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(4)鈴木先生 [ドラマレビュー]

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『 鈴木先生 』
第4回
( 2011年 テレビ東京=アスミック・エース 公式サイト
監督:橋本光二郎 脚本:古沢良太 出演:長谷川博己、臼田あさ美、土屋太鳳、田畑智子、富田靖子、でんでん

他者を想う気持ちが自分の行動を支配する。そしてそれが結果的に別の他者を傷つけることがある。

これはあらゆる社会に日常的に存在する「真理」とでも言うべき事柄だと思います。もっとも小川蘇美(土屋太鳳)に好意を抱く竹地公彦(藤原薫)は、小川自身をも傷つけるという救いようがないとも思えるほどの暴走をしてしまったわけですが、今回描かれた事件とは、「子供のけんか」で片付けられるほど単純な構造ではないのは明らかでしょう。

今回の竹地の行動はほぼすべておいて、そのベースに小川蘇美を想う気持ちが介在しています。トイレの個室に長時間こもっていたことを口止めしたのは、そのことを小川に知られたくなかったからだし、友人の紺野徹平(齋藤隆成)の恥ずかしいネタを暴露したのも小川の気を引くためであり、客観的には危うさをはらんでいますが、当の本人はそのことによって紺野どころか小川をも傷つけることになろうとは想像だにしておらず、何かに支配されたかのような行動でした。

この事件においてその行動を何かに支配されていたのは竹地だけでしょうか。小川ファン5人衆の他の4人は、竹地の行動のベースに存在する感情を嗅ぎ取り、小川蘇美を想うがゆえに竹地に対して圧力をかけています。また、中村加奈(未来穂香)が竹地に対して意趣返し的な発言をしたのも、長靴を履いてきた小川蘇美の心情を慮ってのことであり、すべての当事者に共通しているのが誰かを想うがゆえに他者を傷つけたということなのです。小川蘇美も例外ではありません。彼女が竹地をあざ笑ったように見えたあの微笑みは、おそらく中村が自分をかばってくれていることを感じ取った嬉しさから出たものであり、それが結果的に竹地を傷つけ、中村を押し倒す引き金となってしまいました。竹地が不運だったのは、中村加奈に外傷を負わせてしまった点で、彼はこれによってどつぼにはまってしまいます。

もちろんドラマですから誇張はされていますが、こういうことは人間社会にあっては日常的によくあることなのではないでしょうか。ある一面からは良かれと思って行動したことが、まったく別の面には悪影響を及ぼし、意図せず誰かを傷つけている、ということが我々の周囲に絶対にないと言い切れるでしょうか。本編では生徒たちそれぞれが子供らしくはっきりと行動を起こし、結果的に互いを傷つけあうこととなりました。しかし、大人社会の厄介なところは、大人ゆえに我慢するということなのです。知らないところで自分の行動が誰かを傷つけているかもしれないという意識は、大人だからこそ常に持たなければならないものだと思います。自分の行動の結果を見届ける、それが社会人の責任というものだと思います。

つまり、今回の事件は大人社会でもそのまま起こりうるような性質のものであり、学校で起こる問題とは社会の縮図と言えるのかもしれません。学校生活の中で今回のような事件を経験しておくことはとても重要なことだと思います。もちろん先生がこれをどう解決に導くかは、生徒のその後の人生に大きな影響を及ぼしかねないものかもしれませんが、足子先生(富田靖子)が言うような波風の立たないクラス運営が必ずしも正しいとは言えないと思います。

ここからは少し余談ですが、第2話で描かれた出水正(北村匠海)の問題行動の原因、すなわち食事作法に関わるエピソードは、やはり大人が自らのあり方を顧みるきっかけとしなければならない内容だったということを実感しています。

http://www.j-cast.com/2011/05/18095908.html?p=all

大人になる前に解決できなかった自らの心や自らの行動に関わる諸課題は、大人になって価値観が成熟してしまうとますます無自覚になってしまうし、一見瑣末なことだけに大人同士ではなかなか指摘しあえない、とてもやっかいな課題と化してしまいます。彼女を貶めるつもりはありませんが、自分が恥を掻くだけなら、無自覚なわけだし、何の問題もないのかもしれません。しかし、他者を不快にさせる、その結果として女優としての価値まで落としてしまうということになると看過できない問題となってきます。彼女が『花のあと』(2010年 東映)で武家の女性の所作を演じていたのかと思うと、これは観客に対する背信行為ともなりかねません。 

鈴木先生(長谷川博己)が竹地公彦に対して施した処置は、やり過ぎという意見もあるでしょう。しかし、竹地があの性格を矯正しないまま大人になってしまうことを想像すると、こんなに不幸なことはありません。鈴木先生が言うところの「生徒ひとりひとりの覚醒」とは、大人になる前に為されなければ意味がないのです。荒療治ではあったかもしれませんが、遅かれ早かれ、竹地が大きな問題を引き起こすのは目に見えているし、それがクラスの問題として顕在化せず、鈴木先生の目に触れずにうやむやになっていたら、竹地の性格はそのままどころか、ますます方向性を違えていた可能性もあったと思います。

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「見た目より快活で博識、雄弁。その反面、自尊心が強く、人を見下す傾向あり・・・」

私は、今回の鈴木先生の判断は、当然彼の中に「勝算」があってのことだったと思っています。それを感じさせる描写のひとつが、序盤に鈴木先生のモノローグで説明された竹地の性格分析の的確さです。これは竹地の「孤独な戦い」が終わって、談話室で鈴木先生が竹地に与えた今後の「処方箋」によく現れていて、鈴木先生のアドバイスは、竹地の性格を熟知し、逆手に取ったものだったと思います。

 「止めないことが、救い」

鈴木先生は、今回のことをクラスメート(他者)との間に起こった問題ではなく、自分自身の問題であることを「止めないこと」によって竹地に認識させており、問題の本質を簡潔化させることに成功しているのです。このシーンで鈴木先生が竹地に投げかけたアドバイスは、自分の感情を暴走させてしまった竹地だからこそ理解できるものなのです。そして、竹地の性格はもちろん、理解力に関わる彼の学力なども考慮に入れ、ある程度の確信の上に一つ一つの言葉を選び、精巧に作り上げられたアドバイスだったと思います。

鈴木先生の勝算のベースにあるもうひとつの要素は、中村加奈の「覚醒」をはっきりと認識したことです。今回描かれた中村加奈の精神的成長は、出水正の問題行動で露呈した、自らの行為(=食事作法)が他者に及ぼす影響に対してしっかりと向き合えた結果であり、鈴木先生は自分のやり方が間違いではなかったことを確認し、自信を深めたはずです。今回の竹地に対する処置がどう転ぶか、「そんなこと、わかるわけがない」のは、結局、「覚醒」とは自分自身で成し遂げなけらばならないものだからです。鈴木先生は自分の「勘」にはそれなりの自信を持っていて、少なくとも竹地が「覚醒」に至る道筋はしっかりとつけたという確信を持っているはずです。今回も鈴木先生の教師としての非凡な能力が巧みに描かれていたと思います。

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「小川ファン5人衆」

それにしても改めて優秀な脚本だと思います。中村加奈の「覚醒」の描写は第2話に始まるものだし、小川ファン5人衆の存在が前回のさりげないシーンの中ではっきりとあぶりだされていたというのもとても面白いものでした。各話単体でも十分に楽しめるドラマだと思いますが、第3話までの山崎先生(山口智充)の描写からもわかるように、一つ一つのシーンにしっかりと意味が込められていて、それらを丁寧に解釈しておくことでその後のエピソードを何倍にも楽しめるドラマだと思います。今回で言えば、小川蘇美と中村加奈の関係接近、それを好ましいものと思っていない樺山あきら(三浦透子)と入江沙季(松本花奈)、そして小川ファン5人衆の描写などが、今後巻き起こるエピソードに深く関係してくるでしょう。そういえば、『サイドカーに犬』(2007年)では小学生だった松本花奈ちゃんがすっかり大きくなっていて驚いています。

例によって今回もとても硬派なレビューになってしまいましたが、鈴木先生の妄想およびモノローグのシーンでは相変わらず笑わせてもらっています。そこに今回は、鈴木先生の恋人・秦麻美(臼田あさ美)が「生霊」と化すという新たな要素が加わっており、彼女に関係する描写は今のところは傍流的エピソードですが、今後大変重要な役割を果たしていくのは間違いないでしょう。見逃されがちですが、提供バックで使用されたシーンにも笑ってしまいました。さらに今回は、雨の演出が大変効果的だったことも付け加えておきます。今クールのドラマの中では最も低視聴率でありながら、演出・脚本ともに最もハイクオリティな作品に仕上がっているのがこのドラマです。

関連記事 : (10)鈴木先生 (2011-06-30)
(9)鈴木先生 (2011-06-24)
(8)鈴木先生 (2011-06-19)
(7)鈴木先生 (2011-06-10)
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(3)鈴木先生 (2011-05-13)
(2)鈴木先生 (2011-05-06)
(1)鈴木先生 (2011-04-29)

<参考 : 緋桜山中2年A組 人物関係図>
http://www.tv-tokyo.co.jp/suzukisensei/special/book/book_img03.html 

<参考 : ネット局>
 ・ テレビ東京(関東広域圏)
 ・ テレビ北海道(北海道)
 ・ テレビ愛知(愛知県)
 ・ テレビ大阪(大阪府)
 ・ テレビせとうち(岡山県、香川県)
 ・ TVQ九州放送(福岡県)
 ・ 岐阜放送(岐阜県)
以上が同時ネット。以下は放送日時が異なる。
 ・ テレビ和歌山(和歌山県)※13日遅れ
 ・ テレビ熊本(熊本県)※15日遅れ
 ・ 新潟テレビ21(新潟県)※40日遅れ
http://www.tv-tokyo.co.jp/suzukisensei/onair/index.html


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