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(8)月の恋人 ~Moon Lovers~ [ドラマレビュー]

『月の恋人 ~Moon Lovers~』
最終回

(2010年 フジテレビ 全8回)
演出:西谷弘、石井祐介 脚本:浅野妙子 出演:木村拓哉、篠原涼子、リン・チーリン、松田翔太、北川景子
          Official Wikipedia / TV Drama DB          

最終回の視聴率は16.2%でした。

このドラマを総括すれば、ストーリー上もドラマ製作上も
とてもじゃありませんが、スマートな出来だったとは言えないのは間違いのないところだと思います。
ストーリーについてはこれまでも再三触れてきているし、
結末についても私が考えていたものと大差はありませんでしたので、
今日は、このドラマの製作手法について私の想像に基づいて言及してみたいと思います。

以前もこのドラマは、キャスティングありきという
フジテレビの伝統的なドラマ製作手法に基づいて作られているということに触れましたが、
実際のところこのドラマは、ドラマ製作の根幹を成す「本作り」という部分においては、
これまでにない手法を取り入れているのではないかと想像しています。

ドラマのために原作小説が書き下ろされたというこのドラマのストーリー作りには、
原作者と脚本担当者のほかにも複数の人材が参加していることには以前にも触れました。
そのような「本作り」が異例であることは間違いありませんが、
これだけの人材が寄って集って作ったストーリーがこんな有様では、
そのような製作手法は今回ばかりは失敗だったと言わざるを得ないでしょう。
私の想像ですが、どうもこのドラマのプロデューサーは、「本作り」をスタッフに丸投げしてしまった可能性があります。

まずは小説家にベースとなる物語の構想を依頼して、それを叩き台にして
脚本担当者を中心に複数の人材で具体的なストーリーを構築するという手法はそれまでにないものであり、
やり様によってはいいものが作れる可能性があったとは思います。
しかし、そこには強いリーダーシップが不可欠であることも確かで、
その役割は当然プロデューサーが担うべきものだったと思いますが、
このドラマのプロデューサーは、脚本家を中心に「脚本協力」や「構成協力」、「リサーチ」といったスタッフをあてがえば、
ストーリーは勝手に出来上がると勘違いしてしまったのではないでしょうか。
製作責任者であるプロデューサーが「こんなドラマが作りたい」というビジョンを持つことなく、
スタッフに明確な作品の方向性を打ち出せなかったテレビドラマが視聴者の心に残る作品になるとは到底思えません。
映画にしてもテレビドラマにしても「作り手の志」が読み取れない作品を観て、人は感動することはありません。

そのような視点で、このドラマの「本作り」以外の部分に目を向けてみると、
やはりそこにもプロデューサーの勘違いを見出すことができます。
たとえば、製作者サイドが放送前にドラマの略称を設定するなどということは前代未聞で、
私は当初から製作者のそのような姿勢には違和感を覚えておりましたが、はっきり申し上げて調子に乗りすぎでしょう。
そもそもかつての名作ドラマの略称、たとえば「東ラブ」「ひと屋根」「ロンバケ」「ラブジェネ」・・・、
というものはドラマのヒットを大前提として自然発生的に誕生したものであって、
ドラマが評価される以前から製作者が「略称」を設定してしまったという事実は、
製作者の「このドラマは絶対にヒットする」という勝手な予断に基づいた「ノリ」を象徴しているような気がします。
「ゲツコイ」という略称がまったく一般化しなかったのは周知のとおりで、
ドラマのヒットという大前提が存在していないわけですから、それは当然のことです。

このドラマは、プロデューサーがその本来の仕事である「本作り」関してリーダーシップを発揮することなく、
「このドラマはヒットする」という予断に基づいて「本作り」以外の部分で机上の計算(打算)を巡らせてしまうという、
製作者がドラマ作りの基本を見失ってしまった作品と言えると思います。
そのような作品に対する視聴者の反応はきわめて正直でシビアなものであり、
中身がない(=製作者の志が感じられない)テレビドラマの存在価値は低くならざるを得ません。

最後に最終回のサブタイトルを引用してみます。

さよなら葉月蓮介!3人の女性へ贈るラストメッセージ!
究極のラブストーリーが迎える衝撃の結末!
涙、涙のエンディングへ・・・

新聞ラテ欄というものは多少は大げさになるものですが、それを差し引いても、
この文句には製作者と視聴者のこのドラマに対する気持ちの温度差が現れているのは間違いないでしょう。
どこが「究極」で「衝撃」だったのか、どこで「涙」を流せばよかったのか、少なくとも私にはわかりません。

(了)

関連記事 : (1)月の恋人 ~Moon Lovers~
(2)月の恋人 ~Moon Lovers~
(3)月の恋人 ~Moon Lovers~
(4)月の恋人 ~Moon Lovers~
(5)月の恋人 ~Moon Lovers~
(6)月の恋人 ~Moon Lovers~
(7)月の恋人 ~Moon Lovers~


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テンコ

こんにちは^^。
録画をやっと2倍速で観ました。
リアルタイムでちらりと観たら、イライラしてきたので、2倍速~3倍速でちょうどいい感じでした。

最初からゲツコイなんてドラマの略称がつけられていたんですか。驚きました。随分製作側は浮かれてたんですね~。今じゃ、ほとんど認知されていないのでは?ツキコイでもなく?なんだか笑えます。

>脚本担当者を中心に複数の人材で具体的なストーリーを構築するという手法はそれまでにないものであり

そうですか。ずいぶん難しい方法をとったものですね。
現場の様子は和やかで楽しそうにしていましたが、(最終回直前SPでやっていました。)なんだか緊張感が足りないというか、気合が抜けた感じもしました。
テレビ局は今回は大成功ではないにせよ、うまく終わったと思っているのだったら、困りますね。

>この文句には製作者と視聴者のこのドラマに対する気持ちの温度差が現れているのは間違いないでしょう。
どこが「究極」で「衝撃」だったのか、どこで「涙」を流せばよかったのか、少なくとも私にはわかりません。

本当にそうですね!すごい温度差!録画を見る気になれなくて困ったくらいですから、見るのが苦痛なドラマでした~。
私もこれから「月の恋人」の感想を書くかもしれませんが、ものすごく辛辣になりそうで怖い(笑)です。

by テンコ (2010-07-07 11:22) 

ジャニスカ

テンコさん、nice!&コメントありがとうございます!

私もこのドラマをリアルタイムで見たことは一度もありません。
2~3倍速があるとはうらやましい。私のレコーダーは1.5倍までしかありません(^^;。

「ゲツコイ」については失笑ものですよね。
「ツキコイ」じゃなくて「ゲツコイ」にしたところが、
ちゃんと会議で決めた感じがして、なおのこと滑稽に思えてきます。

http://wwwz.fujitv.co.jp/getsukoi/topics/topics00.html

こちらをご覧いただくと、製作者と視聴者の温度差は、
実は放送前から存在していたことがわかると思います。

このドラマの製作手法については、私の想像がかなり入っていますが、
そもそもフジテレビの伝統的なドラマ製作手法では、
「本作り」というものはプロデューサーと脚本家がマンツーマンで取り組んでいたはずです。
それに対して、このドラマでは原作を小説家に書き下ろしてもらったり、脚本関係のスタッフを多用したりと、
客観的な事実を取り出しても、どこか「頭でっかち」の手法が目立ちました。
小説家に原作を依頼した時点で、
このドラマのプロデューサーが「こんなドラマを作りたい!」というビジョンを欠いていることは、明白でしょう。

>テレビ局は今回は大成功ではないにせよ、うまく終わったと思っているのだったら、困りますね。

さすがにそこまではおめでたくないと思いますよ。
製作者サイドとしては最低でも視聴率20%は期待していたはずで、
それを見込んで、リン・チーリンさんをキャスティングして、上海ロケまでぶち上げたわけですから、
こんな結果でお金を出したスポンサーが納得するわけがありません。
営業担当者がスポンサーに対してどれだけ大げさな売り文句を使用したかは、
上記、放送前の「温度差」を見れば容易に想像がつくところです。

私としてはこうやってブログのネタになっただけでも、このドラマを見て良かったと思っています。
このドラマのプロデューサーお二人の次作には、かなりの「眉つば」で臨むことになるでしょう。
逆にそんな製作者の「頭でっかち」の手法に付き合わされた脚本の浅野妙子さんについては、
次作は「純粋な」オリジナル作品を大いに期待したいところです。

あとで、テンコさんのブログにも寄らせていただきます(^^)。
私はあえてストーリーには一切触れませんでしたので、
そのあたりに容赦なく突っ込みを入れてあげてください(^^;。


by ジャニスカ (2010-07-07 19:33) 

ジャニスカ

@ミックさん、いつもnice!ありがとうございます!
by ジャニスカ (2010-07-07 19:45) 

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