裕二、伊藤ちひろ 岡田惠和 鈴木謙一、渡辺千穂 吉田紀子 いずみ吉紘、石井薫 斉藤ひろし、吉田智子 渡邉睦月 斉藤ひろし | 85.0 48.0 8.0 31.0 4.6 17.0 39.0 31.5 | ||
※ 配給はいずれも東宝。興行収入の単位は(億円)。 |
『いま、会いにゆきます』と『この胸いっぱいの愛を』はファンタジー要素が強い作品で、
『涙そうそう』のテーマは「兄妹愛」ということになり、ラブストーリーとひとくくりにすることはできませんが、
『世界の中心で、愛をさけぶ』の大ヒット以降、
少なくともTBS製作の映画において、そのドラマの作り方が大きく変化したのは明らかで、
お気づきかと思いますが、上記の作品では例外なく主要な登場人物が命を落とします。
『Life 天国で君に逢えたら』以降はもう、「人の死」を物語の中心に据えており、
かつては「きわもの」ですらあったこの手のストーリーが「正統派」になりつつあるのにはちょっと違和感を感じています。
そんな中、今夏、TBSが送り出す『ハナミズキ』は、原点回帰ともいうべき王道のラブストーリーであり、
真の「純愛」を描く伝統的なラブストーリーへの回帰は、行き過ぎたラブストーリーの脚色に対する
製作者のバランス感覚が働いているような気がして、私は好意的に受け止めています。
また、映画やドラマ製作者の「正統派ラブストーリーを作りたい」という欲求は
いつの時代も失われたことはないはずで、テレビでは数々の名作ラブストーリーを演出してきた
TBSの土井裕泰監督の手腕が映画という形で久しぶりに観られるのをとても喜んでいます。
私はラブストーリーの演出というものは、「恥ずかしいこと」を平気でできないと成立しないものだと考えていて、
その点で言えば、土井裕泰監督はフジテレビの永山耕三監督と並ぶ2大演出家であり、
映画だからこそ成立する「恥ずかしい演出」には大いに期待したいところです。
私は、ベタなラブストーリーでも本当に「いいもの」を作れば、
まだまだ観客や視聴者に受け入れてもらえることをこの『ハナミズキ』が証明してくれることを願っています。
『世界の中心で、愛をさけぶ』が大きなターニングポイントとなって映画界に大きなムーブメントを起こしたように、
この『ハナミズキ』がもうひとつのターニングポイントとなって、
映画界のみならず、テレビ界にも正統派ラブストーリーへの回帰と挑戦を促すような作品となることを期待しています。
関連記事 : ハナミズキ (上) (2010-09-01)
ハナミズキ (下) (2010-09-05)
(P)きな子~見習い警察犬の物語~ [映画プレビュー]
『きな子~見習い警察犬の物語~』
(8月14日公開 松竹 113分 公式サイト▼)
監督:小林義則 脚本:浜田秀哉、俵喜都 主演:夏帆
『クイール』『子ぎつねヘレン』『犬と私の10の約束』から続く松竹動物シリーズの系譜。
劇場で見たものはひとつもないんですが、本作については予告編を見てからというもの、
絶対に劇場で見るつもりになっています。
夏帆ちゃんはおよそ2年ぶりの映画主演。
「オトメン(乙男)」は夏帆ちゃん目当てでがんばって見てましたが、
岡田将生くん同様、やっぱりスクリーンで観たい女優さんです。
彼女のお芝居の潜在能力はまだまだ全開ではないはずで、
今回はどんな新味を見せてくれるのかが楽しみな19歳です。
監督は共同テレビの小林義則監督。
脚本は『絶対零度~未解決事件特命捜査』で勝手にべた褒めした浜田秀哉さんと聞いては、
否が応にも期待感が高まってしまいます。
「おまえという未熟な訓練士を育てるためにきな子がおる。きな子という未熟な警察犬を育てるためにおまえがおる」
予告編に登場するこの台詞は、作品のテーマと全容を表現しきってしまう本当に素晴らしい台詞だと思います。
この台詞と浜田秀哉さんが結びついてしまうと、私の期待感はそれだけで高まってしまいます。
香川県の丸亀市を舞台にしていて、方言がしっかりと盛り込まれている点も好感が持てます。
演出上は「地方色」をどのうように物語に織り込んでいくのかに注目したいところです。
関連記事 : きな子~見習い警察犬の物語~(2010-08-23)