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(1)全開ガール [ドラマレビュー]

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『 全開ガール 』
第1回
( 2011年 フジテレビ 公式サイト
演出:武内英樹 脚本:吉田智子 出演:新垣結衣、錦戸亮

本作に対しては多くは期待していませんでしたが、無性に本編をもう一度観てみたいという思いに駆られてしまいました。
そう思わせる理由が二つあって、ひとつは俳優さんたちが熱のこもった魅力的なお芝居を披露してくれていること、
もうひとつは武内英樹監督の緻密な仕掛けにあふれた演出的テクニックで、私はそれらを再度確認してみたくなりました。

武内英樹監督といえば、私は真っ先に『神様、もう少しだけ』(1996年)を思い出してしまうのですが、
近年では、『のだめカンタービレ』(2006年)の演出を手がけた方といえばとてもわかりやすいと思います。
「のだめ」を初めて観た時は、私にはこれが武内監督の演出だとはにわかには信じがたかったのですが、
シリアスからコメディまでジャンルを問わず、フジテレビでは一二を争う技巧派の監督という認識で間違っていないと思います。

本作を観てまず感じるのは最初から最後まで画面から目が離せないテンポの良さで、
これは完全に編集の巧さから来るものだと思います。以前にもどこかで書きましたが、
近年は深い意味もなく細かいカット割をすることが演出だと思っているドラマ監督がとても多くて、
私はそんな映像を目にすると、ただの「監督の自己満足」という言葉で一刀両断することが常でした。
本作を改めて丁寧に観てみると、シーンによっては細かいカット割が施されていることに気が付きますが、
初見の私は、それを「監督の自己満足」と感じるより前に、グイグイ画面に引き込まれてしまっていたようです。

カット割が自己満足で終わっている監督と武内英樹監督の差をわかりやすく言えば、
そのシーンにおいて細かく映像を切るという演出を選択する明確な理由が存在するかしないかであり、
カット割にしっかりとした意味づけがなされていなければ、それが監督の自己満足と言われても仕方がないところでしょう。
武内監督が細かく映像を切っていくカット割によって何を実現しているのかといえば、観るものを惹きつける軽快なテンポです。
台詞のお尻でそれはそれはうまいこと映像を切って次の台詞に繋げていくんですね。

再度鑑賞できる方には改めて注目していただきたいのですが、
例えば、序盤、鮎川若葉(新垣結衣)と山田草太(錦戸亮)が一緒に保育園を訪れたシーンでは、
花村仁(竹内力)と花村うらら(皆藤愛子)を交えた4人の会話から思わず目が離せないような仕掛けがなされています。
このシーンは、若葉に対して他の3人が保育園のルールなどを説明するという意味合いがあって、
それらのひとつひとつの説明に対する若葉のリアクションが短い台詞で添えられています。
この若葉のリアクションを短いカットで巧みに散りばめることによって、このシーンに
観るものを飽きさせない軽快さと若葉の冷淡かつ堅物なキャラクターを見事に織り込むことに成功しています。
私は2度目に観たときに、このシーンは本当によくできているなぁと感心し、3度目で編集の巧さにしびれてしまいました。
ひとつひとつのカットにしっかりとした意味が込められている「美しいカット割」を久々に見た思いです。
大した意味もなく映像を切り刻んでいるドラマ監督に見習って欲しいシーンでした。

他にも若葉と草太が初めて出会う電車内のシーンで施されているコマ落としの編集なども、
ちょっと普通のディレクターには真似できない高度なテクニックだと思います。
そのまま主題歌が導入してタイトルインするという、とてもキャッチーなオープニングに仕上がっています。

さらに、映像表現を離れたところでも、武内演出は冴え渡っています。
主演の新垣結衣ちゃんをこんな風に撮った監督は初めてでしょう。
とにかくガッキーを動かす・・・動かすことによって彼女の新しい魅力をとてもうまく引き出していると思います。
序盤から彼女が走りまくっているのも驚きましたが、それよりもあれは何ですか。
桜川昇子(薬師丸ひろ子)から最初の仕事をもらうときの喜びを表現したと思われるあの動きは何なんだ!?

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個人的にはちょっと度肝を抜かれたところがあるんですけど(^^;、
新垣結衣ちゃんが割りとさらっとやってのけているところに彼女の女優としての成長を見た気がしました。
こういうことやる子でしたっけ?いつのまにか本作のようなコメディにもすんなり馴染める女優さんになっていたんですね。

演出面を中心にレビューしてみましたが、ストーリーも楽しいですよね。
台詞で物語を展開させていくタイプのドラマですけど、
第1話からとても多彩で個性的な登場人物それぞれのキャラクターがしっかりと固まっていて、
ひとつひとつの台詞に登場人物の息遣いを感じます。俳優さんたちも早々に役柄をしっかりと手の内に入れていて、
レベルの高い仕事をされています。ラストシーンの方言でのやり取りなんかは本もお芝居も秀逸でした。
一見、漫画原作があるような気すらしてしまうんですけど、オリジナル脚本なんですよね。これは本当に素晴らしいことです。
『クローズド・ノート』(2007年)や『岳-ガク-』(2011年)を書いた吉田智子さんですから今後の展開にも安心感があります。

最後に、下の動画は番組宣伝用のVTRなんですけど、
それにもかかわらず「是非見てください!」的な要素がまったく感じられないところが面白いです。
新垣結衣ちゃんはこのドラマでも相変わらず媚びないんですよね。
このVTRを観ても本作の演出陣が彼女の女優としての特性をよく理解した上で撮影に臨んでいることがうかがえます。
どうしてかわからないけど、何度観ても楽しいんだよなぁ、これ・・・。
普段走ったりするイメージがない子が一生懸命走っている姿ってそれだけでほんわかするのかもしれません。

<付記>
見逃した方、再度ご覧になりたい方に朗報です!
本日、深夜25:05~「金キラ☆ナイト」にて再放送の予定があります。ただし、関東ローカル。
http://www.fujitv.co.jp/b_hp/zenkai_girl_r/index.html

関連記事 : (11)全開ガール (2011-09-24)
(10)全開ガール (2011-09-17)
(9)全開ガール (2011-09-10)
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k_iga

赤ジャージにメガネの小学生時代も「よしっ!」とあのポーズをしてましたね。
by k_iga (2011-07-23 18:09) 

ジャニスカ

k_iga さん、こんにちは。
私も後で気が付いたんですけど、あの動きって主人公の幼少期と現在を繋げる演出なんですよね。
1度観ただけでは気が付かない何気ない演出ってあんまり意味がないようにも見えますけど、
作り手の細部への配慮が行き届いている作品こそが結果的に良作である場合が多いです。
いいドラマって自然と繰り返し観たくなるものなんですよね。

by ジャニスカ (2011-07-23 19:58) 

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