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(3)天気予報の恋人 [ドラマレビュー]

2000年にフジテレビで放送された『天気予報の恋人』を毎週お届けしています。
今週は第3話です。動画は原則1週間の掲載となります。第2話もまだご覧いただけますのでお早めにどうぞ。


(5/6まで。本編動画の掲載は終了しました。)

『 天気予報の恋人 』
Vol.3
( 2000年 フジテレビ=共同テレビ 全12回 )

今回と次回の演出はフジテレビの澤田鎌作監督です。
現在、フジテレビの第一線で活躍されている中堅の監督で、代表作は『西遊記』、最新作は『幸せになろうよ』です。
また、フジテレビ開局50周年記念作品となった『不毛地帯』のチーフディレクターを務めるなど、
将来、フジテレビのドラマを背負って立つディレクターになることが嘱望されている方です。

澤田監督は、私がテレビドラマを今のような観方をするようになったのと同じ頃に
デビューされた監督なので、この方の作風にはとても慣れ親しんでいるところがあります。
クレジットでお名前を拝見すればとりあえず演出については安心感を持てるような監督です。
本作においてもセカンドディレクターでありながら、けっこう重要なシーンがある回を任されていて、
星田監督が「日常」を演出するのがとても上手なディレクターだとすれば、
澤田監督は「非日常」感を巧みに演出して、重要なシーンを印象的なものに仕立てるのが上手なディレクターです。

また、トレンディドラマの演出手法を直接受け継いだ最後の世代に当たるディレクターでもあり、
本作においても要所のイベントを劇的に演出したり、主題歌を効果的に使用したりといったセオリーをうまく使いこなしています。
今回で言えば、序盤、タイトル入りまでの主題歌のイントロの使い方は絶品と言っていいでしょう。
スローモーションも駆使して、矢野と早知、祥子がニアミスしそうになるハラハラ感をうまく盛り上げてくれています。

そして、何と言っても雨降るラストシーンの演出にも触れておかなければなりません。
この前のシーンで雨が好きな理由を語った早知は、矢野に嘘をつき通すと心に決めます。
早知は、矢野が本当の事を知ったら、自分のことを好きになるわけがないと思っており、
矢野に唯川幸のどこが好きかを尋ねながら、その答えをあえて聞かなかったのは、
聞けたとしてもそれが自分自身に向けられた言葉ではないとわかってしまったからです。
一方で、嘘を受け入れることによって、自分の気持ちにかけていたリミッターを外した早知は
唯川幸という姿を借りて、矢野に自分の正直な気持ちを告白してしまうのです。

トレンディドラマ的に言えばこのシーンはひとつの「イベント」であり、雨と傘を使ってスペシャル感を演出しています。
このシーンの前半は相合傘で歩く二人の距離感、後半はほぼ唯川幸を見つめる矢野の視点で描かれていて、
「早知が作り上げた唯川幸」をとても魅力的な女性に見せることに成功していると思います。
このシーンで矢野は唯川幸(この時点では当然、原田早知ではない)という女性を特別な存在と認識することとなったのです。
早知が矢野に不意のくちづけをするパートを掘り下げてみましょう。

早知の唐突な行動のきっかけは、濡れないように早知に傘を差し出した矢野の行動だと思います。
つまり、あのくちづけは、一瞬で矢野の優しさを感じ取った早知の直感的な行動と解釈できると思います。

2012042801.jpg2012042802.jpg

澤田演出は、この時の早知の衝動を彼女の動きを見せる広いショットで表現しようとしています。
この一枚目の広い絵がワンクッションあるのとないのとでは、このパートの印象はまったく変わってくるでしょう。
そしてすぐに顔寄りのショットに切り替えて、唇が触れる瞬間をもう一度見せます
早知の一連の動きというのは、早知とっては衝動的、矢野にとっては不意打ち、視聴者にとっては驚きを含んだものであり、
それぞれの感覚がこの二つのカットの切り替わりで見事に表現されていると思います。
このカット替わりは何度観ても美しいなと思ってしまうのですが、いかがでしょうか。

ひとつ確認しておきたいのですが、このシーンをどのように撮って、どのように編集で繋ぐかということには、
無数のやり方が存在して、100人監督がいれば100人ともが違うやり方採用し、ひとつとして同じものは存在しないでしょう。
そして、澤田監督が創造し、選択した最良の表現方法はこれだったということです。
このシーンを借りて映像演出の奥深さを皆様にお伝えすることができたら幸いです。

 脚本
音楽
演出
プロデュース
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岡田惠和
溝口肇
澤田鎌作(フジテレビ)
高井一郎(フジテレビ)、松村俊二(共同テレビ)

関連記事 : (12)天気予報の恋人 (2012-07-04)
(11)天気予報の恋人 (2012-06-23)
(10)天気予報の恋人 (2012-06-16)
(9)天気予報の恋人 (2012-06-10)
(8)天気予報の恋人 (2012-06-03)
(7)天気予報の恋人 (2012-05-26)
(6)天気予報の恋人 (2012-05-19)
(5)天気予報の恋人 (2012-05-12)
(4)天気予報の恋人 (2012-05-05)
(2)天気予報の恋人 (2012-04-21)
(1)天気予報の恋人 (2012-04-14)


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コメント 4

pyon

毎回ありがとうございます。
一週間が、とても待ち遠しく、楽しみです。
演出についてのお話も、とても興味深く読ませて頂いてます。
演出家によって、何通りもの撮り方があるのでしょうけれど、主人公の気持ちを表情で見せるのがとても上手な方だなと感じています。
佐藤浩市さんが上手い役者さんであるからこそなのかもしれませんが、最近のドラマではあまりない演出のような気がします。
来週も楽しみにしています。
by pyon (2012-04-28 13:15) 

ジャニスカ

pyonさん、こんにちは。そう言っていただければ私も嬉しいです。
表情を印象付ける演出はこの当時のトレンドだったんですよ。
TBSの生野慈朗監督とかフジテレビの永山耕三監督といったトレンディドラマを
牽引したディレクターが多用していて、澤田監督は永山監督から受け継いだんだと思います。
私自身もこういう演出が最もしっくりくるので、この時代のドラマは観ていて心地いいです。
来週も「イベント」があるのでご期待ください!

by ジャニスカ (2012-04-30 20:00) 

kei

こんにちは。
第3話目も拝見しました。 ありがとうございます。
私も一週間がとても楽しみで待ち遠しいです。
月9での本放送を待っている時の感覚を思い出して、楽しんでいます。

3話目も好きなシーンがいっぱいあります。
雨に嬉しそうに濡れている早知に魅入られている矢野さん、
早知に突然、キスされた時の矢野さん。
表情だけで、矢野さんの気持ちが手に取るように感じられます。
上手いです。

また前後しますが、早知の居るガラスの靴に矢野さんが現れ、
帰って行った後のシーン、変装用のカツラを脱いで鏡の中の自分をじっと見つめる早知。
せつない気持ちが痛いほど感じられて泣きそうになります。
祥子の気持ちも。
そして別れてはいるけれど、元夫の、まさかの突然の恋に動揺している元妻。
演出が上手いですね。

ジャニスカさんのレビューを読んで、また楽しみが倍増しています。
ありがとうございます。



by kei (2012-05-07 23:54) 

ジャニスカ

keiさん、こんばんは~。そう言っていただけて嬉しいです。
すべての登場人物の心情を丁寧に掬い取っているドラマですよね。
大きな仕掛けを作らなくても、たったひとつの嘘からこれだけのドラマを作り出せるんですから、
岡田脚本もさることながら、この当時のドラマプロデューサーの手腕はすごかったなと思います。
引き続きお楽しみください。。。
by ジャニスカ (2012-05-08 20:15) 

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