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(7)流れ星 [ドラマレビュー]

『 流れ星 』
第7回
( 2010年 フジテレビ
 公式サイト
演出:並木道子 脚本:臼田素子、秋山竜平
 出演:竹野内豊、上戸彩、北乃きい、松田翔太、稲垣吾郎

第4話のレビューで、台詞ひとつでそれまでの状況を一変させるこの脚本の巧みさを指摘したことがありますが、このドラマの魅力のひとつは、一つ一つの台詞の力強さや印象深さにあるような気がしています。そう思い始めると、これまで放送された全話を振り返ってみたくなってしまうのですが、今回はとりあえず今週分の印象的な台詞をいくつかピックアップしてみたいと思います。

第5話で健吾(竹野内豊)の家族が抱える過去の事情が明らかになって以降、物語の焦点はいよいよ健吾と梨沙(上戸彩)の関係性にシフトしています。ここまでの二人の関係性は、付かず離れず、視聴者としてはもどかしい思いをしているところですが、重要なのはここまで二人の互いに対する感情の核心に触れる描写は一切なく、ましてや台詞として二人のその種の感情が表出したこともありません。二人の間の感情を、我々は二人を取り巻く「状況」の中から推察し、言ってみれば勝手に「期待」をしているだけなのです。今日は我々にそのような「期待」を抱かせる二人の絶妙な距離感を示す台詞を紹介してみます。

まずは、もはや自分の居場所がなくなって岡田家を後にした梨沙を追いかけて、健吾が修一(稲垣吾郎)のアパートを訪ねたシーンでの健吾の台詞です。

「梨沙はあなたと一緒にいても幸せになれないと思います」

健吾が梨沙を必死で探している時点ですでに「状況」は整っており、その上での健吾の断言するようなこの力強い言葉は、梨沙に対する特別な感情と解釈しても構わないはずです。「あなたと一緒にいても幸せになれない」とは、「自分が幸せにする」と言い換えることも可能なわけですが、そこまで解釈してしまうと、それこそ我々の「期待」でしかなくなってしまうような気もします。

実際、後のシーンでそれが淡い期待だったことを思い知ることになります。自宅の前で梨沙を見つけた健吾は去ろうとする梨沙を引きとめて、ここでも「戻ってきて欲しい」と率直な言葉をかけます。しかし、次にクラゲのストラップを梨沙に手渡して発せられた健吾の台詞がこれです。

「そういう契約だろ・・・」

これはいい意味で視聴者の「期待」を裏切る絶妙な台詞でしょう。二人の関係が盛り上がったところで、「契約」という言葉をもって一気に二人の関係をスタート地点に戻してしまうわけです。もちろんこれは健吾の正直な気持ちが込められた言葉ではなく、むしろ自分の気持ちを抑えるために発せられた言葉と解釈することができてしまうわけで、その意味では結局視聴者の期待値はプラスマイナスゼロ、二人の関係は何も進展していないことを確認したのみに止まっています。しかし、このドラマは二人の関係を決してしらけさせることはなく、しっかりと次なる期待を抱かせるシーンを用意しているのです。

手術前夜、健吾の部屋での二人のやりとりは、大変奥深い意味が込められており、この作品を振り返ったとき屈指の名シーンと位置づけることができると思います。クラゲを見つめる梨沙にかけられた健吾の優しさが感じられる言葉からこのシーンの台詞を起こしてみたいと思います。

「オレ向こうで寝るから、今日は気が済むまで見てていいよ」
「サンキュ」
「今でも、クラゲになりたいって、思ってる?」
「どうだろ」
「何も考えずに、漂っていたい?」
「けっこういいかもね・・・いろいろ面倒なこと考えるのも」

このパートでは、梨沙の価値観の変化がはっきりと読み取れます。

「なんか眠くなってきた・・・」
「じゃあ、おやすみ」
「あのさ・・・」
「ん?」
「覚えといて・・・おなか・・・あたしのおなか・・・覚えた?」
「しっかり」
「じゃあいいや・・・」

   「けっこういいかもね・・・いろいろ面倒なこと考えるのも」
   「じゃあいいや・・・」

台詞だけを起こすとさすがにちょっと味気ないところがありますが、逆に言えばこれだけ簡素な台詞をもって表現されている情報量には驚くしかありません。このシーンの二人のやりとりは、ひとつひとつの行間をじっくりと時間をかけて撮っていて、とりわけ梨沙の感情の機微が巧みに織り込まれたシーンになっています。前半のパートにおける梨沙の価値観の変化を前提とすると、まだメスが入っていないおなかを健吾に見せて、覚えておいて欲しいと願う梨沙の気持ちは、紛れもなく「生への執着」であり、これは自暴自棄になった末に「契約」として臓器提供に応じたときには存在しなかった感覚ということになるでしょう。

そして、我々はこのシーンで梨沙のもうひとつの感情を読み取らなければなりません。女心です。健吾におなかを見せる行為は、女性としてのその後の人生に対する覚悟を決めるためのものであり、同時に手術によって自分の体に大きな傷が入ることへの怖さが表出したものだと考えられます。これまでの梨沙の言動では、ほとんど彼女の本音が表に出ることはなく、自分の気持ちを表現することについては不器用な性格であることが再三印象付けられてきました。おなかを見せるという行為は、梨沙の精一杯の本音の表現の仕方であり、「女性らしい弱さ」をさらけ出した瞬間と言えると思います。言うまでもなく、そのような「女性らしさ」と「弱さ」を初めて見せた対象が健吾であるところに重要な意味があるわけです。

第5話のレビューで、竹野内豊さんの最大の見せ場とも言えるシーンを紹介しましたが、このシーンでは女優・上戸彩の繊細かつ深淵な感情表現を見ることができます。前述のとおりこのシーンにおける梨沙の感情には、「決意」「不安」「恥じらい」「弱さ」といった様々な性質が複雑に入り乱れており、彼女はこれらの複雑な感情を梨沙というキャラクターの中に完璧に織り込んでいたと思います。

さて、先週のラストに現れて急展開を見せた美奈子(板谷由夏)の存在については意外にも今週であっさりと決着が付いてしまいましたが、今週のラストにも例によって、物語の新展開を予感させる描写がさり気なく盛り込まれていました。修一と会っていた女性は誰なんでしょうか。わずか数秒の絵で視聴者の想像力をここまで掻き立ててしまうこのドラマは、エンタテインメント性という意味でも、大変高いクオリティを有していると思います。以前にも触れましたが、連続ドラマの特性を生かした各話の結びつきを強くするような脚本と演出が存在していると、本当に面白い効果が生まれるものです。

それと、次回予告であれを見せちゃうんだよなぁ・・・このドラマは。あれは「視聴者の期待は裏切りませんわよ、フフフ・・・」という製作者のメッセージが込められていると思います(^^;。来週は宮本演出です!

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コメント 2

テンコ

こんばんは~!
ジャニスカさんのレビューは本当にほれぼれします。
その素晴らしい鋭さに感激、感動しています。

やっと、2人の恋愛の部分に入ってくるところで、視聴者の期待はどんどん高まっていますね。健吾の梨沙への言葉は、毎回、何て言うんだろう?と息をのむように聞き入ってしまいます。「契約だから」には確かに本音がこれだけではないだろうと、思わせるものでした。

おなかを見せるシーンは「屈指の名シーン」になりますね。
あのとき、おや?梨沙の態度が前と違うぞと思いました。まさに女心の変化なのですね。

手術台に乗っていく梨沙の健吾へ向けるまなざし…、健吾が彼女を見る目、何も言わなかったことが、かえって愛を感じました。
最近、すぐに好きになったと展開が早い恋愛ドラマが多いので、違和感が否めなかったのですが、このドラマのように2人が惹かれあっていく過程がじっくりと描かれていると視聴者が感情移入できるのに十分なので、本当にこのドラマは心地よいのです。

修一が会っていた女性は、雑誌記者かなにかじゃないでしょうか。彼が臓器売買だと記事を売るのではないかと…。
でも次週予告では梨沙が手術も終わって、家を出て行くような様子、修一のことは不明ですね。
by テンコ (2010-12-04 22:00) 

ジャニスカ

テンコさん、こんばんは。
そんなにお褒めいただくと照れてしまいますが(^^ゞ、
いいドラマのレビューはおのずと書きたいこともたくさんあるし、
実際にひとつひとつのシーンや台詞に深い意味が込められていることが多いですから、
自然と書き(読み)甲斐のあるレビューに仕上がります。

「契約」という言葉はこのドラマで最も重要なキーワードで、
そもそも「契約から始まる恋愛」というプロットが実に秀逸なんだと思います。

あのシーンは本当に名シーンですねー。

「オレ向こうで寝るから、今日は気が済むまで見てていいよ」

この健吾の台詞ってすごい「優しさ」を感じませんか?
私はこの台詞が梨沙の本音を引き出したんじゃないかと考えています。
これはこの人に今の自分の気持ちを共有してもらいたいと梨沙に思わせるために作られた台詞なんだと思っています。

おっしゃるとおり、最近は展開が早い恋愛ドラマが多いですね。
ひと目惚れとか運命で片付けちゃうような。これでは視聴者は置いてきぼりですよね。
その点、このドラマは視聴者のほうが先走っちゃっていて、
そのもどかしさが我々を画面に釘付けにさせているといったところでしょうか。

手術が終わったら、二人にとっての障害は修一だけですからね。
次回以降は、梨沙と修一兄妹に関する謎が明らかになっていくと思います。
あの女性はそのあたりのことに関係してくるのかなとも思っていますが、
ふたを開けてみれば現時点で我々が思い描いているほど重要な意味はないような気もしています。

by ジャニスカ (2010-12-05 21:24) 

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