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海とあなたの物語 - 未来玲可 [音楽]


未来玲可
『 海とあなたの物語 』
作詞:TK & Marc 作曲・編曲:Tetsuya Komuro
( 1998年11月4日 / ポニーキャニオン / PCDA-01108 )
          Official / Wikipedia  Words          

未来玲可(みくれいか)は、音楽プロデューサーとして当時隆盛を極めていた小室哲哉プロデュースで鮮烈な
デビューを飾ったのち、本曲と一枚のアルバムを残し、半年にも満たない活動期間で引退してしまいました。
したがって彼女のことを覚えておられる方は多くはいないのかもしれません。しかし、同時代に生きていた人で、
この曲を聴いたことがない人はほとんどいないはずだし、私などはこの曲を聴くと懐古の念を禁じえません。

「ミュージックステーション」でこの曲を披露した未来玲可の尋常じゃない緊張ぶりは今でもよく覚えていて、
2曲目がないと知ったときは残念ではありましたが、芸能界の水が合わなかったんだろうなと納得したのを思い出します。
YouTubeに関連動画がありますが、やっぱりかわいそうで観ていられませんでした、、、
それでもこれが記憶に残る名曲だったということが、彼女にとっては多少の慰みにはなっていて欲しいものです。

お聴きのとおり、アレンジも含めてこの時代の小室さんの曲っぽくはないんですよね。間奏のギターソロとか。
(ただし、共同プロデュースとして久保こーじが名を連ねている)
でも小室さんらしい「売れる曲」の要素はしっかり踏襲していて、なんと言ってもサビのリフレインが実に心地よく、
一度聴いたらもう口ずさんでしまいそうな鮮烈な印象を残してくれます。

 Come with me
Come with me
Come with me tonight
いつかいっしょに泳ごう
In your heart
In your soul
In your happiness
きみにはいつか話したい

ぜひ上のリンクの<Words>で歌詞を確認していただきたいのですが、
ひらがなを基調としたシンプルな言葉と平易な英文のサビでひとつの世界観が的確に表現されています。
小難しい単語を並べたり、まわりくどい比喩を用いたりといった、技巧を駆使した詞が名曲になるとは限りません。
これは音楽に限ったことではありませんが、物事の真理とはシンプルな表現の中にこそ浮かび上がってくるものだと思います。
曲のことはよくわかりませんが、詞に限って言えば小室さんの表現力はいよいよ洗練され、
ひとつの到達点を迎えたのがこの頃なのかもしれません。そのことを象徴するような詞だと思います。

さて、この曲が「ひとつの世界観を的確に表現している」と書きましたが、
この曲はフジテレビが1998年に製作した『じんべえ』というドラマの主題歌で、
そもそも小室さんがこのドラマのために書き下ろしたのがこの曲ということになります。
だからと言って、この詞とドラマの内容をひとつひとつ照らし合わせるという作業は野暮というものなので、
一言だけ言わせてもらうと、この詞は今作のヒロインが自分の父親をみつめる視線を表現しているということです。

私はこの『じんべえ』というドラマに多大なる影響を受けていて、
好きなドラマを5本挙げろと言われれば、『白線流し』(1995年)と並んで真っ先にこのドラマを挙げます。
本作はあだち充の同名漫画が原作なのですが、登場人物の初期設定は大幅に改変されていて、
主人公と彼の娘の関係性のみを移植した、ほぼ吉田紀子さんのオリジナルと言ってもいい作品でした。

田村正和さん演じる主人公・高梨陣平(通称、じんべえ)は、海洋学を専門とする大学教授で、
若い頃に妻を亡くし、今は松たか子さん演じる大学生の娘・美久と二人暮らし。
しかし、美久は亡き妻の連れ子で彼と血の繋がりはありません。
第1話の冒頭ではそんなことを想像もできないほど、普通の親子の日常生活が描かれます。
なぜなら陣平が再婚したときまだ幼かった美久は、この事実を知らずに生きており、
陣平は密かに美久の20歳の誕生日にこの事実を告白すると決めていて、物語はここから始まります。

陣平は母親に連れられた3歳の美久と初めて顔を合わせたレストランで美久と食事をする約束をします。
そこに現れた美久は母親が遺したワンピースを着ていて、陣平はあの日を思い出します。
いや、思い出したのは陣平だけではありません。実は美久は幼心にあの日のことを覚えていたのです。
なぜ覚えていたのか?その理由は、美久にとってこの時の陣平との出会いが初恋だったからです。
もっともこれを恋だと認識するのはもっとずっと後、というよりも、
20歳になってもなおはっきりと自覚していないのが美久という女の子です。
「初恋の人」と十数年間一緒に暮らしてきた美久にとって、
20歳を迎えるということは陣平との当たり前の日常が壊れることを意味していました。

序盤は父親から自立しようとする女の子の健気な成長物語の様相を呈しますが、中盤以降は、陣平の研究室の
学生で美久に思いを寄せる寺西真(草彅剛)との関係や陣平の再婚話、そして、本当の父親との再会が描かれ、
美久にとって本当の意味での幸せがどういう形なのか、陣平と美久それぞれの思いが交錯します。
そういうドラマの主題歌だということを念頭においてもう一度この曲の詞をご覧になってみてください。
また少し違った感想が得られるかもしれません。

私はこのドラマと『いつかまた逢える』(1995年)という作品を教材にしてドラマ演出の基本を学んだので、
この2作品のチーフディレクターだった永山耕三監督の基本的な演出手法は熟知しているつもりです。 
永山演出の最大の特徴は音楽への強いこだわりで、1991年に制作された『東京ラブストーリー』では、
当時まだテレビドラマでは一般的ではなかったオリジナルサウンドトラックを制作してドラマ演出に革命を起こしました。

この『じんべえ』の音楽は『ロングバケーション』(1996年)などにも楽曲を提供していた音楽プロデューサー・Sinが結成した
SR Smoothy(エスアールスムージー)というユニットの「Opus One」というアルバムに収録された曲をベースとした楽曲で、
主にボーカルを抜いた状態のアレンジ曲と一部は挿入歌として劇中で使用されていました。
その中でもピアノのインスト曲”Wind On The Water”は印象的な場面で何度も使用され、
主題歌と並んでこのドラマを象徴する曲となりました。美久の誕生日のシーンで描かれているとおり、
この曲は二人にとって亡き妻、亡き母を偲ぶ大事な曲という設定になっています。

映画の世界では、古くから「いい映画にいい音楽は付き物」と言われてきましたが、
それをテレビドラマに本格的に持ち込んだのが永山耕三監督で、
『東京ラブストーリー』以降、ドラマ演出において主題歌と音楽は大変重要な位置を占めるようになり、
作品が成功するためにはいいアーティストといい作曲家を確保することが必須条件となっていきます。
ただ、近年のドラマサントラは同じ作曲家が年に何本も書き下ろすためか、
印象に残っている音楽はそう多くはありません。最近のサントラで特に印象に残っているのは、
吉俣良さんの『篤姫』、林ゆうきさんの『コード・ブルー』、井筒昭雄さんの『流れ星』ぐらいでしょうか。

最後に、この『じんべえ』というドラマは、どういう理由かわかりませんが、一切ソフト化がなされていないようです。
そういえば、当時VHSの発売を心待ちにしていたのですが、全然アナウンスがなくて15年間すっかり忘れていました。
素晴らしいドラマなので多くの人にご覧いただきたいのですが、観られるとすればCS等の再放送でしょうか。


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ゆんた

こんにちは。
私は、松たか子さんが大好きで、応援している一ファンです。
松たか子さんで、検索したところ、このブログに出会いました。
松たか子さんを好きなのと同時に、音楽にも興味があり、あだち充も大好きで、まさにこのブログにはとっても興味をそそられました。
読んでみて、さらに共感し、コメントさせていただきました。
『じんべえ』が放送された頃は、まだ松さんのファンクラブもなく?、とにかく、このドラマに気付いた時は、最終回近くだったような・・・だから、私もこのドラマがDVD化されないか、心待ちにしていますが・・・やはり、無理なのかなぁ。。。
松たか子さんのコメント付きのコミックは、購入し、原作は読みました。
音楽も気になっていて、今回聴くことができてよかったです。ありがとうございました。
松さん出演の『運命の人』(TBS日曜午後9時から)も、あと2回しかありませんが、キャストもとてもみなさん素晴らしく、音楽も佐藤直紀さんで、場面にあった相乗効果のある音楽です。
社会派ドラマで、ちょっと苦しいタイプのドラマなので、お好みではないかもしれませんが、もしよかったら、見てみてくださいね。
by ゆんた (2012-03-11 10:18) 

ジャニスカ

ゆんたさん、こんにちわ。コメントありがとうございます。
私も松たか子さんの隠れ?ファンでして、ロンバケ・古畑以来、
彼女が出演している映画・ドラマはおそらくすべて拝見しています。
もちろん『運命の人』も毎週観ています。ただこれは個人的な好みの問題ですが、
私は佐藤直紀さんの音楽にはあまり魅力を感じません。「龍馬伝」もそうでしたが、
ちょっと大仰なオーケストレーションは、劇伴としては違和感の方を先に覚えます。
音楽はあくまでも脇役であるべきで、映像を引き立てる存在であって欲しいと思っています。
松たか子さんは見事な「昭和の女」っぷりですよね。
主人公にはなかなか感情移入しづらいドラマですが、最終回に向けては
前向きさが見られそうなので後味のいい終わり方を期待しつつ最後まで見守りたいと思います。
『じんべえ』のDVD化が実現したらいいですね。。。
まずはこうやって話題にすることが大事かもしれません。

by ジャニスカ (2012-03-12 20:25) 

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