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ゴーイング マイ ホーム [ドラマレビュー]

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『 ゴーイング マイ ホーム 』
( 2012年 関西テレビ=テレビマンユニオン 全10回 

監督・脚本・編集:是枝裕和 出演:阿部寛、山口智子、宮﨑あおい、西田敏行

最終回冒頭、良多の夢。仲間の死に接したクーナが語りかける。

「オレたちは小さくて弱いから、こういう時は自然の助けを借りるんだ。でも人は大きいからそんな助けは必要ないんだろ?」

痛烈な皮肉である。それでは人間は肉親の死に接して何を為してきたのだろう?

第1話で提示された良多(阿部寛)の幼少期の記憶は思わぬところで結実する。札幌オリンピックに興奮する良多少年が日の丸飛行隊の飛行姿勢を真似ていたあの日の記憶からは大事なものが失われていた。良多が棺に納められた父親の髭に手を触れた瞬間、彼の脳裏に蘇ったのは父親のひざをジャンプ台にして飛躍した、かけがえのない記憶の断片だった。それを思い出した時、良多は初めてはっきりとした後悔の念を悟るのである。

クーナは仲間の死にあたっては自然の力を借りてリンドウの花を咲かせる。それに対して人間は後悔することで「愛」の存在を知るのである。クーナの目にはそんな人間の営みは愚かしいものと映るかもしれない。しかし人間にとってはそれが後悔であったとしても気がつくことが重要なのだ。見えなかったものが見えたからこそ沸き起こる感情が後悔に他ならないのだから。そしてその感情から何かを生み出してきたのが人間である。つまり、本作のテーマを簡潔に表現すればこういうことなんだと思う。

最初から「答え」はそこにあった。気がつくかどうかが問題だ。

帰郷した治(西田敏行)は、菜穂(宮﨑あおい)が何気なくつぶやいた「ただいま」という言葉の響きを無性にいとおしく思う。我々の日常に当たり前のようにこだましているその言葉が、亡き妻、亡き母の存在を思い出させてくれるということに気がついたからだ。帰る場所を、顧みる記憶を大切にしよう。たとえ忘れてしまったとしても思い出すきっかけは日常に溢れている。

(了)

関連記事 : ただいま - JUJU (2012-12-23) 

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