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イキガミ [映画レビュー]

イキガミ [DVD]

[ DVD ]
イキガミ

( 東宝 / ASIN:B001PMNBRQ )

『イキガミ』
(2008年 東宝 133分)
監督:瀧本智行 脚本:八津弘幸、佐々木章光、瀧本智行 主演:松田翔太
          Official
 / Wikipedia  / allcinema           

この物語の世界観が原作でどのように描かれているか知りませんが、少なくとも本作では「現実の世界の延長線上にある世界」が描かれていたように思います。つまり、我々が生きている世界との違いは「国家繁栄維持法」という法律が存在するという一点であり、渋谷などの現実の東京の繁華街が頻繁に登場することからも、現実世界との繋がりが存在することは明白で、それは製作者の意図するところだったと思います。

しかし、「国家繁栄維持法」は現実の世界に即して考えるにはあまりにも荒唐無稽であり、「国家繁栄維持法」と「現実の東京の街及びそこに生きる人々」が映像の中に同時に存在することに違和感を覚えてしまいました。本作の映像化にあたっては、この世界を「現実世界の完全な並行世界」として、現実の世界とハッキリと切り離して描いた方が良かったような気がします。そのためにはCGやVFXを多用する必要が出てきますが、それもちょっと違うような気がして、結局本作は実写表現よりもアニメーションで表現するのが最適だったんじゃないかと思ったりしました。

さて、本編のレビューということになりますと、極めて「惜しい」表現が散見されました。前述のように本作が現実世界をベースにしている中で、唯一現実離れした特異な世界観を表現していたのが主人公が所属する厚生保健省でした。

冒頭の入省式のシーンのホールや会議室などはライティングを抑えて、国家繁栄維持法が持つ暗の部分を司る機関としての厳格さがうまく表現されていました。また、オフィスはデスクが斜めに配置され、デスク上にはパソコンが置かれているだけという近未来的なものでした。

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(C) 2008 間瀬元朗 / 映画「イキガミ」製作委員会

しかし、そんな先進的なオフィスでやり取りされる報告書がA4の紙にホチキス止めだったりしては台無しです。デスク上にはパソコンしか置かないという演出をしておきながら「紙」って!?ケースに入ったロムディスクか何かのやり取りでも十分成立するし、ずっと自然だったと思います。もっと言うと、死亡予告書はキラキラで作り込んだものでしたが、それがこれまた紙の説明書と簡易クリップで留まってるのって、人の死を取り扱う書類にしては軽々しくないですか?細かい部分ですが、作り手の浅薄さや手抜きを象徴する表現として捉えられても仕方ありません。

このことは、製作者が現実離れした世界を現実の世界からしか捉えられなかった結果、つまり想像力の欠如がなせる業です。これだけ見るものに想像力を要求するテーマを想像力がない人が撮っちゃいけません。

また、死を宣告された人間が最後の24時間をどう生きるかというテーマは、泣かせるには十分なテーマでしたが、どうも気持ちが乗り切らないうちに終わってしまいました。一番グッときたのは序盤の「みちしるべ」を熱唱する若者のシーンで、エピソードで言えば最後の角膜移植する兄妹の話の方がよくできてるのに、泣かせで言えば尻つぼみだったのがなんとも残念です。

兄妹が手術前に最後の会話をするシーンは、もう一個いいセリフがあれば涙が落ちる、というところでしたが、「がんばれよ」というありきたりなセリフにガッカリでした。さらに、妹が死んだ兄からのプレゼントを受け取るシーンも、兄からのメッセージが添えられた鏡の後にもうひとつのプレゼントがあるという二重の仕掛けは素晴らしいと思いますが、カーテンをめくったカットの後にすぐに桜のカットでは盛り上がりきれません。

例えばですが、ガラス越しに感極まった少女の表情とガラスに反射する桜をオーバーラップさせたようなタメのカットが挿入されていれば全然違ったものになったと思います。それってそんなに目新しい手法ではなくて、一種のセオリーだと思います。作り手がセオリー通りにやってくれれば、見る側もセオリー通りに泣くのに、まったくもって「惜しい」ところです。

総合評価 ★★☆☆☆
 物語 ★★★☆☆
 配役 ★★★☆☆
 演出 ☆☆☆☆
 映像 ☆☆☆☆
 音楽 
★★★☆☆

※このレビューは、私がYahoo!映画のユーザーレビューに投稿したものをより多くの人にご覧頂けるように加筆・修正して転載したものです


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