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(5)空飛ぶ広報室 [ドラマレビュー]

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『 空飛ぶ広報室 』
第5回
( 2013年 TBS 公式サイト

演出・プロデュース:土井裕泰 脚本:野木亜紀子 出演:新垣結衣、綾野剛、柴田恭兵

本作のラブストーリーとしての側面について、その基本的構造はすでに言及しましたし、この方面はほぼ
私の想像通りの展開になってきていますので、今回は目先を変えて本作の演出について触れておきたいと思います。

TBSの土井裕泰監督は、90年代以降、TBSの主要なヒットドラマを多数手がけてきたベテラン演出家で、TBS製作の
複数の映画作品でもメガホンを取っており、テレビドラマのディレクターとしては超一流と言っても差し支えないと思います。
土井監督の演出については、映画レビューでも何度か掘り下げたことがあるので、そちらも参考にしてください。
本作の演出については、山室さんの回はちょっと・・・な感もありましたが、土井監督の演出回はさすがの安定感で、
観ていて素直に楽しいですね。ここまででは第1回と第2回のラストシーンの演出が特に素晴らしかったです。
ただし、それらのシーンの仕上がりは脚本の力も大きいので、今回は純粋に土井監督の演出力が垣間見られたシーンを
紹介したいと思います。まずは短いシーンですが基本的なテクニックとして感心したシーンをひとつ取り上げます。

今回の序盤、前回のおさらいとして、柚木三佐(水野美紀)と槙三佐(高橋努)の気まづくなった関係が描かれており、
そのまま柚木と槙の回想シーンへと突入していきます。別の場所にいながら二人とも防衛大での出来事を振り返ります。
洗面所で鏡を見た柚木の回想で始まった前回のシーンは、槙の回想として戻ってきます。

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もの思いにふける槙の表情とその後ろでそんな槙のことを気にかける空井の表情をひとつの画面で捉えます。
そしてこれが次のカットでは逆位置(ドンデン)のショットになって、
今度は前に向き直った空井の心配そうな表情と槙の背中をひとつの画面で捉えます。
この時点ではまだ空井は稲葉リカ(新垣結衣)に相談しようとまでは考えていないかもしれませんが、
柚木と槙の関係をどうにかしたいと考えているのは間違いなく、次のシーンでのリカとの電話につながっていきます。

私は演出的にそれなりの意味を持っているのがこのカット変わりだと考えています。
つまり、ここを境にストーリー上の描写は、柚木と槙の関係からリカと空井の関係に転換していて、
位置が正反対になっているショットの切り替えによって、次の展開を視聴者に予感させることに成功していると思うのです。
何気ないシーンだし、私の感覚的な評価でもあるのですが、こういう基本的な演出セオリーは美しいなと思ってしまいます。

次に、このシーンからつながっているリカと空井が電話で会話をするシーンは、
演出上のテクニックという観点からぜひ取り上げておきたいと思ったシーンです。
このシーンは、主人公の心情を手の込んだカメラワークとカット割、編集によって巧みに映し出しており、
映画では成立しない、テレビドラマならではという映像演出の醍醐味が味わえるシーンに仕上がっています。
過去にも何度か試みておりますが、本編のキャプチャー画像を使ってこのシーンのカット割を解析してみることにします。

数字はこのシーンのカット番号で、アルファベットは同一カット内で私が任意にキャプチャーした画を区別する記号です。
同じカットの絵は同じ色になるようにセルの色を指定してあります。ただし、空井のカットは便宜上、すべて同一色です。
色が変わったところがカット変わりとお考えください。<>内はカメラワーク、台詞は斜字にしてあります。
ブラウザはIE推奨です。IE以外のブラウザだとレイアウトが崩れるかもしれません。PCで閲覧してください。

携帯電話が着信し、空井の名前を確認したリカは、人目を避けるように部屋の隅にやってきます。

 1-a<Dolly In>
 2013051701.jpg
 

携帯電話を持ったリカがフレームイン。
カットの始まりから、カメラはリカの表情に近づきつつ、
あおりから目線の高さに移動していきます。

「はい、稲葉です」

 1-b<Dolly In>
 2013051702.jpg
 

引き続きドリーインです。

『空井です。お疲れ様です』 

「どうしました?」

 2
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「あの、お願いがありまして」

 1-c<Dolly In>
 2013051704.jpg
 

引き続きドリーインです。

「はい」

 3
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「付き合ってもらえませんか?」

 4
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空井の言葉に一瞬ドキッとするリカの表情を
前のカットとは別角度からのタイトなショットで捉えます。

「・・・」

『稲葉さん、聞こえてます?』

 1-d<Dolly Out>
 2013051707.jpg
 

再びC1に戻して、今度は反転、ドリーバックです。 

「あっ・・・ああ、いつもの」

 1-e<Dolly Out>
 2013051708.jpg
 

引き続きドリーバック。カメラは元の位置へ。

「空井さん、話す順番おかしいから」

 5
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「順番?」

 6
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「仕事の話ですよね。何に付き合えば?」 

 7-a
 2013051711.jpg
 

背中のショットからドンデン。

「仕事じゃなくて、プライベートな話なんです」

 8-a
 2013051712.jpg
 

こちらもドンデン、目線の高さ、ほぼ正面のショット。 

「プライベート?」

 7-b
 2013051713.jpg
 

「はい」

 8-b<Dolly Out & Zoom In>
 2013051714.jpg
 

C8にカットが戻ったところから、
ドリーズームというカメラテクニックが始まります。
カメラを被写体から遠ざけながら、
レンズでは被写体に近づいていく技術です。

「あ、あのそれ、どのプライベートですかね?
 自衛隊用語にあるんですかね、別の意味のプライベートが・・・」

 8-c<Dolly Out & Zoom In → Fix> → Title
 2013051715.jpg
 

引き続きドリーズーム。
リカの肩サイズのショットからフェイスショットへ。
カメラの動きが止まったところで、

『はい?』 

「はい・・・?」

ここでタイトルインとなります。


このシーンは本当に上手ですねぇ。このシーンの役割は物語の端緒であると同時に、
もうすでに特別な存在となっている空井からの電話と空井の言葉に対するリカの反応を見せることにあり、
リカの心理的動揺と安堵、さらに動揺、という気持ちの揺れを複数のカメラワークとテクニックによって見事に表現しています。

ご覧のとおり、C1のカメラワークは、ドリーインでリカの動揺、ドリーバックでリカの安堵を表現しているわけです。
しかもC4ではリカの心情的転換点を見せており、ここを基点にC1のカメラの動きは反転、同時にリカの気持ちも転換します。
C5、C6で二人の背中のショットを見せることで、いったん仕切りなおし。そしてもう一度やりますよ。
C8で空井の「プライベート」という言葉に再び動揺の色を浮かべるリカの表情を捉えます。
C7の空井に切り返して、再びC8に戻ってくるとカメラは動き出し、動揺するリカの表情を効果的に捉えるのです。
空井のカットも全部角度を変えて撮っており、大変な手間とアイデアが詰まった素晴らしいシーンに仕上がっていると思います。

さて、前回と当回のストーリーは、柚木三佐と槙三佐のエピソードを中心に展開していますが、
その合間を縫って、リカと空井の関係をめぐっても一進一退の攻防がありました。
大雑把に言って、リカと藤枝(桐山漣)の関係に触れて空井の気持ちが「一進一退」したのが前回であり、
これに対して今回は、終盤のリカの行動と結果が象徴するように、リカの気持ちが「一進一退」するわけです。

空井との関係において、リカの気持ちの高まりと落ち込みを表現したのが今回のラストであり、
ここでも土井演出が炸裂していました。これはテクニックとは別次元の演出であり、私はちょっと感動すらしてしまいました。
空井と共に夜明けの空を見つめたリカが「プライベートな気持ちの問題」を抱えて出勤すると、
いつもと違うリカの表情見た上司の阿久津(生瀬勝久)は、リカにこんなアドバイスをします。

 「気持ちの問題なんてのは、とっとと決着つければいいだろ。
 そういうのは長引けば長引くほど熟成して・・・腐るぞ
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阿久津がフレームアウトすると、ひとりになったリカの背景のモニターに生鮮食品を映したニュース映像が流れています。
これは阿久津の「腐るぞ」という台詞を生かし、さらに空井に対するリカのフレッシュな気持ちを重ねた映像と考えられます。
つまり、「腐りやすい生もの」の映像が、目に見えないリカの脳内を間接的に表現する演出となっているわけです。

前回のレビューでも少し触れたように、リカのこれまでの言動を考慮すると、
自分の正直な気持ちを簡単に口にできるタイプの人間ではなく、このあとリカが空井を誘うに至るまでには、
それなりに説得力を持たせる必要があり、それが阿久津のアドバイスであり、「腐るぞ」という決め台詞だったと考えられます。
私は土井監督がここにさらに説得力を与えるために考え出したのがこの背景の映像だったのではないかと考えています。

私はこのカットに込められた監督の意図は以上のようなもので間違いないと確信しているのですが、
皆様はこのシーンを見てどのようにお感じになられたでしょうか。キャプチャー画像だと伝わりづらいので、
可能ならばもう一度このシーンをご覧になってみてください。生鮮食品=気持ちが高ぶったリカのフレッシュな脳内です。

今回は本作の演出についてかなり突っ込んだ話になってしまいましたが、こういうドラマの見方も一興ではないでしょうか。
私は作り手や俳優の意図や遊び心、アイデアやテクニックをつぶさに感じられる作品こそが良作だと考えています。

関連記事 : 2013年第2四半期のドラマ (2013-06-30)
(4)空飛ぶ広報室 (2013-05-10)
(3)空飛ぶ広報室 (2013-05-05)
(2)空飛ぶ広報室 (2013-04-24)
(1)空飛ぶ広報室 (2013-04-16)


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