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専業主婦探偵~私はシャドウ [ドラマレビュー]

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『 専業主婦探偵~私はシャドウ 』
( 2011年 TBS 全9回 )
演出:金子文紀、山室大輔、渡瀬暁彦 脚本:中園ミホ、山岡真介、福間正浩 出演:深田恭子、藤木直人、桐谷健太

とても後味のいい最終回でした。しっかりとしたまとまりが感じられる良質の脚本だったと思います。
掃除婦に変装して会社に潜入している芹菜(深田恭子)に文くん(藤木直人)が気が付かないのはありえないだろ、
という突っ込みは、マンガ原作のドラマに対しては禁句だと考えていたので、もちろんスルーしてきたわけですが、
そんなものは私の浅はかな配慮だったということを素直に認めなければなりません。
文くんが常に自分のそばに寄り添ってくれていた芹菜の存在に気が付かない理由は最初からちゃんと存在しており、
私はそこに隠された深い意味を読み取る作業を最初から放棄してしまっていたことを反省しています。

芹菜は探偵という仕事を通して、今まで知らなかった夫の姿を目の当たりにして、
時に惚れ直し、時に絶望しますが、自分が夫にとってどういう存在でなければならないのか、真摯に模索してきました。
一方で文くんは最終回に至って初めて、芹菜がいつの間にか強い女性に成長していることに気が付きます。
終盤、会議室に臆することなく入ってきて、窮地の自分を助けてくれる山田さんが不意に芹菜に見えたとき、
文くんは自分が芹菜の夫として、いかに不出来だったのかを思い知るのです。
芹菜の成長物語としての側面はわかりやすすぎるほど丁寧に描かれてきましたが、
最終的に文くんの欠点もあぶりだされ、ここに至って彼の成長もしっかりと描かれたわけです。

結局このドラマは、夫婦というもののあり方、あるいは夫婦が互いを思う気持ちはどうあるべきか、という普遍的だが
それゆえに普段とりたてて省みることもない日常的なテーマにスポットライトを当てた作品だったと言えると思います。
最後にお互いのありのままの姿を知った芹菜と文くんが隅田川テラスを歩くシーンで、
芹菜が探偵として文くんが想像も付かないような経験をしてきたことを話そうとしたとき、
それをさえぎって「知りたくない」と言った文くんの姿もまた夫婦のあり方のひとつの真理だと思います。
夫婦がお互いのことを知ろうとすることはもちろん重要だけど、知らなくてもいいことだってたくさんある・・・
私はこのシーンを観て、このドラマは意図したテーマを完璧に表現しきったなと感じました。

さて、このドラマを語る上で、この男に触れないわけにはいきません。
本作が上記のようなテーマ表現を意図している以上、
陣内(桐谷健太)の芹菜への想いが報われる道理は最初からありえなかったわけですが、
それにしても最終回における陣内の健気とも言える奔走振りには同情の念を禁じえませんでした。

前回のラストで、芹菜を探していた陣内が文くんに遅れをとった時点で彼の敗北は決しており、
そのまま姿を消してもおかしくないところですが、その後の彼の行動は「無償の愛」以外の何ものでもありません。
そして極めつけですが、この過程で陣内は、文くんが芹菜にふさわしい男であることを認めざるを得なくなるのです。
陣内は拘束された文くんを助けたとき、彼がルックスだけじゃない、正義感の強い、信念を持った男だということを知り、
これ以降は、芹菜のためではなく、この夫婦のために重要書類を手に入れようと奔走するのです。
最終回の陣内の行動は、健気で、無欲で、まっすぐで、本当に涙ものです、、、

陣内がこの間どんな気持ちでこの夫婦のために奔走していたのかが明らかになるのが、すべてが落着したあと、
芹菜が陣内の探偵事務所を訪れたシーンです。再び探偵として働きたいという芹菜の願いを断った陣内が、
あの2ショット写真を取り出して、はさみで半分に切ったところは実に切なかった。
思い出としてあの写真を大事に持っておくという選択肢もなかったわけではないと思いますが、
あえて芹菜の前であのような行為に出たところに、芹菜を忘れようとする陣内の強い決意が現れています。
つまり最終回における陣内のすべての行動は、芹菜に対する自らの想いを断ち切るためのものだったと考えられるのです。
芹菜と文くんの絆が深まれば自分が入り込む余地なんてなくなる・・・思えば陣内はそういうモノの考え方をする人間でした。

私はこの時点で陣内に同情しながらも、こういうヤツも世の中にはたくさんいるよな、と納得しかけていたのですが、
私が冒頭で「後味がいい」と書いたのは、この脚本がそんな陣内をしっかりとフォローしてくれたところにあります。
クリスマスをひとり寂しく過ごすであろう陣内のためにみんながサプライズパーティを用意してくれているというラストシーンは、
このドラマを締めくくるのにふさわしい雰囲気だったし、陣内の一つ一つのコミカルなリアクションに安堵する思いがありました。
実はこのドラマを通じて陣内が失ったものは何ひとつなくて、このラストシーンには彼が「得たもの」が集約されているのです。
私は本作中もっとも感情移入していたキャラクターが陣内だったことにこの時初めて気が付いたのでした。

(了)

  ▼▼▼ 『専業主婦探偵~私はシャドウ』 Twitterまとめ ▼▼▼  
  • e97h0017e97h0017TBS『専業主婦探偵~私はシャドウ』。気楽に観られるポップなドラマ。それでいて奥行きを感じさせる何かがある。世間知らずで非常識の主婦が探偵という副業の中で世の中の仕組みを知り、パートナーとともに生きていくことの真の意味に辿り着くまでの物語、と思われる。主人公の夫と父の関係に注目。10/27 19:00
  • e97h0017e97h0017あのティーカッププードル、やっぱりメロンパンナちゃんだぜ。そういえば小日向さんが卓球少年だったっていうのも思い出した。それと探偵事務所が入っているビル、どこかで見たことがあると思ったら霊岸橋の袂だ。結局2回観てしまった私・・・遠憲さんも出るらしいし、けっこうしっかりしたドラマだ。10/27 20:26
  • e97h0017e97h0017TBS『専業主婦探偵~私はシャドウ』第2話。早くもトーンダウンの印象。第1話は単体でのストーリー構成が素晴らしかったが、見るからにクオリティが落ちた。中園ミホさんの単独脚本というわけではないところがポイントかもしれない。主人公とチャンカワイが共感するくだりは説明がクドすぎだろう。 11/01 19:34
  • e97h0017e97h0017『専業主婦探偵~私はシャドウ』第3話。今回のエピソードは中園ミホさんの綿密な取材の賜物といったところか。夫婦といえども侵してはならない領域というものがあって時としてそれが疑心暗鬼を生む。今後も些細だがリアルな夫婦生活の問題をうまく盛り込んで、主人公の成長物語を楽しく見せて欲しい。11/07 20:05
  • e97h0017e97h0017『専業主婦探偵~私はシャドウ』第6話。実は最も複雑で面倒な精神構造をしているのが陣内である。前回の元カノのエピソードに代表されるように本作は陣内の心情描写にもかなりの時間を割いていて、我々は芹菜を見守る彼の視点を通じて彼女を魅力を知る。桐谷健太君のナイーブな芝居を初めて観ている。11/27 22:56
  • e97h0017e97h0017『専業主婦探偵~私はシャドウ』第7話。主人公の魅力を引き出していくということにおいて、大変優れた脚本だと思う。今回で言えば、芹菜が夫に対する不信を解消していく中で丈二さんの奥さんの気持ちを知り、彼女らしいやり方で彼の背中を押す、までがそのまま彼女の成長を表現していると考えられる。12/04 23:57
  • e97h0017e97h0017第1話を思い出して欲しい。替え玉が頼めない、右折ができないまま主婦になってしまった世間知らずの女の子が、探偵として社会と関わる中で周囲の人の感情の機微を読み取ることができる魅力的な女性に変身している。陣内が芹菜に惹かれていくのは必然と言ってもいい流れがしっかりと出来上がっている。12/04 23:57
  • e97h0017e97h0017丈二さんの奥さんがRioだった(笑)。12/04 23:58
  • e97h0017e97h0017『専業主婦探偵~私はシャドウ』第8話。陣内は完全にふられた形か。最終回に向けてもう少しこの方面を膨らませて欲しかったが、最終回が第1話の冒頭に繋がっていくのが規定路線なら仕方がない。そういえばトラックの故障を修理してたっけ。あの時は夢オチぐらいに考えていたが、どうやら現実らしい。12/11 00:28

 


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