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(下)素直になれなくて [ドラマレビュー]

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『素直になれなくて』
(2010年 フジテレビ 全11回)
演出:光野道夫 ほか 脚本:北川悦吏子 主演:瑛太、上野樹里、ジェジュン、関めぐみ、玉山鉄二
          Official / Wikipedia / TV Drama DB            

本作の脚本を担当した北川悦吏子さんは、
ツイッターという新しいツールに着目はできても、それを時代のニーズに合わせて現在の価値観で昇華させ、
ドラマ作りに適確に生かしていく感性は持ち合わせていなかったようです。

『東京ラブストーリー』(1991年)の大ヒットで90年代に一躍トップ脚本家に登り詰めた坂元裕二氏は、
その後は今ひとつヒット作に恵まれませんでしたが、今年NHKで放送された『チェイス~国税査察官~』は、
それまでのキャリアが嘘のような重厚かつ娯楽性を重視した高品質のオリジナル作品となりました。
意欲的に新ジャンルに挑戦した坂元氏は、この作品で久々にトップ脚本家としての存在感を示してくれました。
ちなみに今期、日本テレビで放送されている『Mother』も坂元氏のオリジナル脚本です。

それに対して、同じく90年代に一世を風靡した北川悦吏子さんが発表した最新作は、
観終わってみれば、20年前とまるでやってることが変わっていないという大変残念な作品となってしまいました。
1クールという短期間で、悪く言えば「使い捨て」のように新作が発表されていくテレビドラマというジャンルにおいては、
時代の価値観やニーズに対応できない、あるいはその意識が低い作品の存在価値は薄くならざるをえず、
厳しいことを言うようですが、北川悦吏子さんには「あれは過去の栄光」であることをしっかりと認識して欲しいところです。

このドラマは、せっかくツイッターという時代を象徴するツールを作品に盛り込んだのに(北川さん本人の意向で)、
そこに登場する人物も、彼らが発現する言動および感情も、きわめて「古典的」であり、
最初から最後までそのアンバランスが観るものに違和感だけを抱かせることになりました。
ツイッターに着目し、それをドラマに盛り込もうとするのならば、ツイッターの道具としての側面だけではなく、
それを実際に使用する人たちをしっかりと取材して、登場人物のキャラクター設定にもそれなりの工夫を施すべきであり、
それこそが時代のニーズに対応して、新しいものを作るという現在のテレビドラマに要求される基本的な作業となります。
本作におけるツイッターは、「ドラマ作り」にはほとんど貢献しておらず、
結果的に放映前の「話題作り」にしかなりえなかったのは皮肉なことです。

それでも、私は最終回の冒頭で、ナカジ(瑛太)がハル(上野樹里)に割とあっさりとフられたのをみて、
それまでほとんどドラマ作りに貢献できなかったツイッターを最終回にして劇的に活用し、
ストーリー上もドラマ製作上も「起死回生」の大逆転があるのではないかと期待してしまいました。
実績のある脚本家が自分でツイッターをドラマに盛り込んだわけですから、
最初から何らかの劇的なアイデアを「腹案」として持っているのではないかという淡い期待感を抱いてしまいましたが、
このドラマの最終回にはきわめて「ベタ」な結末しか用意されていなかったのはご覧いただいたとおりです。
結局このドラマは、北川さんが「過去の栄光」にすがってしまったと見られても仕方がない内容であり、
申し訳ありませんが、そのような評価を甘んじて受けてもらわなければなりません。

そのような視点でこのドラマの概観をなぞれば、『あすなろ白書』(1993年)との類似は偶然ではないと思われますが、
仮にプロデューサーを含めた製作者が『あすなろ白書』を意識していたのであれば、
先にも述べたように現在の価値観でストーリーを再構築する作業は不可欠で、
その作業のためにツイッターというツールを生かせれば一番良かったとは思います。
しかし、それは大変困難な仕事であることも確かで、『あすなろ白書』を意識するのであれば、
はっきりと「リメイク」を謳うしかなかったと思います。現実的にはフジテレビがそんなことをするとは思えませんが。
結果的に本作は製作者が何をやりたかったのかがさっぱり伝わってこないドラマとなってしまいました。

『あすなろ白書』との類似については、テンコさんがわかりやすく分析してくれていますので、こちらをご覧ください。
http://norimaki448.blog.so-net.ne.jp/2010-05-31

また、演出の光野道夫監督は、昔から割と斬新な絵作りをするベテランの演出家ですが、
(代表作は何と言っても『101回目のプロポーズ』です!)
本作でもシーン変わりやカット変わりで特徴的なワイプが使用されていて、スタイリッシュな演出を見せてくれました。
しかし、結局そのような斬新で力の入った演出にも、
「古典的なストーリー」とのアンバランス感が発生してしまっていたことを同時に指摘しておきます。

それともう一点。
そのようなスタイリッシュな演出とのバランスを考えれば、
WEAVERによる主題歌「Hard to say I love you~言い出せなくて」は使いやすかったと思いますが、
「古典的なストーリー」とのバランスで言えば、
菅原紗由理さんによる挿入歌「素直になれなくて」の方がこのドラマには合っていたような気がします。
これが物語の情感にはまったとてもいい曲なので、
こちらを主題歌にしていれば、もっと劇中で効果的に使用できたのではないかと思っています。
このあたりにもこのドラマのチグハグ感が漂っています。

関連記事:(上)素直になれなくて(2010-04-22)
ハルフウェイ(2009-11-21)


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テンコ

ジャニスカさん、こんばんは!

ブログ紹介していただいてありがとうございます。
たいへん深く鋭い考察で、興味深いです。

まず、坂元裕二氏との比較ですが、ちょうど、坂元氏脚本の「Mother」を観終わったばかりでしたので、この方が90年代の「東京ラブストーリー」の脚本を作られたと聞き、驚きました。「Mother」は素晴らしい作品だなと思いましたし、今期の大きく対比される(最良と最悪)作品だなと思っていたからです。

北川悦吏子さんの過去の作品についてあれから調べていたのですが、「オレンジデイズ」もやはり5人の男女のオレンジ会なるものを作るところから始まり、似たような作品を作っていました。ロンバケは「うそつきは夫婦のはじまり」という作品をあえてパクって作られた経緯があるそうで、その後の「Love story」も骨格が似た作品と言えました。彼女のオリジナリティはそういうストーリーの骨格ではないのでしょうね。似た物を作ってもいいとは思いますが(おっしゃるようにリメイクと言えばなおさら良いですが)今回は大失敗したようですね。

演出の光野道夫監督のこともなるほどと思いました。斬新な画面でしたが、確かにちぐはぐで合っていなかったですね。「101回目のプロポーズ」は好きなドラマです。傑作ですよね。

音楽も後半になるにつれて変わってきたような気がしていました。しかしどれにせよ、ぴったりしたものが少なかったために、なおさら盛り上がらないものになったのでしょうか。

絶対に載らないだろうと思いましたが、公式HPにメッセージを入れてみましたが、やはり載りませんでした(笑)。フジテレビは全く批判的なものは受け付けないですね。日テレはそうでもないのですが。辛口は抑え目にして玉山鉄二さんは熱演で良かったとも書いてみたのですが…。
by テンコ (2010-06-25 21:26) 

ジャニスカ

テンコさん、nice!&コメントありがとうございます!

そうですね、坂元裕二さんの今年に入ってからの劇的な「復活」は目を見張るものがあります。
私は日本テレビのドラマをちゃんと見たことがほとんどないので『Mother』もまったく見ていないのですが、
視聴率も好調のようで、『チェイス~国税査察官~』の成功が「まぐれ」ではないことが
数字で証明されたことは嬉しく思っています。
奇しくも同じクールで北川さんと坂元さんのドラマの明暗が分かれてしまったのは、
「時代のニーズ」に対する適応力の差であることは間違いないでしょう。

確かに『オレンジデイズ』も似たようなパターンだし、
『ロンバケ』『Love Story』における当初は反発しあっていた二人が最終的にくっつくという構図も
北川脚本のひとつのパターンと言えると思います。
ただ、それらの「名作」ドラマにあって、今回のドラマにないものは、
「魅力的なキャラクター」の存在であり、それは決定的な差だと思います。

北川脚本の特徴であり最大の魅力は、台詞やシチュエーションで表現していく
独特のキャラクター表現にあったはずですが、今回は完全に封印されていました。
特にヒロインの比較で言えば、ハルというキャラクターは、
『ロンバケ』の朝倉南や『Love Story』の須藤美咲と比して、パっとしないのは明らかでしょう。
このドラマにハルというキャラクターを表現するための台詞やシチュエーションがどれだけあったでしょうか。
私は序盤に登場したハルの学校での授業シーンで、
ハルのおっちょこちょいぶりを生徒にフォローされてしまうシーンがとても印象に残っています。
キャラクターの人格はこのようなシーンの積み重ねで表現されるべきものであり、
このシーンに代表されるキャラクター表現に特化したシーンをもっと盛り込むべきだったと思っています。

すいません、またまたレビューの続きみたいになってしまいました(^^;。
昔は当たり前のようにやっていたことができなくなってしまったところが、
脚本家としての力の衰えということになるのでしょうか。

公式HPはやっぱり批判的内容は反映されないんですね、、、
でも、現実問題として、投稿されるものは(推測ですが)批判的内容の方が圧倒的に多いはずで、
そのような意見はHPに反映されなくても製作者には確実に届いていると思います。
プロデューサーにはテンコさんの意見も次のドラマに活かしてほしいですね。
私のレビューはちょっと過激すぎて、製作者には見られたくないですけど、、、(^^;

近いうちに次クールのオススメドラマみたいなのを紹介するつもりですので、また遊びに来てください!

by ジャニスカ (2010-06-26 09:40) 

@ミック

脚本家を追って、作品を見るのも面白いですね^^
拝見すると、
一流の作家といえども、そういくつも引き出しを持っていないようでもあり、
また、何かのきっかけでブレイクスルーするケースもあるようで、
様々なようですね(^_^)
by @ミック (2010-06-27 17:06) 

ジャニスカ

@ミックさん、nice!&コメントありがとうございます!

テレビドラマは、実績のある脚本家でも、
新しいものを生み出せないと生き残っていけない厳しい世界だと思います。
北川さんもそんなことは百も承知で、ツイッターという新しいものをドラマに盛り込んだんでしょうけど、
それだけで満足してツイッターについての丹念な取材を怠ってしまったようです。

それに対して坂元裕二さんが『チェイス~国税査察官』の執筆にあたって、
どれだけ丹念な取材を重ねたのかは作品を見れば一目瞭然なだけに、
結局「自分の感性」だけで脚本を書いてしまった北川さんのような執筆姿勢では、
新しいものは生み出そうとするのは到底不可能だったと思います。


私も昔はそんなことは関係なく、純粋にドラマを見て感動できたんですけど、
嫌な大人になってしまいました、、、(^^;
それでも時にはそんな「邪念」を一切忘れて、純粋に感動できるドラマが存在しているのも確かですから、
いいものはちゃんと評価できる姿勢は忘れたくないと思っています。

これからもちょっと変わった切り口で映画やドラマを掘り下げて生きたいと思ってますので、
またお立ち寄りくださいませ。。。
by ジャニスカ (2010-06-28 11:08) 

テンコ

またまたお邪魔いたします。

ハルのキャラクターについてのお話、大変興味深かったもので…。

>北川脚本の特徴であり最大の魅力は、台詞やシチュエーションで表現していく独特のキャラクター表現にあったはずですが

そうですね。「ロンバケ」の南ちゃんは勢いのいい元気なお姉さんで、魅力があふれていました。山口智子さんのはじけるような明るい笑顔やさばさばした雰囲気などであのドラマを最高のテイストにしていたなと思い出しました。ナイーブな瀬名君と対比して、ここが北川作品の魅力だったんですね。
でも、ハルは明るいのか?暗いのか?キャラクター設定もあやふやだったのではないでしょうか?上野樹里ちゃんも演じるにあたって、悩んでたのではないかとさえ感じました。彼女本来の可愛さが生かされませんでしたね。
北川作品のセリフの特徴なのか、紋切り型で、です、ます、なしで単語の羅列みたいな言い方が多く、それをほぼ全員が同じように言っていたので、それぞれの特徴がなくなってしまいました。あの言い方、気になって、うんざり嫌になりました。キャラクターごとに言い方を変えるくらいの工夫が欲しかったです。
by テンコ (2010-06-29 13:51) 

ジャニスカ

テンコさん、またまたコメントありがとうございます!

キャラクター表現のうち「台詞」についてはまったくテンコさんのおっしゃるとおりで、
私は北川さんが「やっつけ」で書いているような印象さえ覚えてしまいました。
瑛太くんは割と器用に立ち回っていたような気がしますが、上野樹里ちゃんはちょっと災難でしたよね。
北川さんはもともと「女優さんが持つ本来の魅力」を引き出すようなタイプの脚本家ではありませんが、
それにしてもこの人は上野樹里ちゃんの他の作品を見たことがあるんだろうか、
という疑念を持たずにはいられない有様でした。

キャラクター表現のうち「シチュエーション」については、わかりやすいところで言えば、
今や伝説ともなっている『ロンバケ』におけるスーパーボールのシーンということになります。
ああいうことに無邪気にはしゃいでしまう朝倉南というキャラクターに視聴者は魅せられてしまうわけです。

また、個人的に強く印象に残っているのが『Love Story』のワンシーンで、
須藤美咲(中山美穂)が恋人未満の同僚(加藤晴彦)から
思いがけないプレゼントをもらって、どうしてもすぐにお礼を言いたくて、
思わず自分の進行方向とは逆の電車に乗ってしまうというシーンがありました。
それがきっかけで二人は付き合い始めるんですけど、
このシチュエーションには美咲のキャラクターが存分に表現されているし、
晴彦くん演じる同僚が美咲のことを好きになってしまう過程にも説得力が生まれています。

そのような北川脚本独特のキャラクターを魅力的に見せるシーンが
「素直になれなくて」にはどれだけ存在していたでしょうか。
ハルがクスリをやってる不良にナイフを突きつけられて、
それをドクターに助けてもらうシーンなんて、失笑ものです、、、(-_-;

長くなりました、、、一言で言えば、北川悦吏子さんには失望ですね、、、
by ジャニスカ (2010-06-29 22:16) 

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