(12)天気予報の恋人 [ドラマレビュー]
2000年にフジテレビで放送された『天気予報の恋人』を毎週お届けしています。
今週はいよいよ最終回です。動画は原則1週間の掲載となります。
遅ればせながら、レビューを追加致しました。およそ3ヶ月にも渡ってお付き合い頂きありがとうございました。(7/4)
(7/15まで。本編動画の掲載は終了しました。) |
『 天気予報の恋人 』
Vol.12
( 2000年 フジテレビ=共同テレビ 全12回 )
最終回を観終わってみると、このドラマがラブストーリーであるという以前に
何をやろうとしていたのかがすっきりと納得できて、とても後味のいい余韻が残ることと思います。
このドラマを振り返ってみると、40歳という大台を迎えたバツイチ男が、ある女性との恋愛を通じて、
誰かを幸せにするために自分に欠けていたものを獲得し、幸福な人生をを掴み取るまでの物語ということになると思います。
実は矢野克彦が決定的に欠いていた「男としての資質」は、第1話から示唆されていて、
結局のところ矢野の性格、人間性をもっとも的確に理解していたのは前妻・潤子だったわけです。
改めて第1話より、この二人の会話を引用します。
「そもそもあなたには自分で何かを変えたいっていう情熱っていうか、そういうものがないのよ。
調べて明日の天気の予報をすることはできるかもしれないけど、あなたがどうしたいっていう感情は持ってないのよ。
晴れにしたいとか、雨にしたいとか、そういう気持ちがないのよ」
「無茶言うなよ」
「まぁ、あなたに恋愛は無理ってことねぇ・・・無茶することなのよ、恋愛って」
これが唯川幸に出会う前の矢野の姿なのです。
このシーンは潤子の目を通して矢野のキャラクターを客観的に説明するためのシーンなのですが、
矢野が誰かを好きになったときに克服すべき課題はすでに明らかになっていたということです。
お天気について語る矢野の姿は確かに魅力的で、潤子だって早知と祥子と同様にそういうところに惹かれたんだと思います。
でも現実的に矢野が誰かを幸せにするためには「天気予報の価値観」から抜け出さなければならなかった。
つまり、誰かの幸せを目の前の材料だけで判断するのではなく、そこに自分の意思を反映させる必要があったのです。
「無茶言うなよ」
最終回において潤子は、「雪美のために」という論法を持ち出した矢野に対して
第1話とまったく同じ説教をしなければならなくなります。しかし今度ばかりは矢野には返す言葉がありません。
なぜなら矢野は早知と祥子との出会いを通じて自分が抱えていた欠点の本質をすでに理解していたからです。
でも矢野としては、その欠点を理解した上で真正面から早知にプロポーズしてふられたという思いもある。
ただし、早知が嘘をついていたことを知ってしまえば、あとは「自分がどうしたいのか」を実現するのみということになります。
そして、最終的に矢野の背中を押したのは、一足先に「自分がどうしたいのか」を実現した祥子だったわけです。
さらに祥子の言葉を届けた田口と郁子、矢野を見守る潤子と雪美ちゃんの存在が矢野を勇気付けたのは言うまでもありません。
いよいよ矢野が恋愛において「無茶」をする時がきたのです。
字幕スーパーがもろかぶりのクライマックスシーンで申し訳ないのですが(^^;、このシーンは脚本、演出ともに素晴らしいです。
突然現れた矢野を目の前にして戸惑いの表情を浮かべる早知に対して、矢野の表情には微塵の迷いもない。
矢野が早知を抱き寄せると、 「一緒に行こう」 |
早知の躊躇の言葉に対して、矢野は間髪要れず早知の目を見てもう一度言うのです。今度はさらに強意の言葉で。
「行こう。どうしても一緒に来て欲しいんだ」 矢野がもう一度早知を抱きしめる。 「来て、くれるよね」 |
矢野の「意思」が3度にわたって台詞で表現されます。それでも戸惑いの表情を見せている早知・・・
矢野はそんな早知をさらに強く抱き締めます。このとき初めて早知の表情に安堵の色が浮かびます。
早知が静かにうなずくと、二人の気持ちは言葉を超えてつながるのです。
この「強く抱き締める」というところに言葉以上の様々な思いが詰まっているところが
このシーンを素晴らしいものに仕上げています。これは矢野にとっては「君を必ず幸せにする」という意思表示であり、
早知にとっては「この人についていきたい」と思う力強さを感じさせるものだったはずです。
その後、矢野が早知を抱き上げてスーパーマーケットの通路を歩くところは「月9」らしいサービスカットですね(^^)。
本作の演出は、セカンドの澤田鎌作監督の才能が炸裂していて、
星田良子監督の演出についてはあまり触れることがなかったのですが、
全体的に、これは星田監督の演出方針だろうと感じさせるものがひとつありましたので取り上げておきます。
私は「演技のようなものをしている子役」が大嫌いなのですが、(←突然何なんだよ^^;
本作に登場する雪美ちゃんと達也くんが、芝居云々以前に「子供らしさ」をしっかりと保持していた点は高く評価しています。
近年の子役ブームによって形成されている子供像とは「大人が子供に求める理想像」でしかなく、
そこには「大人の期待に応えて大人を喜ばせたいと思っている大人にとってのいい子」がいるにすぎません。
この話は長くなるので自重しますが、近年、本当の意味での「子供らしさ」を表現できる子役が姿を消しました。
本作に登場する子供たちはもちろん「いい子」ではありますが、表現上の「現実的な子供らしさ」を失うことはありませんでした。
たとえば達也と早知・祥子の間のコミカルなやり取りとか、達也が田口に向かって言った「こいつ誰ー?」などの台詞、
あるいは矢野の言動に不安を募らせた雪美ちゃんが、矢野にキックボードを貸してあげるシーンなどは、
この当時、現実に父親でもあった岡田惠和さんの子供に対する観察眼がよく現れているところだと思います。
演出的観点からは、主に早知と達也の関係にリアルな親子関係を付与するような仕掛けが随所に盛り込まれていました。
わかりやすいところで言うと、達也が就寝時に早知の前髪をつかんで眠るシーンが何度かあったと思います。
また、達也が早知以外の大人たちと遊ぶ場面がいくつかありましたが、達也は人見知りとは無縁の性格で、
マイペースに遊ぶ姿が見られました。一方で早知の前ではかなりの甘えん坊ぶりを見せていて、
私には達也が母親の足にまとわり付く感じが本物の親子のように見えてしまいます。
よく現れていたのは第7話の冒頭シーン。最終回で言うと、序盤の朝食のシーンに注目してみてください。
このあたりは子役との信頼関係を構築したいずみちゃんの手柄でもありますが、
それ以上に女性監督の目線を感じてしまうのです。子役に芝居をさせるのではなくて、
ありのままの子供らしさを引き出すことによって、リアルな親子像を映し出すことに成功しています。
おそらく星田監督もプライベートでは一人の母親であることを想像させます。
さて、前回のレビューで第11回と最終回のラストは対になっていると述べたのですが、その意味はお分かり頂けたと思います。
前回は雨が好きだと語った早知の気持ちを翻せなかった矢野の気持ちをあざ笑うかのように晴れ間が見せるという、
他のドラマでは通用しないこのドラマならではの逆説的表現が光っていました。
それが最終回のラストでは矢野が雨を好きな早知のために雨が降って欲しいと願い、雨が降り出すのです。
「今、生まれて初めて願ったんだ。 雨が降って欲しいって。 君のために君が好きな雨を降らせたいって」 |
第1話で「無茶言うなよ」と一蹴していたことを実行し、実現することによって、
矢野が自分に欠いていたものを獲得し、その生き方を転換させることに成功したことが表現されています。
言うまでもなく矢野は必ず早知と達也を幸せにすることでしょう。しっかりと未来を想像させる余韻がありました。
普通のドラマならこのシーンで終わって、観る者を深い余韻に導くところだと思います。
しかし、ここで終わらずにエピローグが付属しているところがこのドラマらしいところではないでしょうか。
シーンが変わってラジオから流れ出す曲はCHAGE&ASKA「天気予報の恋人」。変わりやすい女心を歌った曲です。
郁子の思いを知り、彼女の変貌ぶりを目の当たりにした田口は付き合う気満々。でも郁子の気持ちはもう別のところへ。
女心に翻弄される田口は唯川幸に恋愛相談です。果たして田口に欠けている「男としての資質」とは何なのでしょうか。
そして、最終的な余韻はこちらのカットで表現されていました。矢野との恋を通じて、祥子の生き方も劇的に転換したのです。
脚本 音楽 演出 プロデュース | - - - - | 岡田惠和 溝口肇 星田良子(共同テレビ) 高井一郎(フジテレビ)、松村俊二(共同テレビ) |
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(2012-3)ドラマ期待度ランキング [ドラマプレビュー]
恒例の期待度ランキング。7月から始まるドラマの期待度を4段階で評価しています。
今クールはなかなか粒ぞろいの印象。才能のある若手俳優が主演の作品が多くて、
今回は誰の芝居を見たいかというところを重視してランキングを作成しました。
テレビ朝日は4本中3本が東映製作です。
★★★ : 絶対観る / ★★☆ : 観る / ★☆☆ : 観ない / ☆☆☆ : なかったことにしたい |
Pre-rating | Time Slot | Title | Station | Main Cast | Script | Chief-Dir. | Co-Pro. |
★★★ | 木22 | 東野圭吾ミステリーズ | フジテレビ | 中井貴一(ナビゲーター) | 河毛俊作 | ||
★★★ | 月21 | リッチマン,プアウーマン | フジテレビ | 小栗旬、石原さとみ | 安達奈緒子 | 西浦正記 | |
★★★ | 火22 | つるかめ助産院 | NHK | 仲里依紗 | 水橋文美江 | 佐々木章光 | テレパック |
★★☆ | 月20 | 浪花少年探偵団 | TBS | 多部未華子 | 吉田紀子 | 清弘誠 | テレパック |
★★☆ | 日21 | サマーレスキュー | TBS | 向井理、尾野真千子 | 秦建日子 | 日比野朗 | The icon |
★★☆ | 火21 | 息もできない夏 | フジテレビ | 武井咲、江口洋介 | 渡辺千穂 | 河野圭太 | 共同テレビ |
★☆☆ | 金22 | 黒の女教師 | TBS | 榮倉奈々 | 山下友弘 | 岡本伸吾 | |
★☆☆ | 水22 | トッカン 特別国税徴収官 | 日本テレビ | 井上真央 | いずみ吉紘 | 水田伸生 | (日活) |
★☆☆ | 金23 | ボーイズ・オン・ザ・ラン | テレビ朝日 | 丸山隆平 | 高橋悠也 | 常廣丈太 | (5年D組) |
★☆☆ | 木21 | ビギナーズ! | TBS | 藤ヶ谷太輔 | 櫻井剛 | 山室大輔 | |
★☆☆ | 火22 | GTO | 関西テレビ | AKIRA、瀧本美織 | 深沢正樹 | 今井和久 | MMJ |
★☆☆ | 土23 | 主に泣いてます | フジテレビ | 菜々緒 | 野木亜紀子 | 葉山裕記 | |
★☆☆ | 土22 | ゴーストママ捜査線 | 日本テレビ | 仲間由紀恵 | 梅田みか | 佐藤東弥 | |
☆☆☆ | 日21 | ビューティフルレイン | フジテレビ | 豊川悦司、芦田愛菜 | 羽原大介 | 水田成英 | 共同テレビ |
※ 各局ドラマ枠(プライム)の増減なし NHK 2 / 日本テレビ 2 / TBS 4 / フジテレビ 5 / 関西テレビ 1 / テレビ朝日 4 ※ タイトルは各ドラマの公式サイトにリンクしています。※ 作品名を一部省略して表記しているものがある。※ テレビ朝日の東映枠は割愛した。 ※ 脚本担当者が複数いる作品については 、トップクレジットを表記している。 |
今クールのドラマの中で、『東野圭吾ミステリーズ』(フジテレビ)は、絶対外せないし、ハズレることもないでしょう。
東野圭吾原作の映像化でつまらなかったというのはごく稀で、しかも今回はキャスティングもさることながら、
フジテレビの豪華演出陣が手がけるということで、注目度はかなり高いです。
原作は一篇も読んだことがないので、現在発表されている情報から私が注目している回を挙げておきます。
第1回「さよならコーチ」(主演:唐沢寿明 演出:河毛俊作)
第2回「犯人のいない殺人の夜」(主演:坂口憲二 演出:澤田鎌作)
第6回「シャレードがいっぱい」(主演:長澤まさみ 演出:石井克人)
第8回「小さな故意の物語」(主演:三浦春馬 演出:宮本理江子)
第11回「再生魔術の女」(主演:鈴木京香 演出:河毛俊作)
監督の個性がよくわかる試みだと思うので、演出的側面から観てみるのも面白いと思います。
それと、中井貴一さんが出演するストーリーテラーパートは、『ロングバケーション』『ショムニ』『HERO』などを
ヒットに導いたドラマ制作センター部長の鈴木雅之監督が手がけますので、こちらにも注目です。
『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ)は、キャストを見て歓喜し、スタッフを見て愕然としたのですが、
月9ラブストーリーへの欲求は抑えられませんでした。小栗旬くんと石原さとみちゃんという組み合わせは、
人気からも実力からも今現在可能なベストカップリングと言っていいと思います。
個人的な感情で言うと、このドラマのプロデューサーが大嫌いなのですが、
安達奈緒子さんに2本目があったのはよかったなと思います。私はこの方の実力の一端を知っているつもりです。
プロデューサーには余計なことをせずに脚本家の才能が生きる環境づくりをお願いしたいところです。
『つるかめ助産院~南の島から~』(NHK)は、昔から大好きな水橋文美江さんの脚本なので観ます。
仲里依紗ちゃんにはこれまであまり興味を持ったことがないのですが、
民放とは全然異なるNHKの制作環境で新しい面が引き出されればという期待はあります。
また、NHKのドラマはもっとも安定感があると思うので特に推しておきます。すでに撮了していて、8月28日放送開始です。
『浪花少年探偵団』(TBS)は、こちらも東野圭吾原作ということもあるのですが、
それよりも多部未華子ちゃんの個性的なキャラクター作りに注目したいです。
彼女は同世代の女優さんの中では抜きん出た技巧派女優で、かつクレバーな役作りをしてくるので楽しみです。
というか、すみません、昨日始まってしまいました、、、私もこれから観ます。
『サマーレスキュー』(TBS)は、おもに映画作品を通じて向井理くんの評価を見直している最中なので、
『ハングリー!』(関西テレビ)とは異なるタイプの硬派なドラマの主演で彼の芝居を見られるのは渡りに船といった感じです。
もちろん『カーネーション』(NHK)後の尾野真千子ちゃんにも注目です。
ジ・アイコンという制作会社は連続ドラマでは目立った実績がありませんが、全体的に良作を作る印象です。
『息もできない夏』(フジテレビ)は、江口洋介さんの芝居を見たいです。思えば私は、『東京ラブストーリー』以来、
『ひとつ屋根の下』、『救命病棟24時』、『ランチの女王』・・・と、江口洋介さんとフジテレビのドラマで育ってきました。
およそ20年にわたって、テレビドラマの第一線で活躍されていることには敬意に表さなければなりません。
武井咲ちゃんにはそういう方との競演を噛み締めていただきたいと思います。
同時に「主演」というプレッシャーもしっかりと感じないといけません。今の彼女にはベテラン監督との仕事が必要です。
他は『黒の女教師』(TBS)と『トッカン 特別国税徴収官』(日本テレビ)を観るかもしれません。
榮倉奈々ちゃんも井上真央ちゃんも立派な主演女優に育ちました。これ以下は絶対に観ません。
遅くなってすみませんでした、、、参考にしていただければ幸いです。
各作品の感想はTwitterを通じて表明していきます。よかったら今クールもお付き合いくださいませ。。。
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