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青空のゆくえ [映画レビュー]

青空のゆくえ [DVD]

[ DVD ]
青空のゆくえ

( メディアファクトリー / ASIN:B000CBLPJC )

 

 

 

『青空のゆくえ』
(2005年 ムービーアイ 102分)
監督:長澤雅彦 脚本:山村祐二、日向朝子 出演:中山卓也、森田彩華、黒川芽以、西原亜希
          Official / Wikipedia / allcinema          

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(C) 2005 「aozora-no-yukue」FILM VENTURER

本作は、「青春映画」であることは間違いありませんが、アメリカへ転校する少年をめぐる5人の女の子の想いを描くという切り口がとても斬新で面白いものでした。

アメリカに転校する高橋正樹(中山卓也)の「ひとつだけやり残したことがある」という発言がクラスに物議を呼ぶところから物語は始まります。そして好きな女の子の存在を明らかにすると、さらなる物議を呼びます。「やり残したこと」が明らかになるにつれて、彼の性格の繊細さが、周囲の女の子との関係の中で彼の性格の良さが描かれていきます。

本作の面白いところは、そんな高橋に好意を持つ女の子が5人もいることで、同じ好意でもそれぞれの想いの生成過程も性質も異なります。したがって、演出上は5人の女の子の性格や言動などの人物描写の差別化が重要になってきますが、それぞれの個性を魅力的に描写することに成功しています。差別化といってもあまり過剰な演出で個性を前に出しすぎると鼻につくものですが、そのあたりのバランス感覚も絶妙でした。

ドラマチックな出来事で進んでいく物語よりも、登場人物の心情を中心に進んでいく物語の方が脚本的にも演出的にも難しいと思いますが、5つの女の子の「物語」がそれぞれ丁寧に描かれています。幼馴染、初恋、友情、ライバル、共感、というように「好き」にもいろいろな形があるものです。

このうち「共感」に相当する市田尚子(西原亜希)を取り上げてみましょう。市田は、帰国子女で序盤はとっつきにくい存在として描かれていますが、我々も序盤は決して彼女に対して好感を持つことはありません。しかし、高橋とのメールのやり取りが明らかになると、次第にその人間味を増していきます。そして、高橋に対する「好意」という共通点の中で、鈴木貴子(悠城早矢)に自分の気持ちを吐露すると、彼女が封印していた「女の子らしさ」が全開になります。

注目すべきはここまで高橋と市田がからむシーンはなく、メールのやり取りをしているという状況説明だけで、この二人の関係が十分に理解できてしまいます。実際にこの二人が面と向かって会話したことはほとんどないように想像できてしまうのも面白いところです。終盤の送別会で初めて二人の会話が描かれますが、とりとめのないありきたりの会話がかえって二人のつながりを明らかにしています。また、このシーンで「先生に見つかったら各自逃げるよう」にと言われて、「私そういうの自信ないなぁ・・・」と漏らすところにも殻を破った彼女が垣間見えます。

それぞれの高橋との関係が丁寧に描写されていきますが、それでいてはっきりと核心に触れないところがこの物語をさわやかに見せています。そして、異なったアプローチで高橋への「好意」に行き着いた5人の気持ちが、等しく「青空のゆくえ」に向かっているというラストシーンは実に清々(すがすが)しいものでした。

それにしても、お芝居がうまい子をよく集めたものだと感心してしまいました。多部未華子ちゃんをはじめとして今となってはメジャーになっている子もいますが、4年前というとまだまだ俳優としての実力は未知数だったわけで、このキャスティングについては製作者サイドを褒めなければなりません。個人的には西原亜希ちゃんに最も注目していて、『ラスト・フレンズ』(フジテレビ)の陰険な性格の美容師役の後に、『ぼくの妹』(TBS)の明るくて善良な看護士役を見せられてしまうと、彼女の女優としての計り知れないポテンシャルを感じずにはいられません。

本作の配給元であるムービーアイ・エンタテインメントは、つい最近倒産して話題となりましたが、興行的には振るわなくても、複数の良作を送り出してきました。映画を作るために赤字を被った人がいるというのは複雑ですが、それでも本作のような良質の映画が残ったという事実は喜ぶべきものです。


参考:ムービーアイの主な製作・配給作品
 『東京マリーゴールド』
(2001年 市川準監督) ※製作のみ
 『HINOKIO』(2005年 秋山貴彦監督) ※製作のみ
 『夜のピクニック』(2006年 長澤雅彦監督) ※松竹と共同配給
 『夜の上海』(2007年 チャン・イーバイ監督) ※松竹と共同配給

 『純喫茶磯辺』(2008年 吉田恵輔監督)
洋画配給作品には、『ミリオンダラー・ベイビー』(2005年)、『告発のとき』(2008年)などがある。

総合評価 ★★
 物語 ★★★
 配役 ★★★
 演出 ★★★★
 映像 ★★★☆☆
 音楽 
★★★☆☆


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