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(4)空飛ぶ広報室 [ドラマレビュー]

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『 空飛ぶ広報室 』
第4回
( 2013年 TBS 公式サイト

演出:山室大輔 脚本:野木亜紀子 出演:新垣結衣、綾野剛、柴田恭兵

防衛大学校の先輩と後輩という間柄であること判明した柚木三佐(水野美紀)と槙三佐(高橋努)の関係描写が
なかなか奥行きがあって感心しているのですが、こちらは続きものでもあるので、可能ならば次回に言及するとして、
前回のレビューに引き続いて今回も、稲葉リカ(新垣結衣)と空井大祐(綾野剛)の恋模様を取り上げておきます。

前回のレビューで二人の間には「立場という壁」が存在していて、
これがラブストーリーにおいて重要な「二人の距離感」の表現に大きく貢献していると述べました。
改めて申し上げますと、本作のラブストーリーとしてのゴール地点は二人が恋人同士になる(=決定事項)ことであり、
我々視聴者としては、そこに至るまでの付かず離れずのもどかしい二人の距離感を楽しむべきだと考えています。
つまり二人の「立場」と「気持ち」という正反対のベクトルの引っ張り合いこそが本作恋愛パート最大の魅力となります。
今回も序盤から早速、この二つのベクトルを介在させたシーンと台詞が登場しました。

 

「一緒に防衛大に行きませんか?」
「・・・海も近いし、いい所らしいですよ・・・」

「行こうかな・・・」

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この空井の台詞は、普通のシチュエーションならリカをデートに誘っていると言ってよいでしょう。
実際、あの空井のモジモジ感というのは男が女をデートに誘うときのものだし、その後の言葉も「押し」になっています。
でも、「防衛大」なんです。仕事なんです。ここでもまた気持ちが立場の中に介在しているわけです。まだ立場が上位です。
ただし、オクテと思われる空井のことですから、気持ちというよりも立場があればこそ誘えたと考えることもできますね。

一方で、リカの返答、「行こうかな・・・」という台詞もどこか複雑な響きを持っています。
空井とはちょっと性質は異なりますが、同じぐらいオクテのリカのことですから、
現状の立場がなかったら、この言葉は出てこなかった可能性があります。
リカは男女のことになると、ついつい気持ちとは裏腹の言葉が口をついてしまうタイプでしょう。
立場をエクスキューズにできたからこそ、素直に言えた言葉ではないでしょうか。
つまり、二人の立場が二人の距離を近づけたり遠ざけたりするという、絶妙のバランスを演出しているわけですな。

そして、この返事を聞いて素直に歓喜する空井の姿はとてもいとおしいですねぇ。
そんな空井を見て苦笑いするリカの表情もそれはそれで彼女らしい素直なリアクションということになるでしょう。
やっぱりここでも二人の関係はギブアンドテイクです。気持ちは行って来い。どちらが先行することもありません。
このシーンの新垣、綾野両名の芝居にはいくつもの複雑な感情が含まれていてレベルが高いですよ。

さて、本作の恋愛パートが魅力的な理由をもうひとつ提示しておきます。
まだまだ振り返らなければならない段階ではありませんが、二人が互いに好意を抱いた瞬間とは、
互いが抱えた過去の傷を知り、互いの境遇に共通点を見出し、将来への目標を共有した瞬間だったということを確認して下さい。
二人の関係の基盤は、どこまでいってもこれなのです。二人の関係の発端は、一目惚れでも合コンでもないし、
ましてや二人とも恋人を欲していたわけでもありません。単純に好きだから一緒にいたいというよりも、
将来への目標を共有し、次のステージに上がるために互いの存在を必要としているからこそ一緒にいたいと願うのです。
その先に初めて恋愛感情が芽生えるであって、二人の関係の基盤なくして、二人の恋は始まりません。
逆に言えば、基盤さえあれば、たとえ恋愛感情を処理できなくとも折り合いをつけてしまうのが二人なのかもしれません。

そのような二人の共通の価値観が込められた台詞がこれです。

 「男と女が男と女にしかなれない世界なんてつまらない」

これは女性であるがゆえに理不尽な仕打ちを受けたリカが、男と女を超えた対等な人間関係を目指していくという宣言です。
藤枝(桐山漣)は、これに対して「男と女だから面白い」と反論しますが、リカはその意味をまったく理解できません。
つまり、リカは空井に好意を持っていても、それを単純な男と女の関係では捉えていないということです。
一方で、空井もまたラストシーンでまったく同じ言葉を口にし、これを聞いたリカは思わず表情をほころばせるわけですが、
空井の場合は、リカを巡る情報に接して、リカに対する好意をこの論法で処理した可能性があります。
空井は必ずしも男と女の関係である必要のない二人の関係を戦闘機編隊の最小単位「エレメント」に喩えてはしゃぐのです。

前段で取り上げたシーンにおける二人のリアクションを見てわかるように二人は相思相愛であることは間違いないのです。
ただし、男と女から始まっていなければ、(今のところは)男と女がゴールでもない。
藤枝が言うようにこれこそ面白くないという意見もあるでしょう。でも、なんか素敵じゃないですか?こういう関係。
価値観を共有し、相手の存在を意識しながら、エレメントのごとく共通の目標を完遂する。
ADの女の子からもたらされたリカをめぐる情報は、空井の気持ちを一歩後退させるには十分すぎるものでしたが、
このラストシーンで二人の気持ちは再び同じ位置に戻ってきました。エレメントという比喩は実に見事ですね。

今回、二人は共にいわゆる「男と女」であることを否定したわけですから、最終的なゴールは遠ざかったような気もします。
でも二人の気持ちは確実に近づいているし、ある部分では重なってもいる。
ここにも逆説的な男女の距離感の表現が織り込まれています。
しかし、本作がラブストーリーであるとすれば、二人の関係を「男と女」ではない場所に着地させるわけにはいきません。
今後は、二人に「男と女」を意識させるエピソードが登場するものと考えられます。
目先のことで言えば、柚木三佐と槙三佐の関係が二人に大きな刺激を与えるということは想像に難くありません。
意外にこの「男と女」問題は次回には早々に決着するかもしれませんね。

関連記事 : 2013年第2四半期のドラマ (2013-06-30)
(5)空飛ぶ広報室 (2013-05-17)
(3)空飛ぶ広報室 (2013-05-05)
(2)空飛ぶ広報室 (2013-04-24)
(1)空飛ぶ広報室 (2013-04-16)


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