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(6)鈴木先生 [ドラマレビュー]

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『 鈴木先生 』
第6回
( 2011年 テレビ東京=アスミック・エース 公式サイト
監督:滝本憲吾 脚本:岩下悠子 出演:長谷川博己、臼田あさ美、土屋太鳳、田畑智子、富田靖子、でんでん

本作の視聴率が振るわない理由は何でしょうか。性教育をここまで真正面から取り上げるようなドラマはなかなか家族揃って観ることはできないから、ビデオリサーチが広く発表している世帯視聴率には反映されにくいということもあるかもしれません。それに加えて私は、このドラマの「理屈っぽさ」こそが視聴者をピンポイントに選別してしまっているのではないかと考えています。これまでのレビューでも指摘してきましたが、本作は「大人のための学園ドラマ」なのです。このドラマが描いているエピソードはほぼ大人向けであり、それぞれの事象を深く思考することを大人に対して要求していると考えられます。つまり、学園ドラマでありながら、中高生を端から視聴対象から除外しているほか、大人の中でも「テレビドラマを観て考える」という習慣がない人にとっては、ただの理屈っぽいドラマにしか見えないのかもしれません。

今回描かれた鈴木先生(長谷川博己)独自の恋愛論および性教育についても、あくまでも大人に向けたメッセージが込められているのであって、現実的には中学生に対する性指導としては成立し難いものだと思います。鈴木先生が竹地母子の前で語ったことは、鈴木先生自身の恋愛に対するポリシーに基づいているだけあって、理路整然とした説得力のあるもので、竹地の母親も竹地自身も納得せざるを得ないものだったと思います。ただし、親の立場からすれば、これは「詭弁」であり「理想論」であって、それをもって直ちに問題が解決するものではないし、実際、竹地自身も「我慢できるか自信がない」と正直に吐露しており、理屈は理解できても中学生が実行するのは大変困難だと思われます。

私は、鈴木先生が竹地宅で語ったことは、竹地自身に対してというよりも、その隣にいる母親に対して語られたもののように思えてなりません。鈴木先生が言いたいことは、今度のことは避妊について教えれば解決する問題ではないということです。重要なのは「覚悟」であって、それを子供に教えるのは本来学校の役割ではなく、親の責務だということを暗に言いたかったのではないでしょうか。性教育は学校が行うものだという先入観を大人、特に人の親は捨て去らなければなりません。学校ができるのは足子先生(富田靖子)が言うような「保健体育的な性教育」でしかないのです。人を愛するということがどういうことなのか、両親が自らを手本として子供に説く、これほど説得力のある性教育はないはずです。鈴木先生は恋人の秦麻美(臼田あさ美)に対して自分の恋愛感を臆することなく語っていましたが、私はこういう会話を真剣にできる恋人同士をうらやましく思います。こういう関係性は親子間でも普通にあってしかるべきだと思います。 

さて、それでは鈴木先生は今回の事件を巡る指導を通じて、生徒たちをどこへ導こうとしているのでしょうか。今回のエピソードは性教育というテーマにインパクトがありすぎて、見逃されがちかもしれませんが、私は「鈴木式教育メソッド」の全貌を見た気がしています。実は今回の鈴木先生の対処法は、これまでのエピソードで描かれてきたものと大差はなく、要は「筋肉は痛めつけることと休息を繰り返すことで鍛えられる」ということなのです。これは第4話で暴走してしまった竹地に対して「止めないことが、救い」という論法で鈴木先生が用いた比喩です。自分が知らなかった他者の感情を思い知ることは時として「痛み」を伴います。しかし、それを自分の中でしっかりと咀嚼できたとき人間はどれだけ成長できることでしょうか。

今回のラストシーンでも、鈴木先生は山際と河辺の感情のぶつけ合いを止めることはしませんでした。そして、二人は今まで隠していた正直な感情を爆発させて互いを傷つけあいました。さらに、その感情のぶつけ合いを傍で見ていた生徒たちもまたそれぞれの心に傷を負ったのです。

 「やめろよ、河辺!そんなのみんなの前で言うことじゃないよ!」
「先生、もう止めさせてよ!」
いや、続けろ山際

感情の暴走をあえて続けること、止めないことがより深い学びにつながる、これこそが「鈴木式教育メソッド」なのです。前半で山際が自分の感情をコントロールできずに暴力に訴えてしまったときも、鈴木先生はこれを積極的には止めず、あえて自分が殴られるという選択をしています。鈴木先生はその上で、山際に自分が置かれた状況を冷静に把握させ、「理不尽な体験を貴重な学びに昇華させるんだ」と説いて、彼の精神的成長を促しました。つまり、感情を暴走させてしまったときにこそ見えてくるものが必ずあって、それは自分の事であると同時に他者の事であり、「深くて貴重な学び」とは常にここから始まるものなのです。

 「間違ってはいない・・・このやり方で間違ってはいない・・・
 あとはオレが教師としての全能力を傾けて、彼ら全員を導くことさえできれば・・・」

ここで登場した足子先生が何を巻き起こすのかについては来週が本当に楽しみなのですが、少なくとも足子先生は問題の本質を「性教育」に引き戻してしまったようです。私は、事ここに至ってはもはや「性教育」などはどうでもいいことになっていたと思っていて、生徒たちは自分および他者の感情をどのように咀嚼して、どのように人間的成長につなげていくかというレベルに到達しようとしていたと考えています。そう考えると、足子先生(=一般的な教師像)が教えようとしていることがいかに瑣末なことかということが浮き彫りになってくるような気がします。

鈴木先生は、前回をもって小川蘇美(土屋太鳳)に対する感情にきっぱりと折り合いをつけたので、これまで爆笑させてもらっていた鈴木先生の夢や妄想シーンが完全に失われてしまったのは残念ではありますが、その分、シリアスさを増して今回はこれまでとはまるで別のドラマのような印象です。私は、今後は「金八先生」の第2シリーズ級の本気モードに突入していくような予感を覚えています。このドラマの作り手が目指しているものは、我々が想像するよりも遥かに高みにあるような気がしてなりません。

関連記事 : (10)鈴木先生 (2011-06-30)
(9)鈴木先生 (2011-06-24)
(8)鈴木先生 (2011-06-19)
(7)鈴木先生 (2011-06-10)
(5)鈴木先生 (2011-05-26)
(4)鈴木先生 (2011-05-19)
(3)鈴木先生 (2011-05-13)
(2)鈴木先生 (2011-05-06)
(1)鈴木先生 (2011-04-29)

<参考 : 緋桜山中2年A組 人物関係図>
http://www.tv-tokyo.co.jp/suzukisensei/special/book/book_img03.html 

<参考 : ネット局>
 ・ テレビ東京(関東広域圏)
 ・ テレビ北海道(北海道)
 ・ テレビ愛知(愛知県)
 ・ テレビ大阪(大阪府)
 ・ テレビせとうち(岡山県、香川県)
 ・ TVQ九州放送(福岡県)
 ・ 岐阜放送(岐阜県)
以上が同時ネット。以下は放送日時が異なる。
 ・ テレビ和歌山(和歌山県)※13日遅れ
 ・ テレビ熊本(熊本県)※15日遅れ
 ・ 新潟テレビ21(新潟県)※40日遅れ
http://www.tv-tokyo.co.jp/suzukisensei/onair/index.html


タグ:鈴木先生
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コメント 2

めい

ジャニスカさん、レビュー本当に楽しみに読ませていただいています。
いつも漠然としたものが、ジャニスカさんのレビューを読ませていただくと、整理できて、うれしいです。
鈴木先生のドラマは、自分を振り返らせてくれます。
鈴木先生の性に対する考えも、心の成長についての考えも大切に感じます。
こうした考えが支えになって、また頑張ろうって思えます。

ドラマ観て、自分で感じて考えて、ジャニスカさんのレビュー読んで、また感じて考える、です。有難いです。
by めい (2011-06-05 10:19) 

ジャニスカ

めいさん、こんにちは~。
いつも私の文章を読んでいただきありがとうございます(^^)。
今回は私も今までになく濃密に考えました。
鈴木先生が竹地宅で語ったことには本当に圧倒されてしまいました。
あそこまで性や恋愛に対して確固たるポリシーを持っている人間がこの世の中にどれだけいるでしょうか。
鈴木先生の教師として、人としての信念や志に感心しているのはもちろんですが、
その語り口が実にスマートで、ほれぼれしてしまいます。
自分も居住まいを正さねばと思わされますね、、、
今週もこのドラマを観て一生懸命考えましょう!

by ジャニスカ (2011-06-06 18:11) 

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