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機動警察パトレイバー the Movie [映画レビュー]

機動警察パトレイバー 劇場版 Limited Edition [DVD][ DVD ]
機動警察パトレイバー 劇場版

( バンダイビジュアル / ASIN:B002KLKXTA )

[ DVD ]
機動警察パトレイバー 劇場版 Limited Edition
( バンダイビジュアル / ASIN:B00012T0IA )

[ Blu-ray
]
機動警察パトレイバー 劇場版
( バンダイビジュアル / ASIN:B0018KKQAU )

『機動警察パトレイバー the Movie』
(1989年 松竹 98分)
監督:押井守 脚本:伊藤和典 出演:古川登志夫、富永みーな、大林隆介
          Official / Wikipedia / Kinejun           

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(C) HEADGEAR / EMOTION / TFC

本作を一言でいえば、「時代を先取りした作品」であり、今となってはコンピュータ犯罪というプロットは目新しいものではありませんが、公開当時はまだパソコンがほとんど一般家庭には普及しておらず、同時に「難解な作品」という側面も持ち合わせていました。

私は、中学生のときにTV版パトレイバーの延長線上で本作を観たわけですが、当時は冒頭と終盤のレイバーによる戦闘シーンのカッコよさしか理解できませんでした。VHSを買って毎年一回は観ていたと思いますが、大学生になってもその内容についてはいまいちピンときていなかった記憶があり、本作の難解さが、単に「子供にとって」のものではなく、作品世界に現実世界が追いついていなかったことによるところが大きかったような気がします。


舞台は1999年の東京。1995年に首都圏で発生した大地震により、その瓦礫の処理と都市の膨張に伴う用地不足解消を兼ねた東京湾岸開発プロジェクト「バビロンプロジェクト」が推し進められていた。その建設需要に対応すべく、レイバーと呼ばれる作業ロボットが急速に普及するが、レイバーによる犯罪も急増し、警視庁は警備部内にパトロールレイバー中隊を新設して、これに対処した。

これがシリーズの大まかな舞台設定ですが、その優れた先見性のひとつは、「コンピュータの普及」であり、劇場版では、レイバーが自動車のように内燃機関で動くような単純なものではなく、コンピューター制御である点を掘り下げています。しかも、OSというソフトウェアに仕組まれたコンピュータウィルスが犯罪に使用されるという、今となっては常識ともいえるコンピュータ社会の危うさに着目しています。

OSなどという概念がこの当時に理解できるわけもなく、ましてやコンピュタウィルスの本質も一般にはよく知られていない時代ですから、本作の物語については、完全に置いてきぼりという人が多かったと思います。しかし、本作が描く犯罪の性質については時代の経過とコンピュータの普及によって、大分理解しやすくなっていると思います。実際、コンピュータ犯罪を題材とした作品も多く作られるようになりました。

本レビューで掘り下げてみたいのが、犯人である帆場暎一(ほばえいいち)の「動機」です。これに関してはいまだに「難解」な部分を残していますが、漠然とですが、現在の人類が抱える環境問題などの地球規模の問題に着目すると、そこにも本作の先見性の高さが見えてくるような気がします。

本作が公開された1989年というと、いわゆるバブル景気の後期で、今現在の価値観で言えば、「無秩序」な都市開発が推し進められていた時代であり、そのことがもたらす「歪み」のようなものに着目する人が当時どれだけいたでしょうか。さすがに本作では「バブルの崩壊」までは想定していませんが、景気拡大の一方で斜陽にさらされる要素というものが確実に存在していることに言及しており、古い物を壊して盲目的に新しい物を受け入れる人間に対するの警鐘という意味合いを含んでいます。

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たとえば、名場面との評価が高い松井刑事が帆場の痕跡を追うシーンは、音と映像のみで寂れた下町の風景を切り取っていきますが、常に高層ビルとの対比で描写されていきます。実際、帆場は再開発から取り残された下町のボロアパートを転々としており、松井刑事は帆場がそこから高層ビルを見上げて考えていたことに漠然と思い当たります。そして、その帆場の思考が、旧約聖書を引用して語られている点もきわめて斬新であり、帆場が自らを神と位置づけ、コンピュータ言語を麻痺させるコンピュタウィルスを駆使して「バビロンプロジェクト」を「バベルの塔」のごとく崩壊させようとします。

無秩序で盲目的な開発は人間を破滅させる可能性を秘めているというのは、環境問題や食糧危機などのグローバルな社会問題が深刻化した今となっては常識ですが、永続的な景気拡大を信じている人も少なくなかったバブル期においては、それが「神をも恐れぬ行為」だということに気づいていた人がどれだけいたでしょうか。都市開発の「負」の側面に目を向けて、人間の行為に警鐘を鳴らそうとする本作のテーマ性は、20年前という時代を考えると類稀な想像力に基づいているとしか言いようがなく、20年を経た今こそ帆場の犯罪の動機づけがよく理解できるし、ようやく現実世界が本作の作品世界に追いついてきたといえるかもしれません。私は、今20年越しでようやく本作のテーマをはっきりと理解した想いでいます。

また、「悪いレイバーはいない、いるのはレイバーを悪用する人間である」というのは、シリーズを通じて描かれている主人公・泉野明のポリシーですが、本作で描かれている「レイバーの暴走」は、「傲慢な人間」に対するアンチテーゼであり、そのことは「ロボットの暴走=人間の奢り」という手塚アニメ以来のSFアニメのテーマ性を継承しているような気もしてきます。その意味では、本作は舞台を近未来として、より現実的な感覚を付与したに過ぎず、伝統的なSFアニメの延長にある作品と位置づけることもできそうです。結局、「先見性」という観点で言えば、手塚治虫先生には誰も勝てないのかもしれません。

総合評価 ★★★★★
 物語 ★★★★★
 配役 ★★★★
 演出 ★★★★★
 映像 ★★★★★
 音楽 ★★★★


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